全国各地で大きな地震や大雨による土砂災害などが相次ぎ、備えの必要を感じている人は多いでしょう。とはいえ、平時から防災を意識するのは難しいもの。そこで注目されているのが、「備えない防災」と呼ばれる「フェーズフリー防災」です。日常生活に取り入れるべき対策や、災害時に注意すべきポイントについて、危機管理アドバイザーの国崎信江さんに聞きました。

多くの家庭では、防災用品は物置などにしまい、非常時に取り出して使うという認識ではないでしょうか。そうすると、何がどのくらい備蓄されているか、食料の消費期限は切れていないかなどを、定期的に確認しなければなりません。手間がかかる上に、いざというときに役に立たない恐れもあります。

フェーズフリー防災とは、災害が起きた時のために準備するのではなく、日常的に使っているものを災害時に役立てるという新たな考え方です。

国崎さんは、「例えば食品を備蓄する際、防災用のロングライフ商品を買い込む必要はありません。いつも使っているものを少し多めに買っておく『日常備蓄』をお勧めします。食べて数が減ったなら、その分を買い足せばいい。食べ慣れた食品であれば、非常時も安心して口にできます。家族それぞれが、好きなお菓子や飲み物をストックしておくといいでしょう」と話します。

災害に備えて、「持ち出し袋」を用意している人も多いはず。国崎さんは、「袋の中身は避難所に行くのか、在宅避難するかで違ってくる」と指摘します。在宅避難の場合は、持ち出し袋に食料や水を入れる必要はないそう。

「災害が起きて避難する場合、まず命を守ることが大切です。重たくてかさばる荷物を持ち出すのはリスクが大きい」と国崎さん。いったん屋外に避難する場合は、ヘルメット、ヘッドライト、応急手当用品など、必要最低限のものだけ持ち出すようにします。「その後、状況が落ち着いて家に戻ることができたら、必要なものを避難所に持って行けばいい。在宅避難なら、日常備蓄を活用します。一時避難用の持ち出し袋と、避難所で生活するための持ち出し袋の2通りを用意するのもいいかもしれません」とアドバイスしてくれました。

災害はいつどこで起こるのか分かりません。国崎さんは、外出時の災害発生に備え、日ごろからいくつかの防災アイテムをバッグに入れて持ち歩いているそうです。

(1)救急時止血用パッド:「災害が起きたらケガをする」を前提に準備。まず止血して命を守りましょう。
(2)モバイルバッテリー:薄型で軽く、フルで2回充電できるタイプ。スマホは災害時でも不可欠なアイテムです。常に充電できるようにしておきましょう。
(3)ヘッドライト:停電で真っ暗になった時に、明かりがあれば危険を回避できます。
(4)レインコート:100円ショップで売っているコンパクトなタイプ。防寒はもちろん、座る時のシートにも活用できます。
(5)携帯用簡易トイレ:いざという時、1個持っておくと安心です。
(6)ゼリー飲料:栄養補給だけでなく、水分補給にもなります。

「ほかにも、拭き取るタイプのクレンジングは必ず持っています。顔が洗えない時に役立ちます。それから、お勧めしたいのは、口腔ケア用品です。避難所では水は貴重なので、歯磨きができない場合が多いです。口の中がべたつくと気持ちが悪いし、清潔に保つのは健康上も大切です。口腔内で細菌が増えると、感染症になることもあります。水を使わない液体ハミガキが便利です」

国崎さんは「今ここで地震が起きたらどうするか」をいつもイメージしているそうです。日ごろからの意識がとっさの時に身を守る行動につながると考え、推奨しているのが「おうちDEキャンプ」です。

「おうちDEキャンプは、いざという時に落ち着いて行動するための予行訓練です。ライフラインが途絶えた時を想定して、一定時間、電気・ガス・水道を使わずに生活します。ライフラインのない環境を疑似体験することで、防災グッズの使い心地を試したり、必要な備蓄を見直したりできます。気分を出すために、リビングにテントを張ってみるのもいいかもしれません。楽しみながら、防災訓練ができます」

いつ起きるか分からず、避けることも難しい災害で、命を守り、被災によるストレスを少しでも緩和するために、防災の視点を日常生活に取り入れてはどうでしょう。

(読売新聞メディア局 後藤裕子)