東京都内にある我が家のマンションのベランダで昨夏、ハトが卵を産み、ヒナがかえって巣立った。ベランダはふんや羽根で汚れてしまい、以来、ハトを見かけると複雑な気分になる。春から初夏は被害が多くなる時期。なぜ身近なところで卵を産むのか。被害をどう防げばいいのか探ってみた。

昨年7月、窓を開けてベランダに出たら、隅にいるハトと目が合った。置いたままのプランターの土の上で、卵を温めているようだった。慌ててネットで調べたら、産卵すると卵や巣は撤去できないとある。環境省に聞くと、ハトは野生鳥獣として、鳥獣保護法により保護され、許可なく捕獲したり、卵やヒナがいる巣を撤去したりすることは禁止されているという。

マンションのベランダで卵を産むことはよくあるのか。

「珍しいことではありませんよ」と話すのは、鳥類学者で、森林総合研究所鳥獣生態研究室長の川上和人さん。都市部でみかけるドバト(カワラバト)は、もともと乾燥地帯に生息し、岩棚の隙間などを巣にしていた。開けた土地に立つマンションは崖に似ている上、公園や河原などでえさとなる種子を食べることができる。タカなどの捕食者にも狙われにくい。

産まれたハトの卵は2個。オスとメスが午前中と夕方に交代しながら、卵を温め、2週間強で黄色い毛が生えたヒナがかえった。「ハトはミルクで子育てするんですよ」と川上さん。オスもメスもピジョンミルクと呼ばれる液体を与えることができて繁殖力は強い。年に何回も産卵するつがいもいる。

日中は留守で、鳴き声は気にならなかったが、ふんが多くて困った。ふんには寄生虫などがいる場合もあるので、掃除が大変だった。

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東京都環境保健衛生課によると、保健所などに寄せられたハトに関する相談は、2013年度には381件だったが、22年度には774件に上るなど増加傾向にある。

鳥害対策を行う「日本鳩対策センター」(東京)によると、都市部ではマンションやビルの被害が多く、ベランダやサービスバルコニー、出窓の上などが営巣場所として好まれる。同社の近藤舞子さんは「ベランダに置く洗濯機や室外機の隙間なども好まれる。巣は枝を集めた程度の簡単なもので、巣を作らずに産卵することもある」と話す。

ハトの繁殖期は春先から秋だが、温暖化の影響で近年は時期が早まる傾向にある。同社は相談の増加を受けて、昨春、マンションでの被害対策に特化したウェブサイトも開設した。

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どんな対策をとればよいのか。駆除業者が加盟する公益社団法人「東京都ペストコントロール協会」専務理事の奥村龍一さんは「プランターや段ボール、人工芝など不要なものを放置しないようにしましょう」と話す。同じ場所で産卵を繰り返すこともあるので、一度産卵した場所は、ネットやワイヤを張ったり、室外機の隙間に入れないように水を入れたペットボトルを置いたりするといい。毎日ベランダに出たり、まめに掃除をしたりして、安全な産卵場所と思われないようにする。

巣作りに気付くために、日本鳩対策センターが紹介する4段階の被害レベルが参考になる。ハトが並べたとみられる枝があればすぐに撤去することが大切だが、産卵していたら、マンションの管理会社や保健所などに早めに相談する。奥村さんは、「早めの対策が重要です」と強調する。

ハトと人間の歴史は長い。「となりのハト」(山と渓谷社)の著者で、科学ジャーナリストの柴田佳秀さんによると、ドバトは、カワラバトを家禽化したものだ。古くは紀元前3000年の古代エジプトで飼育されていたとみられる。

日本では「続日本紀」に白いハトが献上されたとの記述があり、奈良時代にはいたと推測される。平安時代末期頃から、武神とされる八幡神の使いとして大切にされるようになった。平和の象徴となったのは戦後から。平和式典や五輪の開会式などで放鳥されるようになった。

以前は、ハトが好む高い建物が少なく、神社仏閣などをすみかにしていたが、1970年代頃からマンションなどもすみかになった。ふん害が問題になり、害鳥として扱われることも増えている。

柴田さんは「ハトは人の生活の変化に適応しながら生きてきた。ベランダに居つくのは困るので、適度な距離を保ちつつ、付き合っていきたいですね」と話す。

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我が家でハトが生まれて観察できたことは貴重な経験だったが、ふん害があるので二度はごめんだ。プランターを撤去するなどの対策のおかげか、今年はハトが入ってきていない。野鳥との付き合い方を考えさせられた。(読売新聞生活部 木引美穂)