30年以上に渡り、B2B企業のマーケティング支援を行なってきた庭山一郎氏は、日本企業が世界と戦うためには、部署を横断したマーケティングへの理解(マーケティング偏差値)を向上する必要があるという。

本稿では、企業がどのようにしてマーケテイングの力を強化していけば良いのか。また、現状の日本の企業が抱える課題について、庭山氏の著書『BtoBマーケティング偏差値UP』より一部ご紹介する。

※本稿は庭山一郎著『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。


トレーニングされたマーケターなら...

お客様の会社でよく耳にする言葉に、「品質は良いのに売れていない」があります。そんな時、私は質問します。

「それは誰にとっての品質ですか?」

多くの場合、この質問の答えは競合製品とのスペックの差であったり、自社の技術的な優位性であったりします。

もし正しくトレーニングされたマーケターが居れば、「こういう業種のこんな規模の会社で、その中のこんな部署の中でこんな課題を持っている人が大勢いて、その人たちにとってこれはこういうふうに良い製品です」と説明するでしょう。言い古された表現で言えば、これが「マーケットイン」です。


マーケティングの基本は、ビジネスパーソンの共通知識

マーケティングの最も原典的で普遍的なフレームワークに「STP」があります。もう40年以上も前にフィリップ・コトラーが提唱したものですが、この基本中の基本すら正しく理解している企業は少ないのが実情です。

簡単に言うと、「S」はセグメンテーションで、製品やサービスの市場を細分化するプロセスです。

「T」はターゲティングで、細分化した市場の中から、自社の製品・サービスが勝てる土俵(ターゲットセグメント)を探すプロセスです。

「P」はポジショニングで、ターゲットセグメントの中の企業や人々に対して、自社がここをターゲティングしたことを宣言し、なぜ自社の商材・技術・サービスはこの市場の中の課題を競合商材よりもより良く解決できるのか、というポジションを説明するプロセスです。

こうした基本的なフレームワークは、マーケティング部門の人だけでなく、もはやビジネスパーソンの共通知識であるべきです。

実際、米国や欧州のビジネスパーソンの多くは、これらをビジネススクールで学んでいます。ビジネススクールは経営者を育成する学校ですから、人事、財務、生産、営業、そしてマーケティングの基本的なフレームを教え、各分野の専門家の話を理解し、指示を出しレポートを読めるところまでを学ばせます。

経営幹部の大半がマーケティングの基礎的な理解と共通言語を持っていれば、それは非常に大きなアドバンテージになると私は考えています。

1870年に勃発した普仏戦争は、プロイセン王国とナポレオン3世率いるフランス帝国の戦争でした。ナポレオン1世時代に欧州を席巻した栄光を背景にしたフランスと、分裂したドイツの中の1国との戦いでしたが、結果はプロイセンの圧勝に終わりました。

その勝因は兵力でも兵器の質・量でもなく、作戦参謀と指揮官のレベルの違いだったと言われています。大モルトケが創り上げた欧州唯一の参謀本部を中心にした指揮命令系統と、それを具現化し現場で指揮する士官たちによる組織力で圧勝したのです。