プレジデント 2024年5月3日号 掲載

■「ロボットの着ぐるみを着た人間」が運用⁉

AIを活用した投資といえば、現在のところ「ロボアドバイザー(以下ロボアド)」が、その中心的存在になっています。ロボアドとは、AIが投資家のリスク許容度(どれくらいの損失なら受け入れられるかという度合い)や投資目標に基づいて最適な投資を提案したり、運用したりするサービスのことを指します。

国内では2016年にロボアド専門の事業者「ウェルスナビ」が登場したのを皮切りに、現在10〜15社でロボアドを利用することができます。ちなみに同社は、20年に上場。今年1月には預かり資産1兆円を超えたこともニュースになりました。

ロボアドは、「ファンドラップ」という投資アドバイスサービスの進化版といわれます。ファンド(投資信託)とは、複数の投資家から集めた資金を用いて、プロのファンドマネージャーが株式や債券などの金融商品に投資し、その運用結果を投資家に還元する仕組み。ファンドラップは、本来投資家が行うファンドの選択や管理などを、専門のファンドマネージャーが行うサービスです。

投資家の投資目標やリスク許容度に基づいて、ファンドマネージャーは最適な投資ポートフォリオを提案作成し、その運用を継続的に監視したり調整したりします。これにより、投資家は専門的な知識や時間を必要とせずに投資を行うことができるのです。ただし、このサービスは通常、資産1億円程度以上の資産家に、2〜3%という高額な手数料で提供されていました。

しかし、ロボアドの登場により、これらの運用作業の大半がAIによって自動化され、手数料が大幅に削減されました。AIが投資家の代わりに最適なファンドの組み合わせを提案し、市場の動向に応じてポートフォリオのバランスを自動的に調整してくれるようになったのです。数百円程度から投資を始めることができ、手数料も無料〜1%程度と大幅に安くなりました。

ユーザーはロボアドの口座を作るのと同時に、投資の目的やリスク許容度などに関するいくつかの質問に答えるだけで、運用がスタート。お抱えのファンドマネージャーというと言い過ぎですが、それぞれのユーザーに合った“セミオーダー”のポートフォリオ運用をしてくれるのが、ロボアドです。

ただ一つ、注意していただきたい点があります。ロボアドが活用しているAIは1980年代に始まった第2次AIブーム時に生まれたエキスパートシステムの一種です。これは、人間が考え出した理論や知識をコンピューターに教え込み、それに基づいて専門家のようなアドバイスを提供するシステムです。その後、2000年代に入ると、ディープラーニングが誕生して第3次AIブームが始まります。ロボアドに使われているAIは、その流れの中から出てきた今話題の生成AIと呼ばれる高度なAIとは異なります。

そこでロボアドは「ロボットの着ぐるみを着た人間」といわれることがあります。中身の一部は人間のため、客観的で優れた投資パフォーマンスを過大に期待するのは早計なのです。