PRESIDENT Online 掲載

■政治資金規正法違反事件を受けた逆風

4月28日投開票の衆院3補選は、午後8時の投票終了と同時にNHKなどメディアが立憲民主党3候補に当確を打った。自民党は、唯一候補を擁立した衆院島根1区で大敗し、東京15区、長崎3区の不戦敗と合わせて0勝3敗に終わった。

一義的には派閥による政治資金規正法違反事件を受けた逆風に抗し切れなかったものだが、岸田文雄首相(自民党総裁)の政権運営は厳しさを増すばかりで、党勢の立て直しも視野に入ってこない。

衆院の解散・総選挙は当面困難な情勢で、岸田首相は9月の自民党総裁再選への展望もすっきりとは見通せなくなっている。永田町では直ちに「岸田降ろし」は起きないにしても、「ポスト岸田」をめぐる動きは始まっている。

■島根「保守王国」は既に崩壊していた

衆院島根1区補選は、自民党の細田博之前衆院議長(旧細田派会長)の死去に伴うもので、立憲民主党元職の亀井亜紀子氏が、自民党新人で財務官僚出身の錦織功政氏との一騎打ちを制した。島根県は、衆院に小選挙区制が導入された1996年衆院選以降、自民党が小選挙区の議席を独占してきた唯一の県だった。

錦織氏の敗因は「政治とカネ」の問題への批判を浴びたためだが、島根1区特有の事情もある。弔い選挙は本来、後継候補に有利に働くが、細田氏は旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との深い関係、女性記者へのセクハラ疑惑などへの説明責任を果たさないまま2023年11月に死去し、その後、安倍派(旧細田派)の政治資金規正法違反事件が発覚したため、錦織氏はこうした「負の遺産」に苦しんだ。錦織氏は、細田氏の父である細田吉蔵元運輸相の初当選から64年にわたる細田家の実績に触れることもなく、選挙戦を終えた。

自民党島根県連も一丸となって戦う態勢ではなかった。島根県議会の自民党は、2019年に丸山達也県知事が自民党推薦候補を破って初当選したのを契機に2派に分かれ、2期目も引き続き、その第1会派が立憲民主党や国民民主党と組んで県政を運営している。竹下登元首相、青木幹雄元官房長官らが築いた「保守王国」は既に崩壊していたのが実情だ。