PRESIDENT Online 掲載

相続問題は、遅かれ早かれ誰の身にも降りかかる。親が亡くなれば、たとえ相続税がかからなくてもその財産を受け継ぐことになるからだ。2万件以上の相続に関わってきた税理士の天野隆さんは「相続に格差はつきもの。そこには『お金』の格差と『心』の格差の2種類がある」という――。

※本稿は、天野隆、税理士法人レガシィ『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■「本家相続」の伝統が格差を生む

相続に格差はつきものです。1つには、主に長男が家を引き継ぐ「本家相続」の伝統が大きく影響しています。長男に限らず、家業を継承する次男や長女、さらには養子などの継承者が引き継ぐ相続も含まれます。

要するに継承者の1人に大半の遺産が相続されることを指します。それに対して、相続人が均等に相続するという考えに基づいた相続を「均分相続」といいます。

両親ともに亡くなったのちに、きょうだいで財産を分ける「二次相続」で見ると、わが社レガシィにおける事例では、本家相続の割合が過去4年(2018〜2021年)平均で60%と、半数以上を占めています。その意味で、きょうだいの間での「相続格差」が、どうしても生じてしまうのでしょう。

そうなると、「兄貴はあんなにもらったのに、自分はこれだけか」「私だってお母さんの世話をしたんだから、もっともらっていいはず」ということになり、モメる原因となります。

一方、私が相続のお手伝いを長年やってきて実感したのは、相続によって生じるもう1つの格差です。それは、円満に相続が済んだことで平穏で和やかな生活を送れる家族と、モメにモメた末に相続が終わっても不満が残って幸せを感じられない家族との格差です。

■現場で実感した2つの相続格差

つまり、「相続格差」には、次の2種類があるわけです。

①現金や不動産など、財産の分け方の不平等による格差
②相続によって幸せになったか、モメて不満が残ったかによる格差

おもしろいのは、①で格差があったからといって、それが②の格差には必ずしも通じないことです。財産の分け方が不平等であったとしても、みんなにありがたい気持ちが残る相続もあります。逆に、財産が平等に分けられたのに、モメて嫌な気持ちが残る相続もあります。

はたして、2つの「相続格差」のどちらが重要なのでしょうか?

私は、②の「相続格差」を重視すべきだと思います。

相続が終わったあとで、私に向かってぼそっとつぶやいた方がいました。

「こんなにモメるんだったら、相続財産なんてなくてもよかった」

このひと言がすべてを表していると思います。もちろん、お金や不動産を引き継がなくてもよかったわけではないでしょうが、そのプラスよりも家族がモメたマイナスのほうが、大きなストレスとなって嫌な気持ちが残ってしまったのです。

①と②の最大の違いは、①は目に見えるけれども、②は目に見えないものだという点です。目に見えるものも大切ではありますが、人の幸せはそれだけでは測れません。むしろ、目に見えないものが大切なのです。