Noriyuki Hirata

[東京 19日 ロイター] - 19日の東京市場で日経平均は一時1300円超安に下落した。中東情勢、米金融政策、半導体株人気を巡る市場の楽観論が打ち消された格好だ。強気一辺倒だった市場のセンチメントに変化が出てきたことは否めず、容易に霧が晴れるかは不透明な情勢だ。

「いいとこ取りの上昇相場から、悪材料ばかりが目に付く局面になってきた」とニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストはこのところの相場を振り返る。

きょうの日本株の下げが強まったのは、前場の中盤からで、背景にあったのは中東情勢の緊迫化への警戒感だ。ABCニュースなど複数のメディアが、イスラエルのミサイルがイランの拠点を直撃したなどと伝えたことが嫌気された。

中東情勢では、前週末のイランによるイスラエルへの報復攻撃で潮目が変わったとみられている。イスラム組織ハマスとイスラエルによる戦火が、中東に広がりかねないとの懸念に発展した。

イスラエルには米国がさらなる報復への自制を求めていたこともあって、抑制的に振る舞うとみられていた中での反撃となり、事態が複雑化してきたとの市場の懸念が強まった。週末要因が重なったことも、いったん投資家が手仕舞う動きを促した。

<米金融政策やAI人気も曲がり角>

もっとも、株安基調は朝方から始まってもいた。米連邦準備理事会(FRB)高官の発言で米国での利下げ期待の後退に加え、利上げの思惑が浮上し、嫌気する動きが強まったためだ。米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は「経済指標で目標達成に利上げが必要と示されれば、当然そうしたい」と発言した。

米金融政策を巡る潮目の変化は15日に発表された3月の小売売上高が意識される。早期利下げの思惑が後退し、金利が上昇して米ハイテク株安が促された。市場では、年初に年内6回の利下げが見込まれ、株高が後押しされた側面がある。ところが、米国のインフレ沈静化は想定に反してスローダウンし、利下げ回数の織り込みが徐々に減少する中で、株安基調となってきた。今度は利上げの可能性まで取り沙汰されたことで、株売りの圧力が強まった。

株高の原動力になった半導体株への期待にも変調がみられる。オランダ半導体製造装置メーカーのASML株が17日の第1・四半期決算発表後に急落した。昨年第4・四半期から純利益、売上高が減少したほか、新規受注が予想を下回ったことが嫌気された。

18日に台湾積体電路製造(TSMC)が発表した決算は「内容は悪くなかったが、生成AI(人工知能)の爆発的な成長を期待していた投資家にとっては、やや物足りなかった」(国内証券・シニアマーケットアナリスト)との受け止めが聞かれた。注目2社の決算を受けて、これまでAI人気を背景に買われてきた半導体関連株は冷水を浴びせられた格好となった。

市場では「AI関連以外の半導体需要見通しは弱いとの見方もあり、これから本格化する決算でそのような傾向が鮮明になると、半導体株は調整色を強めやすい」(三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジスト)との見方が出ている。

<霧は晴れるか>

後場の日経平均は下げ渋りもみせた。「後場からの戻りを見ると、押し目を待っていた人がいるのだろう。中東での緊張状態が発展しなければ、週明けには買い戻しが強まる可能性がある」(フィリップ証券の増沢丈彦・株式部トレーディング・ヘッド)との見方がある。

一方、モメンタムが主導した株高の逆回転の強まりへの警戒感も根強い。

海外短期筋のCTA(商品投資顧問業者)は米国の利下げ期待を背景に昨秋から株買い目線で日本株の上昇にも寄与してきた。JPモルガン証券の高田将成クオンツ・ストラテジストは、CTAの昨年12月からの損益分岐点は3万7200円程度と試算しているが、足元の水準はこれを下回っている。

「現時点ではまだみえてはいないが、仮に米利下げ期待がなくなり、リセッションの織り込みが入るようなら、3万5300円がCTAの次の節目になり得る」と指摘する。この水準は、昨年7月以降の損益分岐点だという。地政学リスクが落ち着くまでは悲観と楽観を繰り返しそうだと高田氏はみている。

海外勢の間で日本株人気が高まった「ジャパントレードの巻き戻し」(井出氏)が強まる中、次回の米連邦公開市場委員会(FOMC、4月30日─5月1日)に向けて当局者が金融政策に関して発言できなくなる「ブラックアウト期間」に入り、政策面での手掛かりは経済指標のみになる。日米の企業決算がこれから相次ぐ中で、米ハイテク大手によるAI向け投資や半導体の復調が市場の期待に届くかどうかも不透明だ。

日経平均は割高感が薄れてきたとして「買い下がるスタンスでいいのではないか。ただ、簡単には霧は晴れそうにない」と、ニッセイ基礎研の井出氏は話している。

(平田紀之 取材協力:佐古田麻優、浜田寛子 編集:橋本浩)