ターボ化の先行3メーカーと立ち位置が違う750ccターボ!

1980年を迎える頃、アメリカでは日本4メーカーからターボチャージャーのバイクが出てくるという噂が飛び交っていた。 ひとつはアメリカがハーレー擁護を目的とした700ccを超えるバイクには45%もの高い関税を5年間かけるという施策への対策。 500〜650ccでもターボ化で750cc並みかそれ以上のパフォーマンスが可能になる。 そして1981年、ホンダCX500ターボを皮切りに翌年ヤマハからXJ650ターボ、続いてスズキXN85ターボのそれぞれ700cc以下のターボチャージャーが顔を揃えた。

しかしカワサキは既に1978年、1,000ccのZ1Rをベースにアメリカで後付けしたターボの特別車を限定発売、SS1/4マイルを10.05秒(非公式)と途方もないダッシュ力で話題となっていた。 そして新たに1981年のモーターショーへZ750FX(Z650ザッパー系ベースの738cc)をターボチャージャー化したプロトタイプがリリースされた。

ターボの異次元パワーを象徴するかのような武骨でワイルドなデザインで、110HP/8,500rpmと9.5kgm/6,500rpmのTOPスピード250km/hとひとクラス上のパフォーマンスを発表していた。

ターボラグへの配慮よりターボの酔える絶対パワーに焦点!

しかし、その750ターボはすぐに市販化されず、1984年にようやくデリバリーが開始される。 66.0mm×54.0mmの738cc、最高出力は112PS9,000rpmで最大トルクも10.12kgm/6,500rpmとプロトタイプよりさらにパワーアップ、SS1/4マイルも10.71秒の当時世界最速。 4本の排気管が集合したエンジン前方に位置するターボはHT10-B型という日立製で、もちろんカワサキの750ターボ専用だが、同系で日産マーチ・スーパーターボなど当時乗用車で流行っていたダウンサイズの高性能化に採用された、最大ブースト圧が0.65kg/cmの排気量が大きめの仕様だった。

この実際のデリバリーまで時間を費やしたのには、カワサキなりの決断が下された経緯も関係している。 ライバルたちが700cc以下でターボラグも気にかけブースト圧が控えめで、ユーザーが期待するいわゆるターボのドッカーンと突き飛ばされるような劇的な加速感が得られていないのに対し、ターボラグへ過度に神経質とならず3,500rpm以下では効果がなく、3,500rpmを超えるといきなり強烈に加速する特性へと割り切ったチューンとしたからだ。

そんなワケでカワサキは直線番長に割り切り、ワインディングのコーナーでは3,500rpm以下で走らないと、途中から急激なトラクションで恐怖のドン底に陥るといった評価を受け容れていた。 そんな極端なキャラクターが、カワサキ・ファンにはたまらなかったようで、街中のダッシュで最速マシン!という広告のキャッチコピーがウケていたのだ。

またそれから間もなくすると、あの全てを高性能化したNinja900のデビューが控えていたことも、カワサキが割り切る勇断の背中を押していた。 例の関税を一部アメリカ工場で生産するなど、回避行動はとっていたものの、GPz1100より遥かに高価だったにもかかわらず、750ターボが好評だったのはお国柄もあったに違いない。 このドッカーンパワーは、アメリカのファンには相変わらず愛されていて、ビンテージ・スポーツの話題には750ターボが必ず登場する人気車種となっている。