阪神が28日、甲子園球場で行われたヤクルト戦に4−3で逆転勝利、貯金を今季最多「5」として首位をキープした。岡田彰布監督(66)はこの5試合で打率.095と大不振の佐藤輝明(25)を今季初めてスタメンから外し「6番・三塁」で起用した糸原健斗(31)が先制タイムリーを含む3安打。7回には二死一、二塁から大山悠輔(29)が打ち上げた打球が浜風の影響を受けて、ヤクルトのドミンゴ・サンタナ(31)のグラブが届かぬ、ラッキーな2点タイムリーとなり逆転に成功した。6回から2回無失点の加治屋蓮投手(32)に今季2勝目がついた。指揮官がチームに植え付けている競争意識と盤石のブルペンが快進撃の原動力だ。

 「6番・サード」で抜擢した糸原が先制打を含む猛打賞

 甲子園球場がざわついた。
阪神はヤクルトとのシリーズを「ゴールデンウィークこどもまつり」と称して、スタメン紹介を特別に子供たちが行い、スコアボードには選手の名前を「ひらがな」で表示していたが「6番・サード」に「さとう・てるあき」ではなく「いとはら・けんと」とコールされたのである。
佐藤の“スタメン落ち”は、今季初で昨年8月17日の広島戦以来。スタメンでの連続出場は61でストップした。試合後、岡田監督は「最近の内容を見ていて(糸原を)いつ(スタメンで)行こうか、という感じだった。昨日の内容を見ても、一度、糸原でいこうというのがあった。ずっと代打でもヒットを打っている。こっち(甲子園)に帰ってから本人も(スタメン出場の)準備をしていたんじゃないか。そういう感じがする」と理由を明かした。

 選手と密にコミュニケ―ションは取るわけではないが、こういう心の機微をつかむのが上手い。
佐藤は、この試合までの5試合で打率.095、11三振と深刻な打撃不振。ことごとくボールになる変化球を振らされて、ボールの見送り方も悪い。ベンチが我慢できる限界は超えていた。一方の糸原は、代打で3試合連続ヒットと結果を残していた。
岡田監督の“辞書”には「勝っているときは動くな」と「勝っているときこそ動け」と2つの考え方がある。チーム状況が良ければ動かないが、チーム状況はそれほど良くないが勝ち星に恵まれている時には動く。「あと1、2点は取りたい」と、打線を問題視していた岡田監督は、冷静に現状を見極めて、サトテルを外し、糸原抜擢を決断したのである。
ヤクルトとのシリーズ初戦に木浪が3失策すると翌27日のゲームでは小幡をスタメンで使った。まだ2024年のチーム戦力が固まっていない時期だからこそ、岡田監督は競争意識を植え付け、連覇へ向けて長いシーズンを戦う土台を作っておこうと種を蒔いているのだ。
その岡田采配に糸原は見事に応えた。
2回無死一、三塁の先制機にカウント1−2からヤクルト先発の小澤が投じた見送ればボールのフォークにバットを合わせセンター前へ弾き返した。糸原は4回にも一死から内角ボールを飛び上がるようにしながら逆方向へ運ぶ、いわゆる“変態打ち”で2打席連続ヒット。8回には先頭打者としてレフト前ヒットで出塁して猛打賞である。

 先発の才木は、サンタナ一人にやられた。
4回に先頭の村上を四球で歩かせた。岡田監督が口を酸っぱくして注意している与えてはならない四球である。続くサンタナの打球は、左中間フェンスの最上部クッションの切れ目にぶつかるタイムリー二塁打。同点に追いつかれると5回にも、二死一、三塁でサンタナに粘られ、フルカウントからストレートを引っ張られた。ジャンプした糸原のグラブをかすめタイムリーとなった。さらに続く山田にも不用意に入った初球のカーブをレフト前へ運ばれ1−3となった。
しかし阪神は反撃を開始する。その裏、先頭の近本がレフトの左を襲った打球にサンタナがスライディングキャッチを試みたが、捕球できずに打球は転々とフェンスまで転がり三塁打となった。サンタナは無理するような打球ではなかった。
中野が犠飛を決めて1点差。阪神は6回から加治屋を送りこむと、ヤクルトも小澤に代打を送りゲームはブルペン勝負へともつれこむ。こうなると救援防御率1点台の阪神と3点台のヤクルトとの差が出る。阪神ペースである。
「打順の巡り合わせで回ってきたら代打だった。加治屋が一番投げてなくて元気だったので2イニング。全然問題なしに送り出せた」
6回の攻撃はたまたま小幡で途切れた。加治屋まで回ってくると代打の準備をしていたが、岡田監督は続投させた。加治屋は、先頭の丸山に四球を与えたが、オスナを一塁へのファウルフライに打ち取り、続く村上の打席で、盗塁を仕掛けた丸山を梅野が刺し、結局、3人で抑え、その裏の逆転劇へつなげるリズムを作った。
7回、3番手の大西に対して代打の前川がセンター前ヒットで出塁した。だが、続く近本は、作戦カウントにならず、ベンチが動けないまま強打して併殺打に倒れた。だが、ここから粘るのが阪神の強さである。中野、森下が連打。森下は11試合連続ヒットである。二死一、二塁として大山は、高めに手を出し打球をポーンと打ち上げた。岡田監督は「打った瞬間、ちょっとあきらめた」という。
しかし気になる点もあった。
「外野が深いなあと思っていた。複数ランナーがいてたんで。向こうも1点勝ってるということで」
1点差で逆転の走者もいる。サンタナの守備力を考え、長打を警戒して、逆転だけを阻止するためにヤクルトベンチはサンタナの守備位置をやや下げていたのである。
神風が吹いた。その打球はレフト、センター、ショートの間にある魔界に飛び、ライトからレフトへ吹く浜風に押されて戻った。あわててサンタナがダッシュしたがグラブは届かずポテンヒットとなった。二死だったこともあり一気に2者が生還して逆転に成功した。
「浜風が味方してくれたんで。へへへ。良かったです」
お立ち台に指名された大山も笑うしかなかった。
阪神OBの1人は「ライトからレフトへ吹く甲子園の浜風も、季節や気温によって風向きが変わる。特に気温が上がると上空で舞うんだよね。サンタナの守備力と守備位置を考えるとショートの長岡が深く追って捕球しなければならなかったと思う。こういうミスを今の阪神は逃さない。ブルペンの能力の差も顕著だが、そこが1点差に強い阪神と逆に弱いヤクルトの差では」と分析していた。

 岡田監督は、流動性のダブルストッパーの1人、ゲラを先に8回にマウンドに送った。キーマンの5番サンタナ、山田、長岡と並ぶ打順。サンタナ封じと共にヤクルトが誇る左の代打陣が出てくるのは9回だと踏んで、ゲラ、岩崎の順番にした。ゲラは三者凡退。岩崎も一死から代打の塩見にヒットを許すが、西川、丸山を連続三振。6回以降を無失点リレーで阪神得意のパターンでゲームをクローズした。
今日30日からは敵地広島での3連戦。糸原のスタメン起用は継続されるだろう。代打で8回にチャンスをもらったサトテルは、またボール球を振って三振した。岡田監督はシンプルなメッセージを悩める大砲に伝えた。
「這い上がるって?ゲームで打つことですよ。簡単ですよ。ボールを振らないでストライクを打ってくれたらいいと思う」
長いシーズンを考えると一発のあるサトテルは相手バッテリーにプレッシャーを与える意味でも復活してもらわねば困る戦力である。だが、連覇を狙う戦闘集団に結果の期待できない状態の佐藤にチャンスを与え続けるような“甘さ”はない。
「広島で最後のビジター。ある程度、今年のチーム力も分かってきたし、今日の才木は5回だったけど、ある程度先発が投げている。誰に勝ちがつこうと後ろも今の状態はすごくいい流れができている。ヒットは出てるが、もうちょっと早いイニングで点数が欲しい。そうすれば、もうちょっと先発が楽に投げられるかも分からない」
初戦は西勇vs大瀬良のマッチアップだ。