パリ五輪のアジア最終予選を兼ねたAFC・U-23アジアカップの準決勝が29日(日本時間30日)、カタールのジャシム・ビン・ハマド・スタジアムで行われ、U-23日本代表が2−0でU−23イラク代表を撃破し、8大会連続12度目の五輪出場を決めた。前半28分にFW細谷真大(22、柏レイソル)のゴールで先制した日本は、同42分にMF荒木遼太郎(22、FC東京)が追加点を決めて逃げ切った。パリ五輪の組み合わせもかかる5月3日(同4日)の決勝で、U-23ウズベキスタン代表と対戦する。

 イラク戦で見せた今大会ベストゲーム

 勝てばパリ五輪出場が決まり、負ければU-23インドネシア代表との3位決定戦に回る大一番で、U-23日本代表が今大会5戦目にしてベストゲームを演じた。
イラクに2−0で快勝し、歓喜の雄叫びをカタールの夜空へ響かせた直後のフラッシュインタビュー。前半に細谷と荒木が決めたゴールをともに絶妙のパスでアシストした、キャプテンのMF藤田譲瑠チマ(22、シントトロイデン)が胸を張った。
「本当にこのチームは強くなったし、まだまだ強くなると思います」
日本を優位に立たせる先制点が生まれたのは前半28分だった。
自陣から藤田が放ったロングパスに細谷が反応。ジャンプした体勢から右足を駆使したトラップで一気にペナルティーエリア内へ抜け出し、食い止めようと必死に追走してきたイラクのキャプテン、DFザイド・タシーンを巧みなターンでかわす。次の瞬間に右足をボールに柔らかくヒットさせ、コントロールした一撃をゴール右隅へ流し込んだ。
今年に入って所属する柏、アジアカップ代表に抜擢された森保ジャパンで無得点が続き、もがき苦しんできたストライカーは、開催国のU-23カタール代表を延長戦の末に振り切った準々決勝の勝ち越し弾に続くゴールをホッとした表情で振り返った。
「前を向いた瞬間にチマがうまく浮き球でパスをくれたので、同じようなシチュエーションが前にありましたけど、今回は落ち着いて流し込めたと思います」
14分後には今大会で無得点が続いていた荒木が共演した。
肉弾戦を制した左サイドバックの大畑歩夢(23、浦和レッズ)が、左タッチライン際から中央へドリブル突破。すかさずゴール中央へ供給したパスを藤田がワンタッチで左前方へはたき、あうんの呼吸で抜け出した荒木が再びゴール右隅へ流し込んだ。
東福岡高から鹿島アントラーズ入りして2年目の2021シーズンに、10ゴールをマークしてベストヤングプレーヤー賞を受賞。その後は不振に陥るも、今シーズンから期限付き移籍したFC東京で5ゴールをあげて復活し、U-23代表にも再び名を連ねた身長170cm体重60kgの小柄なアタッカーも万感の思いを言葉に変えた。
「自分を犠牲にしてでも、足がつってでも走って、日本のために戦いたいと思っていた。いままでやってきたことをすべて出せて最高です」
今大会の決勝進出とともにパリ五輪出場をかけた戦いで目標を成就させたが、五輪本番でのメダル獲りをかけた戦いはこれから本番を迎える。まずは中3日の5月3日(日本時間同4日)に行われる決勝を制し、23歳以下のアジア王者を是が非でも獲りたい。
16カ国が出場するパリ五輪のグループリーグ組み合わせはすでに決まっている。未定だったアジア勢は2021年の東京五輪の成績をもとに、アジア最上位の4位入賞した日本が、パラグアイ、マリ、イスラエルが待つグループDに入る予定になっていた。
しかし、今大会中にレギュレーションが突然変更されて、優勝国がグループDに入る形に改められた。もうひとつの準決勝でインドネシアを2−0で撃破し、初の五輪出場を決めたウズベキスタンを破れば当初の予定通りグループDに入り、逆に準優勝となればスペイン、エジプト、ドミニカ共和国が待つグループCに入ることになった。

 グループDにはヨーロッパ勢がいないが、パラグアイは五輪3連覇を目指したブラジルが敗退した南米予選を1位で通過。マリには3月の国際親善試合(サンガスタジアム by KYOCERA)で、個の力と組織力の両方で後塵を拝して1−3のスコアで完敗した。
特にヨーロッパ勢が五輪へベストの陣容で臨まないケースが多いため、現時点でグループDとCのどちらが日本にとって優位なのかは一概には断言できない。それでも藤田はチーム全員の思いを代弁するように、フラッシュインタビューでこう語っている。
「パリ五輪の出場権獲得は自分たちにとって最低限の目標だったので、まずはそれを達成できて嬉しく思いますけど、自分たちが狙っているのはアジアの頂点なので」
決勝を終えて対戦国が定まった後には、パリ五輪世代のベストメンバーを招集する上で、日本サッカー協会(JFA)としての“戦い”が火ぶたを切る。
国際Aマッチデー期間外の開催となった今大会には、大岩剛監督(51)が望んだすべての選手を招集できたわけではない。国内組は1クラブ最大3人の形で協力体制を得たが、シーズンが佳境に差しかかっている海外クラブ勢の招集は難航した。
例えば大岩ジャパンの「10番」を背負ってきたMF鈴木唯人(22、ブレンビー)。移籍1年目で10ゴールをあげ、直近の6試合では6ゴール4アシストと絶好調のアタッカーを、同じく国際Aマッチデー期間外の開催となるパリ五輪に招集できるかどうか。
同じ図式が、2001年6月生まれで実はパリ五輪世代でもあるMF久保建英(22、レアル・ソシエダ)にも当てはまる。ヨーロッパ組に関しては、今夏に新たなクラブへステップアップを果たせば、新シーズンへ向けた準備期間にクラブを長期にわたって離れる状況を余儀なくされる事情もあり、必然的に招集へのハードルも上がってくる。
同時進行で年齢制限に関係なく、最大3人まで招集できるオーバーエイジの選考も進めなければいけない。大岩監督は昨秋の段階でオーバーエイジ枠の活用を明言。顔ぶれについて「みなさんが期待するような名前は、当然リストにある」と語っている。
今大会では木村誠二(22、サガン鳥栖)や高井幸大(19、川崎フロンターレ)が奮闘したものの、層の薄さが指摘されてきたセンターバック陣が候補となる可能性が高い。その場合は森保ジャパンの常連である板倉滉(27、ボルシアMG)や左サイドバックにも対応できる左利きの町田浩樹(26、ユニオン・サンジロワーズ)の名前が上がってくる。
終盤にきて細谷が奮起し、2試合連続ゴールをあげたフォワード陣でもオーバーエイジを活用するとすれば、昨年3月に船出した第2次森保ジャパンで最多の11ゴールをあげている上田綺世(25、フェイエノールト)も候補に挙がってくる。
いずれにしても、パリ五輪本番の対戦国が定まらないことには何も始まらない。パリ行きを決め、1996年のアトランタ大会から続く五輪連続出場を「8」に伸ばした心境を「ホッとしました」と明かした大岩監督は気持ちも新たに、2年前のAFC・U-23アジアカップ準決勝で0−2と完敗したウズベキスタンにリベンジするための準備を進めていく。