中日が1日、本拠地バンテリンドームの横浜DeNA戦に1−12で大敗を喫して4月4日以来、27日ぶりに借金生活に転落した。先発の涌井秀章(37)が1回に8安打を集中されて9失点。1回を投げ切ることができずプロキャリア最短での屈辱KOとなった。投手力を軸に最下位脱出を狙う立浪竜にとってローテーション投手の崩壊は危険信号。勝率5割に留まるのか、ズルズルと借金地獄に陥るのか。中日が5月に正念場を迎えた。

 狙い打たれてわずか8球で4失点

 「9」…悪夢の数字が1回のスコアボードに刻まれた。
ここまで2勝0敗で防御率0.77と抜群の安定感を誇っていた涌井がまさかの背信。わずか30球で1回を投げ切ることができずに降板した。もちろんプロ20年目にしての最短KO。初回9失点はバンテリンドームが開業して以来、初めてとなる屈辱だった。反撃も細川の7号ソロによる1点だけに留まり、1−12の大敗。ついに勝率は5割を切り借金生活へ。SNSやネット上のドラ党も黙ってはいられない。当然のように非難や嘆きの声が殺到した。
「あれだけ強かったドラゴンズはどこへ」
「あまりにも酷い負け方」
「今季の野球は終了」
「一体このチームはどうなっていくのだろうか」
「今季は期待できると思ったが自慢の先発ローテが総崩れで元のドラゴンズに戻ってしまった」
中には「申告敗戦制度があれば」との皮肉の投稿もあった。
なぜ涌井は記録的な大炎上を喫したのか。
先頭の桑原に外角低めに投じた初球のストレートをセンター前に弾き返された。ルーキーの度会に代わって「2番・ライト」でスタメン抜擢された蝦名には2球目の外角スライダーを逆方向のライト前へ運ばれた。無死一、二塁とされて佐野には、カウント1−2とストライクを先行させながら、外のシンカーにバットを合わせられた。打球がふらっと上がり、打ち取ったかに見えたが、突っ込んできたセンターの上林のグラブにうまく収まらず、3連打で先取点を与えた。さらに無死一、三塁で、牧に初球の外角低めのシンカーをしっかりとためてレフトスタンドにもっていかれた。典型的な狙い打ち。わずか8球で4失点である。
立ち上がりの涌井は、腕が振れずボールを置きにいった。球威もキレもなかったが、反応で打った佐野を除くと、すべて配球を読まれて狙い打ちされていた。
セでタイトル獲得経験のある某評論家はこう分析した。
「桑原と蝦名は、ファーストストライクをストレートでも変化球でも外角低めに集めてくることを読み、センターから逆方向に逆らわず打つことを意識していた。牧は完全に外のシンカーを読んで打ちにいった。涌井の調子もあるだろうが、問題は桑原、蝦名の打撃内容を見て、狙いを察知できなかったバッテリーの適応能力の無さだろう。横浜DeNAは涌井がピンチでは外角中心に変化球でカウントを整えるというバッテリーの傾向を研究して狙ってきた。しかも早打ち。ストライクはいらないし、思い切って内角に見せ球を使うとか、あえて狙い球近くのボールゾーンで誘うとか。駆け引きが必要だった。涌井のコントロールがあれば、それができたはずだが、まったく工夫が見られなかった」

 問題なのは牧の本塁打の後にも涌井―木下のバッテリーの配球に工夫が見られなかったことだ。
続く宮崎にも初球のスライダーをフルスイングされてレフトフェンス直撃の二塁打。元中日の京田にも、初球の外角に甘くきたシンカーを狙われ、それはファウルになったが、2球目の浮いたストレートをミートされた。打球は涌井を強襲してセカンド前まで転がる内野安打となった。関根への四球などで、二死満塁とされて打者一巡。もう涌井は制球力を失っていた。時間をかけていい場面にもかかわらず、積極打法の桑原にまた初球の甘く浮いた初球のスライダーをセンターへ返された。ボール球から入ってよかった場面。続く蝦名にも、ど真ん中のストレートを逆方向へ弾き返された。0−7となった時点で、渋い顔をした立浪監督がベンチを出て交代を告げた。
スクランブル登板した梅津も流れを止めることができず、佐野に見送ればボールの高めのボールをライト線に引っ張られて9点目を献上。牧を空振りの三振に斬って、ようやく打者13人、28分にも及ぶ長い1イニングが終了した。
横浜DeNA打線は、元々早打ち傾向にあるが、今季からはオフェンスチーフコーチにアナリストだった鶴岡氏を就任させ、さらに思い切ったデータ野球へ舵を切った。全員が団結して狙い球を絞って攻略してくる。データを使った攻防には、表の配球、裏の配球の“いたちごっこ”の側面もあるのだが、涌井―木下のバッテリーは、その“いたちごっこ”さえできずに“大炎上”してしまったのである。ベテランの涌井が木下のサインにクビを振って修正すれば、どこかで防ぐことができたかもしれなかったが、それもできなかった。
涌井は「チーム全体に迷惑をかけ、盛り上がってくれたファンにも申し訳ないことをした。次回しっかり調整します」との広報談話を残している。
立浪監督は2回に木下を交代させた。指揮官がその交代で伝えたかったのは「頭を使え」「察知せよ」とのメッセージだろう。
リーグでトップクラスの投手陣を揃えながら捕手のリードは中日の課題でもある。4月25日の巨人戦では2−0で迎えた6回二死一、二塁で、開幕投手の柳が、坂本に逆転3ランを浴びて、1球で勝利を逃した。初球のカーブにまったく反応しなかった坂本の狙いを察知できず、2球目の内角ストレートを狙い打ちされた。この時の捕手は加藤だったが、察知力さえあれば防げた一発だった。
前出の評論家は「ここ5試合は木下にマスクをかぶらせていた。点が取れないので打力との兼ね合いもあるのだろうが、宇佐見、加藤と3人の捕手を使い分けることも重要かも」と提言した。
本拠地バンテリンの5試合で1勝3敗1分は誤算だろう。投手力を軸に守り勝たねばならない中日にとって、頼りの先発陣が崩れ始めるのは危険信号。ここが正念場とも言える。
明日3日からのヤクルト(神宮)、巨人(バンテリン)の6連戦でどう立て直すことができるのか。スポーツ各紙の報道によると、立浪監督は「球場も変わるので切り替えてやっていきたい」としっかりと前を見据えている。