阪神の門別啓人(19)が3日、東京ドームでの巨人戦に今季初先発したが、初回に4連打を含む5安打を浴びて4失点、3回で6失点(自責は4)してプロ初黒星を喫した。阪神は、大山悠輔(29)の1試合2ホーマなどで2点差まで迫ったが、結局、5−8で敗れた。プロ2年目の“虎の最終兵器”はなぜ伝統の巨人戦でプロの洗礼を浴びたのか。

 「ええ経験になったんちゃうか」

 “虎の最終兵器”が3つ目のアウトを取れない。
その立ち上がりに巨人の1,2番に全球ストレート勝負を挑み、丸はセンターフライ、増田大は空振りの三振。いずれも147キロのストレートで二死をとった。だが、吉川にファウルで粘られ、フルカウントから144キロと球速の落ちたストレートを右中間を破られる二塁打とされた。続く4番の岡本には、初球にインコースにストレートを突き、闘志を見せたが、カウント3−0となってからは、敬遠気味に四球を与えた。
門別―梅野のバッテリーは、巧打者坂本を迎え、スライダーを2球続けた。カウント0−1からおそらく見送ればボールとなるスライダーをうまくレフトへ運ばれ1点を失う。いわゆる腕が“緩む”変化球。そのボールにキレはなく坂本に対応された。
続く長野には全球ストレート。カウント2−2からインローに投じた147キロのストレートは低めに来たが、腕が振れていなかった。ボールにスピードは出ていたが、タイミングは合わせやすい棒球だった。これもジャストミートされてレフト前ヒット。2点目を失う。7番の小林は打率115。食い止めておかねばならなかったが、初球のストレートでカウントを取ったが逆球となり、2球目のカーブをレフト前にもっていかれた。
二死一、二塁となって門脇にカウント0―1からの2球目のストレートがベルト付近の高さとなり、センターへ弾き返され、まさかの4連打。戸郷を遊ゴロに打ち取って、ようやく長い攻撃を終わらせたが、41球を要した。門別は苦笑いを浮かべていた。
東京ドームの惨劇はまだ終わりじゃなかった。
2回二死をとってから吉川のレフトへの打球を背走しながらも余裕で追いついていたノイジーがなんと落球。スライスする打球の目測をあやまったのか、グラブをかすめただけの痛恨のエラーで二塁を与え、そして4番の岡本に見送ればボールの外角高めのストレートを強引にレフトスタンドまで持っていかれた。球速は138キロしか出ていなかった。
スポーツ各紙の報道によると岡田監督は、「ちょっと(ストライクを)揃えをiDすぎ。低めを狙い撃ちされている。もっと腕を振って大胆にいかなあかん」と、門別が浴びた“プロの洗礼”を振り返った。門別は2回からツーシームを混ぜ始めたが、岡田監督はストレートを軸にせず変化球に頼った配球を注意したという。期待の“虎の最終兵器”が本来持つポテンシャルを発揮できなかったことに一番ガッカリしたのは指揮官だろう。

 なぜ門別は3回で6失点という東京ドームの惨劇を演じてしまったか。阪神OBで評論家の池田親興氏は、こう分析した。
「沖縄キャンプのブルペンで本当に目を引いたストレートが見られなかった。球持ちの良さとボールの伸びが、彼の長所だが、コースを狙いすぎて腕が振れずエンジンがかかってくる前に集中打を浴びた。ストライクを揃えすぎた点も集中打を切れなかったことにつながったと思う。坂本、小林はいずれもカウント0−1からの2球目。もっとバッテリーは時間をかけてもよかったと思う。坂本への変化球の連投や長野への全球ストレート勝負など、相手に狙い球を絞りやすくさせた梅野のリードにも問題はあったのではないか」
さらに池田氏は調整ミスを指摘した。
「長嶋茂雄DAYという特別な試合が醸し出す独特な雰囲気に加えて緊張やプレッシャーもあったと思うが、調整ミスだと感じた。阪神は先発陣が揃っていて門別が入り込む余地がなく、最初は中継ぎで投げ、その後にファームで先発調整もしてきたようだが、まだ2年目の19歳の投手がピンポイントで先発調整することは簡単ではない」
池田氏が指摘するように投手王国ゆえ先発の椅子に空きがなく、門別は開幕から2試合に中継ぎ登板したが、4月5日には登録抹消されてファームで先発調整に入った。
2試合ファームで先発した後に4月19日に一軍に再昇格。その日の中日戦で1イニング投げたが、4月26日のヤクルト戦で青柳が5失点して登録抹消されたタイミングで巡ってきた今季初先発だっただけに、その調整は簡単ではなかったのかもしれない。
ただ門別のポテンシャルに疑いはない。
2022年のドラフト2位で東海大学付属札幌高から入団した2年目の左腕。審美眼を持つ岡田監督は「よくこんな投手が2位で取れたわ」とまで惚れ込んだ。ルーキーイヤーの昨年は優勝が決まった後の広島戦に2試合先発して、勝ち負けはつかなかったが、立派にゲームは作っていた。
岡田監督も「ええ経験になったんとちゃうか」と語っていたそうだが「先発として大きく育てたい」というのが、指揮官の構想。池田氏も「ローテーションの軸になれる素材」だと言う。
今日4日にも登録抹消されるが、ここから先の長いペナントレースを考えると必ず門別にリベンジチャンスは巡ってくる。