ノンフィクション作家・常井健一さんの『地方選』は全国の首長選の現場を訪れたルポルタージュ。この中で60年も首長選の無投票が続いた大分県姫島村が出てくる。2016年秋の村長選は現職の9選が確定する2週間前に対抗馬が現れ、61年ぶりに選挙戦となった◆80歳を超えて初めて村長選に投票した人がいる。信じられないが、小さな村では選挙戦のしこりでまちづくりが停滞しがちだ。政争の弊害を味わった村民たちが選んだ無投票の歴史だったのかもしれない◆だが、無投票は一歩間違うと独善的な政治を許す恐れもある。投票所に足を運び、候補者の氏名を書く。投票はリーダーというより、「一緒になってこんな町にしよう」という「パートナー」を選ぶ行為に思える◆ふるさと納税事業を巡る官製談合事件で市長が辞職したことに伴う神埼市長選はきのう投開票が行われ、新しいかじ取り役が決まった。ふるさと納税への向き合い方を含め市の再出発もかかった選挙。記者時代に担当した地域でもあり、無投票にならなくてよかった。選挙を通して町を見つめ直す意義は大きい◆地方自治は誰かが治めてくれる“他治”ではない。「権不十年」は行政の場合、首長の資質だけでなく、住民の無関心にも一因があるだろう。地域づくりへの第一歩として市政に関心を持ち続けたい。(義)