救急車に乗ったことはありますか? 私は家族の急病時に使ったことがあります。

 通報後まもなく、大音量のサイレンとともに救急車が到着し、あっという間に患者を車に乗せました。が、そこからが長かった…。患者を観察し、評価し、適切な医療機関を選定し、交渉し、受け入れOKとなって出発するまで、小一時間はかかったでしょうか。ドラマで見るようなダイナミックな場面よりも、静的で地味な場面が長かったな…というのが率直な感想です。

 救急車を呼んで軽症であれば選定療養費を徴収するという「救急車の有料化」が話題になりました。救急車が1回当たり出動するのにかかる費用は約4万5000円で、現在は市町村が税金で負担しています。救急車の不適切利用は市町村の財政を圧迫するだけでなく、本当に緊急性の高い患者の搬送ができなくなります。一般的な高規格救急車の調達価格は1台約1400万円、運転手を含め3人の救命士が乗車する必要があります。救急車や救命士の数を増やすのは簡単ではありません。

 救急車の有料化にいち早く踏み切った三重県松阪市の場合、選定療養費として7700円徴収するそうです。しかし「有料化したら119番通報をちゅうちょして、必要な人が呼べなくなってしまう」という批判的な報道が多かったということです。現時点で、必要な人に救急車が回せなくて困っているから、有料化して慎重な利用を促しているに過ぎません。

 逆に「こんなに一刻を争う状況だったのに、なぜ救急車を呼ばずに放置したの?」というケースもあります。「救急車を呼ぶべきか?」と迷う場合は、通報前に(#7119)番で救急安心センター事業に電話相談することもできます。

 大切なのは有料か無料かではなく、適切な利用か否かです。おのおのの努力で今後も安定して救急車が運用できることを願います。

 (佐賀リハビリテーション病院 副理事長 吉原麻里)