全年齢を対象に自転車ヘルメットの着用が努力義務化されてから4月で1年が経過した。埼玉県警はキャンペーンなどを通じ、頭部保護の重要性や着用による被害軽減効果の周知を図っているものの、今年1〜4月の県内の自転車事故死傷者のヘルメット着用率は14・7%で浸透しているとは言い難い。非着用の人からは「義務でないなら、かぶらない」「同世代の親でかぶっている人を見かけないので、かぶろうという気が起きない」という声も聞かれ、普及が進まない現状が浮き彫りになった。

 「髪がぺちゃんこになるから」。さいたま市桜区の50代の会社員男性はヘルメットを着けていない。「かぶること自体、格好悪いと思っている人も多いと思うし、義務でないなら(かぶらなくて)いいかな」と理由を述べた。

 同市大宮区の主婦(42)は昨年4月、販売店2カ所に見に行ったが、欲しかったデザインのヘルメットが試着できなかったなどの理由で購入しないまま現在に至る。小中学生の子ども2人の習い事に行く時など週に3、4回は自転車に乗るが、子どもが同世代の親で着用している人をほとんど見かけないという。「かぶる人が増えれば、かぶろうという気が起きるかも」。ただ、飛びそうになった帽子を押さえた際にバランスを崩した経験から「安全性の面から本当はかぶった方がいいことは分かっている」と続けた。

 同市岩槻区の銀行員大沢祐樹さん(37)は努力義務化される直前に全支店にヘルメットが配布されて着用するようになり週1、2回、営業先を自転車で回るという。「頭を負傷して亡くなる人が多いことを知った。努力義務化前はかぶりづらかったが、努力義務化されたことで、かぶりやすくなった」と話した。

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 ヘルメットを売る販売店側の感覚はどうか。「イオンバイク川口前川店」の渡辺剛志店長(25)によると、努力義務化される前よりは購入者や問い合わせは増えているというが「1年前は欠品が3、4カ月続いたが、その頃と比べて売れ行きは半減している」と打ち明ける。自転車とともにヘルメットも購入する客は「正直1、2割ぐらい」という。同店では1年前からヘルメット売り場を拡大してポップを掲示したり、売り場を見ている人や新車購入時にヘルメットの購入を勧めている。

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 県警交通総務課によると、今年1〜4月に県内で自転車事故で死亡したのは3人で、いずれもヘルメットは非着用だった。同期間の自転車事故死傷者は1427人。うち、かぶっていたのは209人で着用率は14・7%だった。着用が努力義務化された直後の昨年4月と今年4月の単月の死傷者の着用率を比べると、14・0%から18・8%に上昇しているものの、思うように普及は進んでいない。

 県警では昨年11月から交通事故時の被害軽減とともに、ヘルメットの普及と着用の定着化に向けて「かぶる・ひろがる・命を守る みんなでカチッと!プロジェクト」を推進している。アンケート調査などによると、非着用の理由として「周りがかぶっていない」が多くの割合を占めていることに対策を講じる取り組み。4月末時点でサッカーJ1浦和レッズの下部組織(小中高年代チーム)など30団体が賛同し、参加している。

 同課は、啓発活動などの働きかけの成果で子どもや高齢者の着用者が増えている印象がある一方で、幼児や小学生の子どものいる親世代への普及が課題とみている。「家庭や学校、職場など身近なところから、自転車に乗るときはヘルメットを着用するよう、声をかけ合ってほしい」と呼びかけている。