星渓園から北へ少し行くと、国道17号沿いに八木橋百貨店=同市仲町=がある。熊谷市の夏の風物詩、大温度計が設置される同百貨店は1897(明治30)年創業の老舗。1階の店舗内に旧中山道が通っている。

 北側には鎌倉時代に創建された熊谷寺(ゆうこくじ)が隣接する。同寺は、郷土の武将熊谷次郎直実が出家後、館の一角に造った庵を前身とする浄土宗の寺。普段は閉門しているが、えびす祭りなどの際に入ることができる。

 山門の前の道を市役所方面へ。千形神社の裏手には夏目漱石の小説「坊っちゃん」のモデルとされる弘中又一氏の居住跡がある。1900(明治33)年頃、熊谷中学校(現熊谷高校)の数学教師として教壇に立ち、19年ほど熊谷で過ごした。家屋は解体されているが、当時を懐かしむ説明板が設置されている。八木橋百貨店前には詩人、宮沢賢治が16(大正5)年に秩父地域に地質学の学習で旅をした際に詠んだ詩碑もあり、文学に親しめるエリアになっている。

 さらに東へ進むと、日本一長いおみくじで知られる髙城神社がある。縁結びのパワースポットで、願い事を書いて奉納するむすび玉も人気。夏越(なご)しに当たる6月30日の胎内くぐりに向けて人形(ひとがた)を頒布中。薄い紙を職員が全て手作業で裁断している。名前などを記入し人形に息を吹きかける。体で気になるところを人形に移す気持ちでなで、胎内くぐり当日に境内の専用の場所に納める。

 北に向かい、北大通り沿いの熊谷市役所を越えると中央公園。広い敷地には芝生広場、長いすべり台をはじめとしたさまざまな遊具、噴水などがあり世代を問わず誰もが楽しめる。9千本の樹木が植えられ、四季折々の顔をみせる。

 桜の中には直実の娘の玉津留姫、千代鶴姫と名付けられたシダレザクラも植えられている。熊谷駅南側の荒川土手の桜堤は県内有数の花見の名所だが、地元では中央公園も人気だ。

 駅へ戻る際、夕方ならば居酒屋「甲子園」に寄るのもお薦め。ユニークな大きい野球ボールの看板が目を引くが、店内はさらに野球愛であふれている。店主の橋本哲夫さん(77)は、高校時代に熊谷商業高校野球部のキャッチャーとして活躍。65年の高校野球西関東大会で元読売巨人軍の堀内恒夫さんからホームランを打ち甲子園に出場した。居酒屋甲子園は市役所近くの「第一球場」を奥さんと長男・三男に任せ、橋本さん本人は「第二球場」で次男らとともに元気にお客さんとの会話のキャッチボールを楽しむ。名物は甲子園ボール、もつ煮、焼きとんなど。営業開始はプレイボール、トイレはベンチ裏、席移動は盗塁など、この店ならではの野球用語が飛び交い、座っているだけでも楽しい地元の愛されスポットだ。
 
 【メモ】甲子園 第二球場=電話048・501・0540。熊谷市筑波2の70。午後4時〜同10時半。日曜定休