青森県鶴田町は、人気観光スポット「鶴の舞橋」の改修工事に伴って出た廃材を、箸や丸升といった木工品として再利用する取り組み「アップサイクル」を始めた。貴重な観光資源に新たな付加価値を付け、町内外に発信することで、さらなる誘客につなげる狙いがある。売り上げを将来的な橋の維持・管理費に充当することも視野に入れている。今夏には第2弾となる木工品のお目見えも控える。生まれ変わった〝命〟を廃材に吹き込む試みが成果を上げるか、全国の関心を集めそうだ。

大規模な改修工事

町には江戸時代、ツルが飛来したとされる由来が今に伝わっており、これまでツルにこだわった街づくりが進められてきた。

鶴の舞橋は平成6年7月、国と県の補助で総事業費2億6千万円をかけて完成し現在、町が管理している。樹齢150年以上の青森ヒバ700本を使った幅3メートル、全長300メートルの木造三連太鼓橋で、使用されている床板の数は、4LDK住宅の約30棟に相当する3千枚となる。

ぬくもりを感じさせる緩やかなアーチは、ツルのつがいが飛翔(ひしょう)する姿をイメージして造られ、町のシンボルになっている。

鶴の舞橋が架かる「廻堰(まわりぜき)大溜池」は、灌漑(かんがい)用水の水源に当たり、別名「津軽富士」と呼ばれる岩木山(1625メートル)を湖面に映すことから、「津軽富士見湖」の愛称で親しまれている。周辺には、タンチョウヅルが飼育されている自然公園などがあり、この地域一帯は「富士見湖パーク」として憩いの場にもなっている。

鶴の舞橋が一躍、脚光を浴びるようになったのは、JR東日本によって提供されている会員限定のサービス「大人の休日倶楽部」のCMで撮影場所となり、このCMに俳優の吉永小百合さんが出演したことをきっかけとしている。平成28年のことだ。

ただ最近では、完成から約30年たっている事情もあり、木材のすり減りなどの経年劣化が見られるようになった。このため県は昨年9月から、長寿命化を図ろうと大規模な改修工事に着手。令和8年3月の完工を目指している。

工事は3期に分けて行われ、第1期は今年3月31日で終了した。廃材を再利用する取り組みに当たっては、この期間に出た青森ヒバの中から、一定の厚さがあるなど再利用できる廃材を選別し、同県大鰐町の木材加工業者に依頼して箸や丸升に生まれ変わらせた。

箸の長さは約23センチで2種類あり、橋の名称をもじって「鶴のマイ箸」と名付けられた。「長い木の橋」と「長生きの箸」を掛けて、「ながーいきの橋」と刻印されるなど遊び心にも配慮が行き届いている。高さ約4センチ、直径約7センチの丸升は、日本酒を飲むときに使うおちょこにうってつけの一品だ。このほか、橋を訪れたことを証明する「御橋印(ごきょういん)」も作製した。

価格はそれぞれ、1500円、2800円、500円で、鶴田町の道の駅「鶴の里あるじゃ」と富士見湖パークの売店で販売されている。

SDGsにも有効

「これまでも小規模な改修は度々、行われていた。今回の試みでは、SDGs(持続可能な開発目標)という時代でもあり、限られた資源をどう再利用するのかを考えました。県産材の付加価値と有効活用にもつながる」

同町商工観光課の藤田隆宏課長補佐は、廃材利用の重要性について強調する。町が独自に取り組む「アップサイクル」の意義が十分にある、というわけだ。

第2期工事は9月から来年3月までの予定で、今後も大量の廃材が見込まれる。町は8月の実現に向けて、現在販売されているより幾分大き目の丸升のほか、お皿やスプーンの商品化も目指している。大鰐町の木材加工業者だけではなく、地元・鶴田町の業者にも生産を請け負ってほしいとの考えもある。

町によると、新型コロナウイルス禍を経て、観光業は徐々に回復傾向にあり、富士見湖パークを訪れた昨年の観光客は約18万人と、前年に比べ約6千人増えた。インバウンド(訪日外国人客)も増加しているという。

藤田課長補佐は「多くの観光客が足を運んでくれれば、町の財政にも相乗効果をもたらす」と期待している。(福田徳行)