他人の仕事を手伝うなんて論外だと思っている人がZ世代に多いという。彼らが育ってきた環境を知ることで、その対処法のヒントになるかもしれない。

書籍『職場を腐らせる人たち』より一部抜粋・再構成し、なぜそのような思考に陥るのかを解説する。

言われたことしかしない若手社員

最近どこの職場でも増えているのが、上司や先輩から言われたことしかしない若手社員である。典型的な指示待ちタイプで、指示されなければ何もせず、ぼうっとしている。先輩や同僚が忙しそうにしていても、手伝わない。

上司から「少し手伝ったらどうか」と諭されても、「自分の仕事はちゃんとやっています」「指示がなかったので、僕の仕事だと思いませんでした」などと答え、定時で帰る。

「僕の仕事ではありませんから」と言って、手伝わない

指示待ちタイプというだけならまだしも対処のしようがあるが、なかには持論を繰り返し、自己正当化に終始する若手社員もいる。たとえば、IT系企業に勤務する20代の男性社員は、結果さえ出していれば協調性なんて要らないと思っているのか、大量の仕事を抱えた同僚が忙しそうにしていて困っていても、手伝おうとしない。

上司が手伝うよう促しても、「僕の仕事ではありませんから」と言って、協力しない。

上司が「君が困ったら助けてもらうかもしれないのだから、お互い様だと思って、協力するのが同じ課の仲間だろう」と諭しても、「僕、ちゃんと結果出していますよね?僕、何かおかしなこと言っていますか?そもそも、これは僕がやるべき仕事ですか?」と頑(かたく)なに手伝おうとしない。

それどころか、「できない奴の仕事を手伝っていたら、自分の仕事ができないじゃないですか。結局、優秀で真面目な人間にしわ寄せがくるじゃないですか。そんなの真っ平ごめんです」と怒り出す。

たしかに、この部下が業績をあげているのは事実なので、上司としては反論しにくいという。しかも、名門大学を優秀な成績で卒業しており、将来の幹部候補として一部の役員から目をかけられているようだ。そのため、「自分は特別だから多少のことは許される」という特権意識を抱くようになったのかもしれない。

こういうタイプは、上司からすれば扱いづらいだろう。そのせいか、直属の上司は「厳しく注意したら、パワハラで告発されたり役員に言いつけられたりするかもしれない。かといって、このままにはしておけないし、一体どう対応すればいいのか」と思い悩んで、私に相談した。

〝働き損〟は嫌

同様の悩みを抱えている管理職は多そうだが、そもそも、現在20代の若者、いわゆるZ世代には指示待ちタイプが多い。これは、教育によるところが大きいように見受けられる。

まず、少子化の影響もあって、親や教師が子どもを大切にし、すべてお膳立てしてくれる環境で育ってきた。このような環境では、子どもが傷つくことも転ぶことも防ぐべく、周囲の大人は危険物を極力取り除き、危ないことは一切させないように配慮する。だから、子どもが自発的に何かをやる機会はどうしても限られる。

せっかく子どもが自分から「〜したい」という意思表示をしても、大人に「危ないからダメ」と却下されることもあるはずだ。必然的に受け身になりやすく、自主性も育ちにくい。

また、試験では、あらかじめ正解が決まっていて、それに沿った答えを答案用紙に書くほど点数が高くなる。教師からの評価も、指示されたことをきちんと実行するほうが上がる。指示されていないのに、自分の頭で考えて余計なことをすると教師からの評価が下がることさえある。

そのため、指示されたことだけをきちんとやるほうがいいと子どもの頃から経験的に学習しつつ成長していく。当然、周囲の仕事の進捗状況を見ながら、気を利かせて、必要であれば同僚を手伝うような柔軟性はなかなか身につかない。

それに拍車をかけているように見えるのが高い〝コスパ〟意識である。最近の若者は、コストパフォーマンスに敏感で、「コスパが悪いから」という理由で恋愛にも結婚にも消極的になっていると聞く。

しかも、時間対効果を意味する〝タイムパフォーマンス〟、略して〝タイパ〟なる言葉も登場した。この言葉に如実に表れているのは、自分がかけた時間に対してどれだけの見返りがあるか、どれだけ満足を得られるかを重視する姿勢だろう。

このように効率のいい時間の活用を何よりも重視し、時間の浪費をできるだけなくそうとする若者が、同僚の仕事を手伝わないと聞いても、あまり驚かない。むしろ、当然のように思われる。

おまけに、頑張っても報われないとか、頑張るだけ無駄とか思い込んでいる若者も少なくない。こうした思い込みの背景には日本経済の低迷もあるように見える。Z世代が生まれた1990年代後半以降、日本経済はほとんど成長できないまま停滞しており、会社という組織の理不尽に耐えた〝見返り〟ともいえる終身雇用や年功序列の制度を維持するのが困難になった。

この情勢を目の当たりにして育った彼らが「辛抱して頑張っても、理不尽に耐えても報われない」と思い込むようになったとしても不思議ではない。

そのうえ、現在の勤務先への帰属意識が希薄になったことも大きい。昭和の時代であれば定年まで同じ会社で働くのが当たり前だったが、昨今は必ずしもそうではなくなった。それと軌を一にして、離職や転職に対して抵抗感をあまり覚えない人も増えたように見える。当然「どうせ定年までいるわけではないので上司の指示に従う必要はない。我慢して嫌な仕事を引き受ける必要もない」という認識が生まれやすい。

その裏には、たとえ自分が無理して頑張っても、会社の倒産やリストラに直面する可能性だってあり、そうなれば〝働き損〟になりかねないが、そんなのは嫌だという心理が潜んでいるのではないか。

このような心理はわからなくもない。名だたる大企業でも不祥事で迷走しているし、これまでは業績がよかった企業でも早期退職を募集している御時世である。そういう現状を見ると、誰だって不安になるので、自分が仕事で費やす時間にどれだけの見返りがあるのか、よりシビアに計算しようとするのは当然の反応ともいえる。

おそらく、現在の職場に将来性がそれほどないと判断すれば、早々に見切りをつけるだろう。在職中にスキルアップし、できれば資格も取得して、より有利な条件で転職したいというのが本音に違いない。そのためには時間を有効に使わなければならないので、他人の仕事を手伝うなんて論外なのかもしれない。

幻想的万能感の肥大

もっとも、スキルアップするにしても、まずは仕事を覚える必要があるはずだが、それさえも拒否するような新入社員がいるという。製造業のある会社では、新入社員の男性が、上司から指示された仕事であっても、「教えてもらっていないので、できません」「これは横で見ていただけなので、できません」などと断るそうだ。

仕方がないので、簡単な事務作業をするよう上司が指示すると「こんな仕事を僕にさせるなんて、僕の能力の無駄遣いです。もっと僕の能力を発揮できる仕事をさせてください」と要求する。そのため、どんな仕事をさせればいいのか会社では苦慮しているらしい。

この男性は、自分自身の能力を過大評価している可能性が高い。だが、実際には、自分で思っているほど仕事ができるわけではない。だからこそ、いろいろ理由をつけて仕事を断るのではないか。

こういうタイプは、強い自己愛ゆえに自分は何でもできるという幻想的万能感を抱いていることが多い。仕事ができないという現実に直面すれば自己愛が傷つきかねないが、そうなるのは嫌なので、前もって断るわけだ。

このように幻想的万能感を抱いているせいで周囲に迷惑をかける若者はどこにでもいる。たとえば、ある金融機関では、知ったかぶりをして、質問しないため、重大なミスをする男性の新入社員に上司が手を焼いている。

この新入社員は、一流大学を優秀な成績で卒業しており、仕事にも熱心に取り組んでいる。ただ、「質問するのはできない社員の証(あかし)」と思い込んでいるのか、わからないことがあっても質問せず、自分の判断で仕事を進めて重大なミスをし、しばしば周りを巻き込む。

ときには取引先にまで迷惑をかけるため、上司が謝罪に行かなければならない。にもかかわらず、当の本人は、自己判断で勝手に進めたことが招いた事態の深刻さをきちんと認識していないようだ。

「わからないことがあったら、質問するように」と上司から注意されると、「はい、わかりました」と素直に答えるのだが、やはり自己判断で仕事を進めて重大なミスを繰り返す。その尻ぬぐいを彼だけでできるわけではなく、結局上司や先輩が後始末をさせられることになる。そのため、上司が「わからないことがあったら質問するようにと言っただろうが」と詰問すると、「聞いていません」と答える。

上司はたしかにそう言ったはずだし、たとえ聞いていなかったとしても、わからないことがあったら質問するのは当たり前だと上司としては思うのだが、そういう理屈はこの新入社員には通じない。

この新入社員も、強い自己愛ゆえに、自分は何でもできるという幻想的万能感を抱いている可能性が高い。こういうタイプは、自分にわからないことがあるという事実自体を認めようとしない。

いや、むしろ認めたくないので、質問などせず、自分の判断で進めてしまう。その結果、取引先にまで迷惑をかける事態を招いて、上司から叱責されても、知らぬ存ぜぬで通そうとする。自分の責任を認めれば、自己愛が傷つくので、それを避けるために責任転嫁して「自分は悪くない」と主張するわけである。


写真/shutterstock

職場を腐らせる人たち(講談社現代新書)

片田珠美
職場を腐らせる人たち(講談社現代新書)
2024/3/21
990円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4065351925

根性論を押し付ける、相手を見下す、責任転嫁、足を引っ張る、自己保身、人によって態度を変える……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか?

これまで7000人以上を診察してきた著者は、最も多い悩みは職場の人間関係に関するものだという。

理屈が通じない、自覚がない……やっかいすぎる「職場を腐らせる人たち」とはどんな人なのか? 有効な対処法はあるのか? ベストセラー著者が、豊富な臨床例から明かす。

「長年にわたる臨床経験から痛感するのは、職場を腐らせる人が1人でもいると、その影響が職場全体に広がることである。腐ったミカンが箱に1つでも入っていると、他のミカンも腐っていくのと同じ現象だ。

その最大の原因として、精神分析で「攻撃者との同一視」と呼ばれるメカニズムが働くことが挙げられる。これは、自分の胸中に不安や恐怖、怒りや無力感などをかき立てた人物の攻撃を模倣して、屈辱的な体験を乗り越えようとする防衛メカニズムである。

このメカニズムは、さまざまな場面で働く。たとえば、子どもの頃に親から虐待を受け、「あんな親にはなりたくない」と思っていたのに、自分が親になると、自分が受けたのと同様の虐待をわが子に加える。学校でいじめられていた子どもが、自分より弱い相手に対して同様のいじめを繰り返す。こうして虐待やいじめが連鎖していく。

似たようなことは職場でも起こる。上司からパワハラを受けた社員が、昇進したとたん、部下や後輩に対して同様のパワハラを繰り返す。あるいは、お局様から陰湿な嫌がらせを受けた女性社員が、今度は女性の新入社員に同様の嫌がらせをする。

こうしたパワハラや嫌がらせの連鎖を目にするたびに、「自分がされて嫌だったのなら、同じことを他人にしなければいいのに」と私は思う。だが、残念ながら、そういう理屈は通用しないようだ。」ーー「はじめに」より