サマンサタバサジャパンリミテッドが、親会社コナカとの経営統合に合意し、6月27日に上場廃止となることが決まった。「サマンサタバサ」といえば、雑誌「CanCam」や「JJ」、「Ray」などの赤文字系雑誌全盛期に大流行したブランド。きれいめ、コンサバ系女子大生の外せないバッグブランドとして定着していた。同時代に支持されていた「ANAP」「CECIL McBEE」も今、同じく苦戦している。

サマンサタバサはコナカ体制のもとで経営再建を図る

サマンサタバサは2025年2月期に6億1000万円の営業損失を予想している。6期連続の営業赤字だ。2024年2月期は1割の減収だったが、2025年2月期はそれを上回るスピードの売上減を予想している。2期連続の2桁減収である。

この会社は2016年2月期の売上高が434億円だった。今期は半分以下の水準まで落ち込むことになる。サマンサタバサは2019年にコナカの出資を受け入れ、2020年に子会社となった。さらに今回の経営統合によって、コナカCEOの湖中謙介氏がサマンサの代表取締役となる予定だ。コナカ色が強くなる中での経営再建となる。

一方、「ANAP」は2023年10月に事業再生ADRの手続きを申請。ECプラットフォームを提供するネットプライス支援のもとで再生に向けて歩み始めた。

ANAPはへそ出しルックやミニスカートなどのギャル文化を支えたブランドの一つ。「ALBA ROSA」、「LOVE BOAT」、「COCOLULU」、「CECIL McBEE」などとともに、平成のギャルファッション文化の発信地「SHIBUYA109」を支える代表的なブランドだった。それが今や借金の返済もままならないほど低迷してしまったのだ。

CECIL McBEEも2020年11月30日にSHIBUYA109から撤退。唯一残っていた店舗を閉めることとなった。このブランドを運営するジャパンイマジネーションは、2020年2月期に7億4500万円の純損失を計上している。

サマンサタバサは粗悪品を売っていたというのは本当か?

サマンサタバサは、超セレブを起用した大々的なプロモーションを行なっていたことで知られている。ヒルトン姉妹、ミランダ・カー、ビクトリア・ベッカム、マリア・シャラポワなど一流セレブがプロモーションのために日本を訪れていた。

国内のブランドでそのような宣伝活動が行なわれるケースは少なく、サマンサタバサが日本を代表するブランドの一つに育っていたことは衆目の一致するところだった。

ただし、派手な宣伝活動を行なっていたため、サマンサタバサには固定観念が付きまとうようになった。それが高粗利・高広告宣伝費というものだ。原価が安い商品を高値で売る目的で、巨額の広告費を投じているというものである。すなわち、低品質の商品に過度な広告をのせることによって高値で販売し、粗利率を高めることに成功しているというのだ。

しかし、この認識は正しくない。

サマンサタバサが隆盛を誇っていた2005年2月期の製造原価は40億9200万円。このときの売上高は98億4500万円で、製造原価は41.6%だ。アパレルの原価率は30〜50%と言われている。サマンサタバサは極めて標準的な水準だ。

なお、この期の広告宣伝費は2億500万円ほど。売上高の2.1%に過ぎない。セレブを起用して大々的な宣伝活動を行なっていたからといって、過度な広告費をかけていたわけでもないのだ。つまり、ごく普通のアパレルブランドのビジネスモデルを踏襲していたことになる。

それでは、なぜサマンサタバサは凋落してしまったのか。その背景には、このブランドが得意としていた2〜5万円という中価格帯の需要の減退が挙げられる。

婦人用支出額の6割が蒸発する事態に

ファッション情報メディアを運営するTOCREATEITの調査(「バッグに関するアンケート調査」)によると、バッグ購入予算で1万円未満と回答したのは66.2%。1万円以上3万円未満は25.6%に過ぎない。

さらに選ぶ際のポイントとしているのが、「色やデザイン」が25.4%、「サイズや収納力」が24.2%、「値段」が19.5%。「ブランド」は3.6%だ。消費者は1万円未満の手ごろな価格で気に入ったデザインのものを選び、収納力などの機能性を重視していることがわかる。

この傾向はファッション全体に当てはまる。

家計調査で単身世帯の婦人用洋服の年間支出額を見ると、2023年は1万2901円だった。2000年は3万2358円である。23年間で婦人用洋服への支出額の6割が消失したのだ。コストパフォーマンス重視の時代である。

現在の大学生においては、一万円以下で買えるキャンバス生地のトートバッグが主流だ。

そもそもブランド購入のハードルが上がっているため、背伸びをするのであれば「LOUIS VUITTON」や「Gucci」などのわかりやすいハイブランドを選択する。誰もが知っているブランドであるため、マウントが取りやすい(満足度が高い)からだ。いくらデザインが優れているとはいえ、2〜5万円程度のサマンサタバサではコストパフォーマンスが悪いと感じてしまうだろう。

それであれば、サマンサタバサはかつてのように広告宣伝に力を入れてブランド価値を高めればいいと考えるかもしれない。しかし、ファッションアイテムの宣伝の難易度は劇的に上がっている。

電通の「日本の広告費」によると、2004年の雑誌の広告費は3970億円だった。2023年は1163億円である。1/3まで縮小した。その一方で、インターネット広告は1814億円から3兆3330億円と18倍に跳ね上がっている。

 

かつてはファッション業界と雑誌が流行を創出するのが当たり前だった。それがインターネット広告にとってかわられたことにより、「バッグ 1万円 20代向け」などと消費者の細かなニーズに応えなければならなくなったのだ。インフルエンサーも全盛期のセレブほどの影響力は持てず、サマンサタバサが得意としていたこれまでの手法が通じなくなってしまったのだ。

低価格路線が進行して原価率が上がったANAP

ANAPのたどった道はサマンサとはやや異なる。

このブランドは「多品種少ロット」という特徴があった。消費者からすると、低価格でありながら選択の幅が広く、同じデザインが少ないために他の人と被ることもないというメリットがあったのだ。しかもANAPは手頃な価格で販売していたがゆえに、在庫の回転率を高めることができた。

これはギャル文化に支えられていた側面が大きい。よって、流行が終焉を迎えると、労多くして功少なしとなってしまう。

ANAPの2012年8月期の原価率は42.2%だが、2023年8月期は46.8%だ。ANAPはユニクロなどのファストファッション並の価格でアイテムを販売している。原価率が高まっているのは価格を下げていることによるものだろう。

ところが、ANAPの服はユニクロのように機能的でもなく、無印良品のように素材や製造プロセスにこだわっているわけでもない。ZARAやH&Mのようなトレンド感も薄ければ、niko and ...、GLOBAL WORKのような万人受けする普遍性もない。

ギャル文化のイメージが浸透してしまっており、今となってはターゲットも不鮮明だ。

サマンサタバサとANAPには共通する特徴がある。それは「顧客と向き合えていない」というものだ。

コナカの2026年9月期までの中期経営計画サマンサグループの事業戦略において、一番目に掲げているのが「オムニコマースの推進」というものだ。実店舗からECへのシフトを加速するというのである。

非上場化したほうが幸せではないのか

これはANAPも同じ。2022年4月に東京通信とライブコマース事業を行なう合弁会社を設立し、メタバース空間でショップを展開する新たな取り組みを開始している。

どれも販売チャネルや顧客へのリーチの仕方を変えるという話だ。
2社の課題は中価格帯の需要が減退していることやメインターゲットのニーズ・支出額が変化していること、競合のマス化によるシェアの縮小であって、EC化の遅れは要因の一つであっても主要因ではない。

必要なのはターゲットの年齢やニーズを見据えたリブランディングである。

この取り組みに先行しているのがCECIL McBEEだ。2019年にリブランディングを実施し、ターゲットを18歳から23歳に限定。さらにスマートフォンアクセサリーなどのアパレル以外のアイテムの売上構成比率を高める取り組みを実施した。服に固執せず、女性が今、身に着けたい、持ちたいと思うアイテムに的を絞ったのだ。

ターゲットをピンポイントに絞り込むというのは非上場企業らしいやり方だが、今のCECIL McBEEが20〜30代に支持されるniko and...に勝つのは難しく、ましてやユニクロ、GUなどのマス向けブランドにはとうてい敵わない。

限られた市場で細く、長くということになるが、生き残りの戦略としてはそれは真っ当なものだ。

サマンサタバサは非上場後も上場企業コナカの傘下であり、ANAPは上場維持に向けた計画を立てている。

ファッション業界での再生という観点では、両社ともに完全なる非上場企業となったほうが動きが取りやすいと言えるのかもしれない。

取材・文/不破聡