“女帝”小池百合子東京都知事が学歴詐称疑惑で窮地に追い込まれている。4月16日に告示された衆院東京15区補選では、小池氏が満を持して作家の乙武洋匡氏を擁立したが、自民党の推薦見送りもあって目下、大苦戦。さらに、元側近が疑惑について公職選挙法違反の罪で刑事告発する可能性も示唆しており、7月に投開票される都事選にまで暗雲が立ち込め始めている。

推薦して負けるくらいなら不戦敗のほうがマシ

「小池知事の学歴詐称疑惑で、乙武氏はさらに劣勢に追い込まれている」

永田町関係者は国会周辺で出回っている情勢調査の数字を見ながらそう解説した。大乱戦となっている東京15区補選について、自民党が4月13、14日に実施したとされる情勢調査では、立憲民主党の酒井菜摘氏が他候補を大幅にリードして首位となり、肝心の乙武氏は酒井氏にトリプルスコアのリードを許している状況。

都内の選挙では異例の強さを誇る小池氏と知名度抜群の乙武氏がタッグを組んだにもかかわらず、厳しい数字が叩きつけられた形だ。

東京15区補選をめぐっては、自民党が裏金問題の逆風で候補者すら立てられず野党候補が乱立するなか、小池氏が乙武氏を擁立することによって一気に流れをつくることを目論んでいた。

小池氏は自民幹部に乙武氏の擁立について発表前から内々に伝え、自民からの推薦をもらう方向で調整。自民にとっても候補者擁立がままならないなか、小池氏の候補に相乗りできるのは渡りに船で、茂木敏充幹事長は乙武氏が8日に出馬会見を開く前から推薦する方針を記者団に明らかにしていた。

しかし、その算段は小池氏の学歴詐称疑惑が再燃する前から崩れ始めてしまった。自民は上記調査の1週間前にも情勢調査を実施しており、そのときすでに乙武氏の状況は芳しくなかった。

乙武氏は2016年3月、週刊新潮に不倫などの女性疑惑が報じられて参院選への出馬を断念した過去があり、ここにきても小池氏の思惑とは裏腹に支持が伸び悩み、自民内からは推薦への慎重論が浮上した。

一方、乙武氏も自民の裏金問題に関する悪評を懸念し、出馬会見では「政策を見て推薦したいという思いをいただけるのであれば一つひとつの政党とお話をしたいが、現時点では私自身から推薦依頼を出している事実はない」と発言。結局、12日、自民は乙武氏の推薦見送りを決定した。

見送りの理由について、自民党は「本人から推薦の要請がないこと」「選挙区である江東総支部から党としての推薦を出さないでほしいとの要望があがっていること」などとコメントしている。

だが、自民党関係者は「情勢調査の結果から乙武氏が苦戦を強いられると分析し、推薦して選挙に負けるくらいなら、推薦を出さずに不戦敗のほうがマシという考えも背景にあった」と明かす。

 擁立する小池氏の学歴詐称疑惑が乙武氏のさらなる逆風に

乙武氏の選挙体制が瓦解するなか、さらに追い打ちをかけているのが小池氏の学歴詐称疑惑だ。

小池氏の「カイロ大学卒業」については1992年に国会議員に初当選したころから「詐称ではないか」という疑惑がついて回っていたが、知事再選をかけた2020年の都知事選前には『女帝 小池百合子』(ノンフィクション作家・石井妙子著)が発売され、書籍内ではカイロ時代の同居人から「卒業していない」という証言も飛び出し、疑惑に再び注目が集まった。

この直後に駐日エジプト大使館がFacebookに小池氏の卒業を認める「カイロ大学声明」を突如として掲載。疑惑は一気に沈静化することになる。

だが、小池氏の元側近で都民ファースト事務総長を務めていた小島敏郎氏がこのことについて、4月10日発売の文藝春秋に「私は学歴詐称工作に加担してしまった」と告発。「カイロ大学声明」は小池氏の依頼によってジャーナリストが執筆したものだと明らかにした。

告発のとおりなら疑惑払拭の声明自体に、疑惑をかけられた小池氏自身が関与していたことになり、その正当性は大きく揺らいでいる。

そのような背景で乙武氏の情勢はこの1週間でさらに厳しいものになってしまったというわけだ。

「小池氏は東京15区補選の勝利を足掛かりに、自民に恩を売って、国政に回帰して総理大臣を目指すことも視野に戦略を立てていた。しかし、補選惨敗となれば、国政回帰はおろか、今年の都知事選での3選も危うくなってくる」(永田町関係者)

 近づく女帝の最期…?

自民党が東京15区から手を引いた今、補選は岸田政権ではなく小池氏の実力を測るバロメーターと化しており、結果によっては求心力が一気に低下する可能性もある。

さらに、小池氏を告発した小島氏は17日、日本外国特派員協会で記者会見を開き、小池氏が今年の都知事選にカイロ大卒と明記して選挙に出た場合には公選法違反にあたるとして刑事告発することを示唆。「法廷で戦う段階になればすべてを明らかにする」と宣言した。学歴詐称疑惑が東京15区補選だけでなく、都知事選にも直撃することが予想される。

都知事選をめぐっては、まだ小池氏と争う有力な対抗馬は出てきていないが、立憲は勝つための候補者選定に向けて動いている。

立憲関係者は「前回は小池氏に勝てる見込みがなかなかないまま、これまで都知事選に挑戦し続けてきた宇都宮健児氏を支援することで体裁を保っていたが、今回は小池氏にとって大逆風の選挙となるだろう。本気で知事の座を獲りにいかないといけない」と意気込む。

関係者によると、著名な男性の学者から立憲に立候補の申し出があったといい、擁立の選択肢に入れながら、今後の情勢も見極めて慎重に候補者を選定していくという。

東京15区補選を制して国政に殴り込もうとしてきた小池氏だが、乙武氏の支持が伸び悩んで失速し、さらに学歴詐称疑惑が追い打ちとなって自身の都知事の座すら危うい。

「政治の世界は一寸先は闇」とはよくいうが、この約3週間でここまで周囲を取り巻く環境や情勢が変わるとは、小池氏も3月末に乙武氏を擁立した時点では微塵も予想していなかっただろう。

女帝の力が弱まりつつあるなか、都民はどのような判断を選挙で下すのか。

まずは4月28日、東京15区補選の投開票に注目が集まっている。

取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班