「週刊ヤングジャンプ」にて連載中の人気ギャグマンガ『スナックバス江』(フォビドゥン澁川)が1月12日よりテレビアニメ化(TOKYO MX 25:05〜)される。アニメ化にあたって原作の漫画家・フォビドゥン澁川さんに話を聞いた。

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声優さん、そんなこと言って大丈夫なの…?


――アニメ化が決まったとき、どんな心境でしたか?

フォビドゥン澁川(以下、同) 正直、やめといたほうがいいんじゃ…と思ってしまいました。私はアニメ化された作家になれて得しますけど、「みんなもちゃんと得できるの?」みたいな…。「目指すはアニメ化や!」とか言えていたのは他人事というか、当事者になると思っていないから茶化せていたんですね。


©フォビドゥン澁川/集英社・「スナックバス江」常連一同


「100万円ほしい!」って言ってて、「じゃあ、あげるよ」って人が出てきたら「何が目的だ?」って身構えてしまう感じです。大人ならまず防御姿勢をとりますよね。

そもそもアニメ化決定って大人が会議室で話し合って決めたことなのか? キッザニアの裁判所で決めてたりしてないか? とか、これで儲かる計算ができるのは悪い大人に違いない…とか、何よりも応援してくれる読者の納得がいくアニメ化ができるのかという不安がありました。

ところが想像していたよりもかなりの力を入れてアニメ化していただけるようで、「これならみんなが得できるかも!」と思うと同時に、それはそれで何か怖いんですけど。アニメ制作陣の真の目的は一体何なんだ…と。

喜ぶにはまだ早いという姿勢を、漫画を描き始めてから受賞、読み切り、連載からアニメ化決定まで崩さずに来たので、素直に喜ぶタイミングを逃し続けている節もあります。アニメ放送日はこれ以上ないタイミングなので、ハッスルしたいですね。


©フォビドゥン澁川/集英社


――放送日が待ち遠しいです。アニメはすでにご覧になったのでしょうか。もし視聴済みでしたら感想を教えてください。

完成版はまだ観ていませんが、アフレコ現場は見学させていただきました。

見学といってもオンライン上でこっそりと、気持ち的には盗聴に近い感じで聴いていたのですが、声優さんのパワーに圧倒されっぱなしでした。スナックで客と店員が好き勝手にしゃべっているだけの原作ですが、声優さんの演技によってキャラクターに血が通うと改めて、好き勝手言っている感じがしますね。

漫画を描いていて、「こういうこと言わせて大丈夫なのか?」と不安になることもそこそこあるのですが、実際にアニメになるとやはり…そんなこと言って大丈夫なの…?と不安になりつつも共犯意識が勝手に芽生えています。実行犯には実にいい仕事をしていただいております。裁判で証言してもいいです。


スナックはママしだい、漫画もキャラしだい


――作者として、アニメのどんなところを楽しみにしていますか?

キャラが動いてしゃべる完成版はどうなるのだろうと、純粋に楽しみにしています。

どこを楽しみにしているかは、原作を追いかけてくれている読者とあまり変わらないのではという気がします。下手すりゃそういう読者のほうがよっぽどファナティックな目線かもしれません。

強いて作者としての楽しみを言うなら、金金金金の金の話やね!

若者の間では何が流行るか予想がつかないから、どうにかチャンスを掴めんだろうか。
まかり間違って本編を観ていない女児にウケたりして、親御さんの財布からいくらかいただけんだろうか……アニメ制作陣に期待を込めて、敢えて言いたい。一生働かなくて済むだけのお金を儲けさせてくれや…!


©フォビドゥン澁川/集英社


――原作の話に移ります。そもそもスナックを舞台にした理由を教えてください。

連載に向けてプロットを量産していたのですが、その中に「めぞん漆黒」というアパートの大家さんの話がありまして、当時の編集長様が「このアパートの住人のスナック従業員を主役にしてみたら」と。…なんで?

近所のスナックには友達とたまに行っていたのでそこを参考に、老獪なママがいて奔放なチーママがいて…という感じで『スナックバス江』の非常に簡単なプロット案ができました。札幌の北24条という立地も、すすきのだとちょっと欲望が渦巻きすぎちゃうかなとか、住宅街にひっそり佇んでいるようなスナックだと漫画として地味すぎるかなとかいろいろありまして、間を取って北24条がちょうどいいじゃんという感じで決まりました。

なのでスナックを舞台にした理由にそれほど深いものはありません。舞台と決めたからにはスナックの「文化」を描き切らねばならぬという使命感に燃えてしまったりもしましたが、取材と言う名の飲み歩きを通じて、そんな肩ひじ張ってるママさんも「おらんがな!」となったので、まぁギャグ漫画だし楽しくやろうやという感じで落ち着きました。

楽しい場所を舞台にしたから漫画を描くのも楽しくやれているのかなという感じはします。
こうして振り返ってみると、スナックはママしだい、漫画もキャラしだい…という通ずる部分があってのディレクションだったのかしら…?



アニメ化して一番期待していることは…


――弾ける個性を持ったキャラクターたちは、どのように生み出されているのでしょうか。

偏見です。

まずどういう話をするかが先にありまして、こういう話をする人はこういう人に違いないというのと、こういう人はこういう考えをしているに違いない!という偏見の往復です。

あとは、ギャグとして時にはキャラクターによろしくない主張をさせてしまうこともありますが、情状酌量の余地を持てるようにはしています。気持ちはわかるけどダメでしょうと、悪いことに対して「気持ちはわかる」範囲に留めておかないと笑えなくなってしまうので、泥棒にも三分の理あり的な…。森田が気持ち悪いことを言っていても、童貞にも三分の理あり的な感じで読んでいただければ…。

気持ちが入りすぎて偏るのもよくないので、いい面と悪い面がバランスよくできていたらいいな〜と思います。


©フォビドゥン澁川/集英社


――アニメ化を経て、キャラクターの声を聞いて新たなインスピレーションを得たなど、今後の漫画作りに何か影響はありそうですか?

己の中で影響がせめぎ合っている最中です。

実際にアニメにしていただいて、「こんなヒドイ話描いていたっけ!?」という部分もあったので気をつけなければという部分と、これをアニメにできるならもっとイカツイ話もいけるってことかな、という部分で揺れています。

ただ、揺れ動いたところで制御できるほど器用ではないので、何かええ感じになるようになればと思います。

ちょっとネタバレになっちゃうんですけど、アニメオリジナル展開として原作にない背景がしっかり存在しているので、今後の参考にさせていただきたいです。そして、漫画作りというよりも実生活に影響があってほしいですね。そう。結局は金の話やね。


©フォビドゥン澁川/集英社


――原作を愛する読者たち、そしてアニメから「スナックバス江」を知る人たちに、それぞれメッセージをお願いします。

まずは、いつも原作を応援してくださる読者様のおかげでアニメ化に至る運びとなりまして、大変ありがとうございます。

連載当初は森田だった方も、徐々にタツ兄化してきているのでしょうか。大丈夫でしょうか。
今後ともスナックバス江一同を何卒ご贔屓によろしくお願いいたします。

そして、アニメを機に『スナックバス江』に触れることになる方々につきましては、気になったらでけっこうですので、原作漫画の方にも手を伸ばしていただけたら幸いです。


©フォビドゥン澁川/集英社


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取材・文/関口大起