いよいよ球春到来。応援するチームの本拠地に足を運ぶ機会も増えると思います。

球場で飲むビールは格別ですが、球場は日本全国どこでも同じではありません。ということで今回は、「球場の個性」についてお話ししたいと思います。

かつて、阪神の本拠地である甲子園の名物といえば「ラッキーゾーン」と呼ばれるエリアでした。これはホームから見て外野席の手前、外野グランド内に柵を設けて、意図的にフェアゾーンを狭くしたもので、ホームランを増やす狙いがありました。

リーグ全体でホームラン数が増加した1990年代前半に廃止されましたが、その後、低迷する阪神の起爆剤として復活論が巻き起こったことも。ただ、逆に敵チームにも有利になるということで叶うことはありませんでした。ちなみに現在でも、ソフトバンクのPayPayドームには「ホームランテラス」と呼ばれるラッキーゾーンが存在します。

なぜ球場はそれぞれ違うのか。それは、球場は一定の規格さえ満たしていれば自由に設計ができるからです。球場によっては、ホームからの距離がレフトとライトで違うところもあります。

MLBだと、ヤンキーススタジアムはレフトに比べてライトが短く設計されています。ライトに引っ張る打球が多い左打者のベーブ・ルースが活躍していた当時、彼のホームランが出やすいように配慮された名残だとも言われています。日本では広島のMAZDA Zoom-Zoom スタジアムも、ほんの1mではありますがレフトのほうが長く設計されています。

1912年に完成したボストンレッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークは、MLB球場のなかで最も古い球場として知られていますが、こちらの目印はレフトにそびえる大きな緑色の壁。通称「グリーンモンスター」です。市街地の中ということで、建設の段階で建築に制限がかかり、ライトに比べてレフトが短くなってしまったことから、簡単にホームランが出ないように設置されたものです。

一見、投手が有利に思われますが、通常だとフライアウトになるような打球もこのフェンスに当たると問答無用でヒットになることから、打者はレフトに打球を飛ばすことが多くなります。一方で守備をする側の選手は、クッションボールの練習をたくさんするそうです。

シカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドは、外野フェンスにツタが茂っています。打球がツタにからまった場合は、エンタイトル・ツーベースになります。ちなみにこの球場は、初代オーナーの「野球はお日様の下でやるもの」という心意気を継承し、80年近くナイター照明が設置されませんでした。1980年代後半に、デーゲームでは選手の疲労が大きくなることなどを考慮してついに設置されたものの、現在でもほかのチームと比べてデーゲームが多いです。

球春到来。あけましておめでとうございます! みなさんの思い入れのある球場も教えてくださいね。
球春到来。あけましておめでとうございます! みなさんの思い入れのある球場も教えてくださいね。

ヒューストン・アストロズの本拠地ミニッツ・メイド・パークは、かつてセンターの奥になんと小高い丘があり、グランド内のフェンス際にはポールも立っていました。これは選手が転んでしまう危険性もあり、2016年に撤去されています。

形状ではない特徴がある球場もあります。コロラド・ロッキーズの本拠地クアーズ・フィールドは標高が1600mもあるため、ボールが飛びやすくホームランが出やすい球場として知られています。

日本だと、甲子園やロッテのZOZOマリンスタジアムは風の影響を大きく受けます。甲子園は浜風がライトからレフトに吹くため、ライトへの打球が伸びづらいそうです。

海の近くにあるZOZOマリンスタジアムは、時に10m以上の強風が吹く中で試合をすることも。風を味方につけた投手のストレートは打者の手元で軽やかに伸び、逆に向かい風を受けた時のカーブはまるで止まっているように見えるという話もあります。

一見、画一に見える日本の球場も、実はいろんな個性があります。最近では、日本初の開閉式天然芝スタジアムである、北海道日本ハムの本拠地エスコンフィールドは、マツダスタジアム以来となる非対称の形状になっています。

こちらはライトのほうが2m長く作られており、屋根の勾配も左右非対称になっているそうです。また、サウナや温泉に入りながら試合を観戦できる施設もあり、"ボールパーク"として人気を高めたいという狙いが見えます。

大きなスタジアムはもちろんのこと、地方のスタジアムもいいですよね。ヤクルトが試合を行なう愛媛県・松山市の坊っちゃんスタジアムは、ファンクラブ会員限定ですが、試合後にグランドに入ることができます。憧れの選手が実際に試合をしたマウンドやバッターボックスに立つ経験は、なかなかできるものではありません。

2軍のスタジアムにも個性があります。DeNAの横須賀スタジアムは1軍に引けを取らない立派なスタジアムで、トレバー・バウアー投手(現メキシコシティ・レッドデビルズ)が入団する決め手になったとか。また、ヤクルトの2軍球場は埼玉県の戸田市から茨城県の守谷市に移転する計画がありますが、たくさんの人が足を運びたくなるような、魅力的な球場にしてもらいたいです。

敵を知るにはまず球場から。みなさんも各球場の特徴を知って観戦してみてはいかがでしょうか。意外な攻略法に気づくかも? それではまた来週。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年から5年間、『ワースポ×MLB』(NHK BS)のキャスターを務めた。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作