U−23アジア杯で攻守にわたりチームを牽引し、大会MVPに輝いたMF藤田譲瑠チマ選手
U−23アジア杯で攻守にわたりチームを牽引し、大会MVPに輝いたMF藤田譲瑠チマ選手

五輪最終予選を兼ねたU−23アジア杯で優勝を果たし、パリ五輪の出場を決めたU−23日本代表。中でも注目のひとりが、攻守にわたりチームを牽引し、大会MVPに輝いたMF藤田譲瑠(じょえる)チマ(シント=トロイデンVV)だ。7月3日の本大会登録メンバー発表を前に話を聞いた。

■「(チームは)うるさいヤツばかりです(笑)」

パリ五輪最終予選を兼ねたU−23アジア杯(カタール、今年4、5月開催)が始まる前、サッカー男子の五輪出場を危ぶむ声は少なくなかった。しかし、終わってみればU−23日本代表は見事優勝し、パリ行きを決めた。そんなチームの中心にいたのが、主将で大会MVPにも輝いたMF藤田譲瑠チマである。

――最終予選前は、出場権獲得は厳しいという声も多かったですが、どう感じていた?

藤田「正直、そんなに気にしていなかったです。すごく自信があったわけではないですが、五輪に行きたい気持ちは強かったですし。もちろん、実際に出場権が取れたときはホッとしましたけど」

U−23アジア杯を振り返ると、初戦の中国戦で前半に退場者が出たかと思えば、グループリーグ最終戦では韓国に敗戦。その結果、出場権獲得への大一番とされた準々決勝の相手は開催国の難敵カタールとなり、そのカタール戦ではひとり少ない相手に一時は逆転を許すなど延長戦までもつれる激闘だった。

――優勝はしましたが、ハラハラする展開が続きました。

藤田「いろいろありましたからね。確かにカタールとの対戦が決まったときは少し不安もありました。ただ、全体を見れば(優勝候補の)ウズベキスタンやサウジアラビアとは(決勝トーナメントで)逆のブロックに入れましたし、そういう意味ではラッキーだったのかなとも思いました」

――カタール戦や準決勝イラク戦の前には藤田選手を中心に"ミーティング"を行なったそうですね。

藤田「もともと僕は積極的に行動するタイプでもないですし、過去の遠征でもやったことはなかった。でも、大会前にいろいろと考えて、状況によって皆に呼びかけることは考えていました。主将としてそれ以外は何もしていないですけど、選手ミーティングはやって良かったです」

――(取材時点で)パリ五輪本大会の登録メンバーは発表されていませんが、現在のU−23日本代表をひと言で表すとどんなチーム?

藤田「うるさいヤツばかりですね(笑)。例えば(GKの小久保玲央)ブライアンはくだらないことをずっとしゃべっていて、黙っていられないですし(笑)」

――藤田選手もピッチ内ではよくしゃべると聞きました。

藤田「そうですね。サッカーについては僕もしゃべってないとダメなタイプ。試合中はしゃべってないと落ち着かなくて......。だから、僕の声が出ていないときは調子が悪いっていうか沈んでいるときで、わかりやすいのでみんな気づいていると思います」

――遠征中はチームでラップやヒップホップなどの音楽をよく聴いているようですね。

藤田「だいたいブライアンが"DJ"として選曲しています。アップテンポというよりは落ち着いた曲が多めです」

――どんな歌手が好み?

藤田「僕が好きなのはラッパーの唾奇さんとか、もう解散してしまったのですが、BAD HOPとかですね」

沖縄出身の人気ラッパー唾奇や川崎出身のヒップホップグループ、BAD HOPはその音楽性が高く評価されるのと同時に、過酷な生い立ちも注目されてきた存在だ。

――彼らの音楽には厳しい環境から這い上がっていくようなイメージもありますが、そういうストーリーを自分のサッカー人生にオーバーラップさせることもある?

藤田「そういう曲もあるし、そういうことを考えるときもありますね」

■過去の五輪で印象に残っているのは......

U−23日本代表は6月上旬にアメリカ遠征を行ない、U−23アメリカ代表に2−0で勝利した(アメリカとは2試合を行なったが、1試合は完全非公開で結果も非公表)。

――本番に向けてのチームの状態が気になります。

藤田「アメリカには昨年10月に1−4と負けていたので、当時と比較してチームの成長を感じました。もちろん、内容的にはまだまだ改善の余地はありますけど、1年前と比べても戦えるチームになってきているのは間違いない」

――メンバー選考を兼ねた遠征ということで、いつもと違う雰囲気もありましたか?

藤田「自分はそんなに変わらなかったと思いますし、気にしても仕方ないのかなって。ただ、少し前にオーバーエージで招集の可能性のある選手の名前がメディアに出ていて、そこに自分と同じポジションの選手がいたので『えっ!』ってなりましたね(笑)」

――日本は前回の東京五輪でメダルまであと一歩の4位。それだけにアジアを制した今回のチームには、1968年メキシコ五輪以来となる56年ぶりのメダル獲得の期待もかかります。

藤田「僕はメダルを狙うというよりは、優勝したいです。大会が始まればなるようにしかならないですし、今はプレッシャーよりも楽しみの気持ちのほうが強いです」

――対戦相手のパラグアイ(7月24日@ボルドー)、マリ(同27日@ボルドー)、イスラエル(同30日@ナント)にはどんな印象がある?

藤田「正直、パラグアイとイスラエルについてはわかりません。マリは今年3月に1−3と負けていて、アフリカ勢特有の身体能力の高い強い相手です。ただ、本番前に一度対戦できたことはプラスになるかなと思っています」

――五輪は中2日で試合が続き、連戦の厳しさもあります。

藤田「僕は短期決戦のほうがリズムをつかみやすく、自分のプレーもどんどん良くなる印象があるので好きですね。もちろん、長い合宿では多少のストレスを感じることはあります。『いつものあれが食べたい!』みたいなときもあるじゃないですか(笑)」

――藤田選手は苦手な食材があると聞きました(笑)。

藤田「ピーマンが苦手で......。酢豚とかチンジャオロースーはダメですね。あと、パプリカ、ゴーヤー、セロリ、アスパラ、インゲン......苦みのある野菜はちょっと(苦笑)」

今回のU−23日本代表はチームの一体感も武器のひとつ。選手同士でよく遊ぶゲームは『クラロワ(クラッシュ・ロワイヤル)』だとか
今回のU−23日本代表はチームの一体感も武器のひとつ。選手同士でよく遊ぶゲームは『クラロワ(クラッシュ・ロワイヤル)』だとか

――自身のプレー以外で、パリ五輪で楽しみにしていることはありますか。

藤田「できるなら他競技も見てみたいですけど、サッカーはパリ以外の都市で行なわれる試合が多く、選手村にも入れそうにない。僕はバスケットボールも好きなので、もし選手村に入れたらアメリカ代表のレブロン・ジェームズ(NBAのスーパースター)に会えるかもしれないじゃないですか(笑)。

サッカーをやっていなくて、僕に身長がもっとあればバスケ選手になりたかったという気持ちもあるほどなので。バスケはヒップホップとかのカルチャーとの相性も良くて、単純にカッコいいし、憧れます」

――過去の五輪で印象に残っている試合はありますか?

藤田「覚えているのは2012年ロンドン五輪でスペインに勝った試合です。サッカー以外だと、競泳の北島康介さんですかね。(08年北京五輪の平泳ぎ100mで大会連覇した直後のインタビューで放った名言)『なんも言えねぇ!』は学校でマネしていた記憶があります(笑)」

――メダルを取った際には、"名言"を期待しています。

藤田「考えておきます(笑)」

――以前からプレミアリーグへの移籍希望を公言してきた藤田選手にとって、パリ五輪は大事なアピールの場でもあります。

藤田「一番レベルの高いチームがそろうプレミアリーグでプレーするのは夢です。かつてシント=トロイデンVVに所属していた遠藤航選手(リバプール)、冨安健洋選手(アーセナル)、橋岡大樹選手(ルートン)の3人も、その後移籍し、今はイングランドでプレーしているので、そこに行けるかは自分次第だと思っています」

――一方で、五輪はインターナショナルマッチウイーク外に行なわれるため、主にヨーロッパではクラブでのプレーを優先して欠場する有力選手も少なくないです。

藤田「そこは難しいところ。ただ、自分としてはプレーする以上は全力でやるだけです。五輪に出場すれば、クラブのプレシーズンには参加できなくなってしまいますけど、五輪でしっかりプレーすれば新シーズンにもつながるはず。出る以上は自分のプレーに集中し、ひとつでも多くチームの勝利に貢献したいです」

■藤田譲瑠チマ(Joel Chima FUJITA)
2002年生まれ、東京都出身。ナイジェリア人の父と日本人の母を持つ。東京Vの下部組織から東京V、徳島、横浜FMを経て、昨年夏にシント=トロイデンVV(ベルギー)に加入。中盤でのボール奪取だけでなく、パス、ドリブルと高い攻撃力も兼ね備えた万能型ボランチ。日本代表2試合0得点。175㎝、74㎏

取材・文/栗原正夫 撮影/ヤナガワゴーッ!