「私の決断の理由はピッチ上で起こったことを見れば明らかだと思う。私の選択? 純粋に戦術的な判断によるものだ。今日、欠場した選手はみなコンディションに問題を抱えていた。その他の選手は試合に出られる状態にあった」

 イマノル・アルグアシル監督の発言は誤解の余地はなかった。タケ・クボ(久保建英)は22年夏にレアル・ソシエダに加入して以来、初めて戦術的な判断で重要な試合のスタメンから外れた。直近、3試合のうち2試合でベンチスタートとなる理由となった右足ハムストリングの違和感による不安はすでに解消している。

 アルグアシル監督の決断が妥当かどうかを論じるのは難しい。タケは前節のレアル・マドリー戦でソシエダが生み出したチャンスのほとんどすべてに絡み、シーズン序盤の絶好調時に比べれば見劣りするものの、チームで最も傑出した働きを見せた。

 そんな中、スタメンを外れたのは、その一戦から導き出されたデータから、あるいはラス・パルマス戦に向けた練習の中で、何か納得できないことを感知したからに違いない。加えてDFラインを高く設定するラス・パルマスの戦術的な傾向を見越して、その背後に広がるスペースを突こうという算段だったのかもしれない。
 
 ソシエダが連戦による疲労の蓄積でこのシーズン終盤、パフォーマンスが低下し、その中で最も影響を受けている選手の1人がタケであることは明らかだ。彼はアジアカップから帰還して以来、調子を崩している。

 だからといって持ち前のファイティングスピリットが萎んでいるわけでも、ハードワーカーぶりが低下しているわけでもないが、タケのプレーから魔法、閃き、即興性といったものが以前よりも感じられなくなっている。

そのため、相手チームはより楽にボールを持って考えフリーで待っている選手を見つける時間が増え、守備の安定感に影を落とす結果となっている。チームNO.1の個の打開力を誇る選手の影響力が低下すれば、それほどまでにチームに波及するのである。

 そんな中、アルグアシル監督が打開策を探るのは当然のことだ。それがラス・パルマス戦での前線の顔ぶれの入れ替えに繋がったわけだが、指揮官はタケの代わりに、縦への推進力に長けるシェラルド・ベッカーを起用し、アンデル・バレネチェアをスタメンから外して、アンドレ・シウバを1トップに配置。前節その役割を担ったミケル・オジャルサバルのポジションを左にスライドした。
 

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 実際、アルグアシル監督のこの采配は的中し、ベッカーは1得点1アシストの活躍でソシエダを勝利に導いた(2−0)。しかしそれと89分までタケを起用しなかったこととは全く別の話で、投入されるまで、ピッチ脇で10分近くアップする姿を見るのは、悲しく辛いものだった。

 言うまでもなくタケのモチベーションは高かった。アディショナルタイム突入早々、ゴール前のスペースに走り込んでアルセン・ザハリャンへのパスを呼び込もうとしたが、寸前のところでサウール・ココに阻止された。
 

 その直後にも、鋭い読みでサンドロ・ラミレスからボールを奪うと、終了間際にはドリブルを仕掛け、対峙したセルジ・カルドナをかわそうとした瞬間に足を引っ掛けられて転倒。明らかなファウルだったにもかかわらず、VARチェックの対象にならなかったのは、ペナルティエリア外で接触があったと判断されたと思われる。
【動画】久保のノーファウルシーン。絶妙トラップからドリブル突破
 次節はモンジュイックに乗り込み、落ち目のバルセロナと対戦する。 アルグアシル監督はシーズン当初からそうだったように、タケに賭けるか? それとも、ベッカーのスピードを好むか? 

 チュリウルディンのエースが2戦連続続けてスタメン落ちとなれば、いろいろ勘ぐりたくもなる。シーズン終盤の重要な時期に、決定的な選手を欠くのは普通のことではない。タケがベンチで浮かべていた不満顔はその当然の反応だった。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸 

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