五輪切符の懸かった準決勝は、今大会最高のチームパフォーマンスを見せる試合となった。


「負ければ予選敗退」という背水の陣で臨んだ準々決勝・カタール戦は、選手たちが口を揃えて「これまで感じたことのないプレッシャー」と形容する重圧の中、判断も鈍り、決断も翳り、精度も落ちる中で自分自身に打ち克ったような苦しい試合だった。


 一転して準決勝・イラク戦は、その強烈なプレッシャーの反動も出る形で溌剌とプレー。イラクは日本の右サイドを厳重に警戒してきたが、それをあざ笑うように左から切り崩し、中央をぶち抜き、2つのゴールを前半の内に流し込んでの快勝となった。


「この試合、みんなの共通認識として『負けても次がある』という考え方は止めようという話はしていましたけど、でもやっぱり、『負けたら何も残らない』というカタール戦のほうがプレッシャーは感じていました」(MF藤田譲瑠チマ)


 イラクが守備的な布陣を敷いてきたことも、逆に日本にとってはやりやすくなった面もあった。試合前から5バックのチームに対する「慣れ」を語ってくれていたのはMF松木玖生だが、これだけ5バック相手の試合が続けば、自然と選手たちの“攻略法”に関する共通理解も育つもの。「(サイドで)餌をまいて真ん中を行く」という大岩監督の狙いを体現する形でのゴールが生まれたのは必然だった。


 2-0の快勝での決勝進出、そして五輪切符獲得となったが、大会がこれで終わったわけではない。試合後のロッカールームで大岩監督は「おめでとう」と選手たちを労ったあと、すぐにこんなことを続けたと言う。


「ウズベキスタンには2年前に敗れた借りもある。それを返しに行こう」


 今大会で決勝進出を果たしているウズベキスタンとは、2年前のAFC U23アジアカップ準決勝でも対戦済み。このとき、日本は大会の年齢制限より2歳若いU-21代表チームで参加していたのだが、ウズベキスタンも同じ条件でチームを組んでいた。つまりパリ五輪世代同士での真っ向勝負となり、0-2で敗れたことになる。


 内容もボール支配率こそ日本が上回ったが、シュート数20対6と圧倒され、デュエル勝率も特に空中戦では75対25という大差になった。大岩ジャパンが立ち上がってから最も悪い記憶の残る試合だったと言っても過言ではない。指揮官が「借りを返す」と言いたくなるのも当然だろう。


 藤田は五輪切符を「自分たちの最低目標」とした上で、「まだもう一つ目標はある」とアジア王者獲得へ、もう一度照準を合わせ直すことを誓う。また五輪切符獲得後最初の試合は、パリへ向けての最初の一歩とも言える。五輪はたった18名の枠しかなく、今大会に不参加だった欧州組も多数いて、しかもオーバーエイジ選手の起用も予想される現実もある。


 チームとして五輪への切符はつかんだとはいえ、個人としての五輪行きを保証されている選手が一人もいないのも、また現実だ。もちろん、五輪で結果を出すために、チームとしてより積み上げていく必要もある。5月3日、23歳以下のアジア王者を決する戦いは、パリへの戦いの始まりでもあると言えるだろう。


取材・文=川端暁彦


AFC U23アジアカップ2024 試合日程


決勝 vsU-23ウズベキスタン代表

5月3日(金) 24時30分キックオフ

DAZN、NHK総合で生中継