「悪童」ネリは早くもリミットクリア?

プロボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(31=大橋)がルイス・ネリ(29=メキシコ)を迎え撃つ防衛戦が5月6日に東京ドームで行われる。

4日には両雄を含む4大世界戦に出場する計8選手が記者会見に出席。井上尚弥は「いよいよこの日が来たなという思い。ネリも良い状態に仕上がってると聞いているので、とてつもない試合ができると確信している」と自信満々。ネリも「この試合が決まってから充実した日々を送ってきた。練習もパーフェクト。体重もリミットの中にある」と万全を強調した。

たびたび取り上げられているが、ネリが「悪童」と呼ばれるようになったのは、2017年8月の山中慎介との初戦でドーピング陽性反応が検出され、2018年3月の再戦でウェイトオーバーしたからだ。

JBC(日本ボクシングコミッション)はネリが日本のリングに上がることを禁止する事実上の永久追放処分を下したが、その後は違反をしておらず、現在はWBCスーパーバンタム級1位にランキングされていることから処分を解除。東京ドームで世紀の一戦が決まった経緯がある。

それでも、井上が所属する大橋ジムの大橋秀行会長は試合が決まった際、ネリが1ポンドでもオーバーしたら?と質問され「やりません、絶対。それは公言しておきます」と断言。試合前日の計量だけでなく30日前、14日前、7日前など定期的に体重の報告を義務付け、抜き打ちのドーピング検査も含めて、同じ失態を繰り返させないよう万全の態勢を敷いていた。

通常は計量当日に合わせて体重を落としていくが、ネリの言葉が本当なら計量前日にすでに55.34キロ以下に絞れていることになる。ネリは会見中もサングラスを外さず「悪童」らしい不遜な振る舞いにも映ったが、この一戦に懸ける思いは本物と見てよさそうだ。

井上有利も油断できないネリの一発強打

とはいえ、井上尚弥の有利は動かない。プロ通算26戦全勝(23KO)、世界戦21連勝中の絶対王者があらゆるパンチを駆使してネリを倒すだろう。ネリが前に出てくれば前半KOも十分にあり得る。

注目したいのは井上尚弥のディフェンス技術だ。圧倒的な攻撃力に隠れてあまり語られることはないが、4団体統一王者は防御面でも超一流。一度もダウン経験がないどころか、出血したこともノニト・ドネア(フィリピン)との第1戦で左フックをもらって右まぶたから流血した一度きりだ。

相手のパンチを受けずに、自分のパンチだけを当てる。ボクサーにとって究極の理想を具現化しているのだからパウンド・フォー・パウンドに名を連ねるのも当然だろう。

ネリは好戦的なサウスポー。35勝(27KO)1敗の戦績が示す通り、軽量級では破格の強打者だ。最近はポール・バトラー(イギリス)しかり、マーロン・タパレス(フィリピン)しかり、井上尚弥のパワーを恐れてディフェンシブに戦う相手が多かったが、ネリは積極的に仕掛けてくることが予想される。

もちろん、2階級で4団体統一した王者でもネリのパンチをまともに受ければ立っていられる保証はない。何より、34年前の東京ドームでは「鉄人」マイク・タイソンがノックアウトされたのだ。ボクシングに「絶対」がないことは歴史が証明している。

「打たせずに打つ」ボクシングの理想型

そこで目を凝らしたいのが王者のディフェンス技術。バトラーのようにガチガチにガードを固めて防御一辺倒になるのではなく、攻防一体となっているため見落としがちだが、よく見ると見事に相手のパンチをかわしている。

SPAIAの集計では、最も苦戦したドネアとの第1戦で井上尚弥が放った総パンチ数は595発で、うち有効打は130発。有効打率は22%だったが、ドネアは567発中49発で有効打率9%にすぎなかった。5階級制覇の名王者が相手でも、それだけ「打たせずに打つボクシング」を実践しているのだ。

パワーはないもののテクニシャンとして定評のあったスティーブン・フルトン(アメリカ)との一戦でも、井上が総パンチ数341発中71発の有効打で21%だったのに対し、フルトンは237発中25発で11%と、倍近い確率で有効打を当てていた。

普段のトレーニングから、打ってよける、よけて打つ、という練習を繰り返し、体に覚え込ませている賜物だろう。左ジャブをフェイントにして相手が打ち返してきたところをよけながら同時に左フックを打ち込むなどコンビネーションは無数にある。

しかもスピード、パワーは世界トップクラスのため、どんな相手も見事に術中にハマるのだ。井上尚弥に勝つとすれば、少なくともどれだけパンチを受けても倒れない鉄の顎と鋼のボディーがないと厳しい。

ネリ戦は間違いなくスリリングな一戦になる。それはネリが「悪童」だからではなく、パワーのある危険な挑戦者だからだ。そんな相手だからこそ日本が誇るモンスターの、極上の技術を堪能したい。

【関連記事】
・【ボクシング東京ドーム決戦】井上尚弥のフィニッシュブローを予想、ネリを倒すKOパンチは?
・井上尚弥vsルイス・ネリは異例の一戦、東京ドームのリングまで「悪童」を厳重管理
・井上尚弥のKO完勝が「苦戦」に見えた理由、データで見るボクシング4団体統一戦