海外音楽情報専門ポッドキャスト『speakeasy podcast』とSPICEの連動インタビュー企画。今回のゲストは、VivaOla。2020年6月にリリースしたミニアルバム『STRANDED』はJ-WAVE TOKYO HOT100にてトップ10入りを果たし、Spotifyでは『New Music Wednesday』『Soul Music Japan』『Edge!』などのカバーアーティストに選出され、リリースごとに話題を呼んでいる。先立ってSpotifyで公開されたポッドキャストでは、ニューアルバム『APORIE VIVANT』の制作過程やVivaOlaのルーツや哲学についてなど、約45分にわたってじっくりと深掘りしている。SPICEでは、ポッドキャストで語られたエピソードをテキストにして、ダイジェスト版でお届け。5月25日(土)からスタートするクラブツアー『THE HILL YOU DIE ON CLUB TOUR』と合わせて、改めてチェックしてみてほしい。

「今回は自分のストーリーを大事にしなきゃと思った」
ルーツを振り返り、今のVivaOlaを鮮明に描いたニューアルバム

ーーアルバムに向けて楽曲を立て続けにリリースされていたタイミングで、世界観やサウンドが統一されているような印象を受けました。今作の制作にあたって、前作から違う方向に向かっていこうとか、そういう大まかな方向性があったんですか?

それが一番大きいですね。前作を出した反応だったり、いいも悪いも全部いろんな反応を見て、これはダメだったかとか。人が嫌でもやっぱり俺はこれがめっちゃ好きだなみたいな、そういうのを回収した作品ではあるかもしれないですね。

ーー例えばなんですけど、「ROLLS ROYCE」では、音楽シーンのことを歌っていると僕は感じました。例えば、自身の音楽を<CITY POPと呼ばれた>といった歌詞もあるじゃないですか。そういうところも前作からの流れなのかなと思ったりしたんですけど、どうですか?

完全にそうですね。音楽シーンだけじゃない、いろんなものを混ぜ合わせているというか。人間関係とかもあるんですけど、あんまり人に言えないようなこともソングライティングに落とし込んでいます。

自分の中でライティングのルールがあって、例えば朝1時に2人きりでしか話せないような重いこととか甘いことを入れると、曲としてすごい魅力的になると思っていて。「ROLLS ROYCE」のバースはまさにそれで、2021年ぐらいに自分がインタビューで言ったことを思い出したバースで、「ジャンルじゃなくて、ルーツだよね」ということを言いたかったんですよね。『​​Juliet is the moon』(2021年)が振り返ってみてもすごくいい作品だなと思っていて、自分の進化もアウトプットの幅の広さも見える作品だったのに、それが嫌な時期があったんです。チープだったのかもなって。それは自分に対してで、音楽に命をかけてやってるからこそもっとうまく昇華できなかったのかな、という思いから「CITY POP」という単語も出てきて。だから、直接だれかに何かを言われたとかではなくて、そういう想いをうまく表現するにはあのバースだったなと。

ーー「ジャンルではなく、ルーツ」という考え方は、「ROLLS ROYCE」にそのままそういう表現が出てきますよね。これはつまりどういった考えなんですか?

最終的にしたことじゃなくて、今までしてきたことだったり、自分の育ってきた環境が大事だな、という意味です。例えば、「この人はR&Bアーティストです」と言った時に、R&Bというジャンルが幅広すぎて「R&Bって何?」となる。HIPHOPでも、いろんな時代のHIPHOPがあって、よくR&Bと括られる瞬間もあったり。始まっているところによって全然違うジャンルだし、歴史的な事実もあるし、その人が「R&B」だと思ったらそうだから主観的な事実もある。だから、その人がどういうものを見てきて、それを何と呼んでいるかが大事なんじゃないかなって。例えば、ソウルとかR&B、モータウンが好きな人が、今はポップスをやっていても関係ない。それらを聴いてきた人がやってるポップスというだけであって、「ポップスを歌ってるからポップスの人間だ」というのは浅いんじゃないかなと、自分に言ってるバースなんですよね。

ーー僕も音楽に限らず、歴史をすごく重要視したいタイプなんですね。それは音楽の歴史でもあるし、アーティストとしてのルーツだったり、自分がそのルーツをどう受け取っているかという評価もあると思うので、文脈をすごく大事にしたいなとリスナーとして思っているんですね。VivaOlaさんは、インタビューを読んだりしていると文脈をすごく大事にされてるんだろうなという印象があります。

すごく大事にしてると思ってるし、していきたい。だけど時にそうできない瞬間もあって、常に勉強してる身なので、自分が把握してないこともあるし……だから「ROLLS ROYCE」の一節はそう見えてたらいいなと思っています。特に今回の作品は、そういった文脈だったり考え抜いた表現が強く出ただけなのかなとも思います。

ーーサウンドにも歌詞にも制作方法にも影響は出ていますか? 

そうですね。今回は自分のルーツのようなところが、テーマとしてすごく強くあって。制作方法でいうと、そもそも1st EPの「STRANDED」(2020)が先にあって、その中でも「Runway」が一番好きなんですけど。この曲には、音楽を始めた理由みたいなことを考えてしまった時期を思い出すエピソードがあるんですね。それが自分がボストンにいて、「Tokyo Syndrome」を作っていた頃、ウェズくん(Wez Atlas)と電話しながら「これいいね」とか話している流れで、「Runway」のデモを送ったら、ウェズくんに「この曲はそんなにおもしろくないかも」みたいに言われたんですよね。「こういうの別にやんなくていいんじゃない」って。彼が率直にそう言ってくれたことが印象的で、だけど「俺はそれでもやる!」と思った気持ちを思い出すんですよね。本当はそういうとこから始まっているはずなのに、いつのまにこんなにも人の意見を気にしてるんだろう、みたいなことを考えたり。

ーーそれはアーティストとして活動していく中で、そう思うようになったということですか?

ほかの人と曲を作ってきたから億劫になったということではなくて、シンプルに人とやって学んだことが多かったから、自分でも活かせる場面を作んなきゃと思って。それで今回は、Kota Matsukawaと2人だけの制作に戻った感じですね。(今まで共作してきた)人たちのストーリーを聞いてきた中で、作ることができたのが『​​Juliet is the moon』だったから、今回は自分のストーリーを大事にしなきゃなと思ったんです。自分はポストンの家で一人で料理を作って、ほとんど引きこもって自分の音楽を毎日聴いて、朝起きて考え直す……みたいなことをまたやんなきゃなと。

ーー「STRANDED」はほとんど一人で作り上げて、前作『Juliet is the moon』はいろいろな人が参加されて、今回はKota Matsukawaさんと2人でほとんどアルバムを作り上げた……というところもおもしろいなと。

ひとつは同じことをしてもつまらないというのがあって。ルーツの話に戻ると、モータウンが好きで、スティーヴィー・ワンダーと同じことをしても個人的にはおもしろくないと思っていて。それをやる人がいてもいいし、カバーもいいと思うけど、俺はそこが面白くないと思っているから。歴史を振り返ると言っても同じ手法をまた持ってきたところで、おもしろいものはできないと思ったので、進化のためにもう一人いてくれた方がいいかなと思って。そのタイミングがすごいよかったというか……言葉では説明しづらいですけど、今この人がこの場にいてくれることが俺にとってすごくいい気がするなって。

ーー自分の中のタイミングに、今回はMatsukawaさんがハマったというか。

さっきのウェズくんのエピソードも同じで、それ以上もそれ以下もない、その時にいてくれたことがいい経験になった。『​​Juliet is the moon』でいろいろな人と作った時もいい経験になった。今回もそれがあったから、もう1人と密接に作り上げていくのがまたいいタイミングだったなって。

ーー今回の制作で、また次に向かう道になりそうな印象的だった出来事ってありましたか?

ありました。アルバムが完成する手前でマネージャーと話していたことがあって、VivaOlaの振り幅が見えてきたというか。毎回、はっちゃける時期とギュッと過集中する時期があるんですけど、今は集中している時期だから次はバッとはっちゃけると思うんです。特に(藤田)織也くんと出会えたことが刺激的だったんですけど、学びが超多くて。ライティングをここまで一緒に考えてくれたり、共感できた人が滅多にいないんですよね。織也くんと今回やっていて、「そこまで考えるよね!」「こういうところ気にするよね!」みたいなフェチズムが似ていたというか。バイリンガルってのもあったし、バックストーリーも好きな音楽も似てたし。彼と会って一番学びがあったのは、この作品はそれができたと思いつつ、それをまた別のゴールにして作品づくりがしたいなと思ったんですよね。

ーーちなみに、アルバムタイトルは『APORIE VIVANT』ですよね。これってどういう意味なんですかね。

これは造語で、フランス語で「tableaux vivant」という「活人画」を意味する言葉があって、これが写真のない頃に歴史的風景を模写していたみたいなんですね。例えば、フランス革命を再現する時はナポレオンの衣装を着て止まっている様子を模写するんですって。「APORIE(アポリア)」は哲学的単語のひとつで、例えば「今日は花粉がひどい」と誰かが言ったけど、もうひとりは「ひどくない」というと矛盾しているけど、矛盾してる理由が原因だったとき……例えば「今日は花粉がひどい」に対して「いやひどくない。そもそもPM2.5だった」みたいな。これは矛盾しているけど、そもそも原因が間違っているから話し直さなきゃ俺らの議論は意味がない、という矛盾を「アポリア」というんですね。

ーーなるほど、おもしろいですね。

これもルーツのところから来ていて。さっきの振り幅の話になるんですけど、時にミーハーでありたかったり思った通りに幼くいたい自分と、音楽に準じて考え抜きたい大人のような自分がいる。そういう時期につくった作品だったなと思って、その時の自分の「活人画」なんです。その答えはルーツにあったと言うことで、タイトルを『APORIE VIVANT』にしました。これは音楽家じゃない友達が一緒につけてくれたタイトルです。

ーー「活人画」というのは、今回のアルバムを指してるということですよね。

そうですね。今の俺じゃないかもしれないですけど。これを作った時の俺が、ここにいるっていう。あと強いていうなら、タイトルに「VIVA」を入れたオシャレなタイトルをつけたくて、朝3時に考えました(笑)。ほかにもデザイン的な表面的な理由もあったり、いろいろあります。

……ポッドキャスト『speakeasy podcast』では、他にもアルバムに込めた想いだけでなく、VivaOlaの考え方やパーソナリティが感じられるようなロングインタビューに。約45分に渡って深掘りしているので要チェック!

取材=竹内琢也 文=SPICE編集部(大西健斗)