将棋の棋士とファンの交流イベント「クニタチ名人戦」が12日、東京都国立市の「たまごひろば」で行われた。森内俊之九段(53)、藤井猛九段(53)ら12人の棋士が参加。指導対局やトークショーのほか、ドリンク販売の売り子やファンとのチェキ撮影会に臨んだ。飲食をしながら棋士と会話できる、ボードゲームで遊べるなど、近年多様化が進む将棋イベント。そこにはブームを一過性で終わらせない、という将棋界全体の熱い思いがあった。

 風がほおをなでる野外会場に、駒音と笑い声が響いた。対局ブースで指す人、トークショーに耳を傾ける人。その中で「どうぞ!」と、ファンにドリンクを手渡す武富礼衣女流初段(24)らの姿があった。すぐ近くでは、藤井が「喫茶 藤井」のマスターとして自ら淹れたコーヒーをファンに振る舞う。まるで縁日のような風景だった。

 なぜ、棋士も将棋を指す以外の方法でイベントに参加するのか。今回、運営に携わったイベント事業の細谷優人代表(24)は「昨今の将棋ブームで需要の高まりはありますが、普及に危機感を持っている棋士の先生も多い」と話す。藤井聡太王将=8冠=(21)らの活躍で広まった将棋。対局を観る専門のファン「観る将」などが誕生したが、今現在の注目度は「横ばい」。現状維持は衰退、という名言もある。「今のうちからいろいろな活動を通じてファンと交流して、もっと広めていこう!という機運を感じます」と語った。

 今回参加した先崎学九段(53)は「将棋は娯楽産業。指導対局はもちろん、さまざまな形で広がるのはいいですね」。木村一基九段(50)も「ブームで終わらせる気はありません」と力を込める。バラエティー豊富な企画の数々に、協力した地元のDIYシェア工房「クミタテ」の槇野岳志さん(45)も驚き。同店では棋士と撮ったチェキを立てるチェキ立てを販売。「正直“将棋でチェキ?”と思っていたんですが、一気に4個買う方もいて売れ行きがすごい。大盛況です」と笑った。

 「クニタチ…」は今回が第1回の開催となったが、全国から約700人のファンが集結。森内は「予想以上の盛り上がりでした」と振り返り、小山怜央四段(30)も「ここまで盛大なイベントはなかなかないですね」とうなずいた。これからも多彩なイベントを通じ、将棋人気の上昇を目指していく。(小田切 葉月)