セーリングのパリ五輪最終予選(4月、フランス)で日本代表に決まった3選手が8日、都内で記者会見に臨んだ。日本勢初の5大会連続出場となる男子iQFOiL(アイキューフォイル)級の富沢慎(39=トヨタ自動車東日本)はメダル獲得に色気を見せた。RSX級からより速くスリリングなレース展開となるiQFOiL級に実施種目が変更される中、3年前から20キロ増量したマッチョボディーで“大駆け”を狙う。

 両腕で力こぶをつくると、ポロシャツに隠れた上腕二頭筋がボコッと膨らんだ。ほんのりと日に焼けた肌が、精悍(せいかん)さに磨きをかける。5度目の五輪を決めた39歳の富沢は、「正直、ホッとしているのが一番の気持ち。新種目に挑戦し、かなり成績が低迷したが、それでも応援してくれた方に感謝したい」と胸をなで下ろした。

 20年12月に、パリではRSX級がiQFOiL級に変更されることが決定。艇種、技術も変わり、求められるフィジカルも変わった。3年前、70キロ程度だった体重は90キロになった。「好きな物をいっぱい食べられたし、つらい有酸素運動もなくなった」と笑ったが、筋トレでの負荷は一気にアップ。「(新種目で)凄く新鮮な気持ちで臨める」と余裕の表情で話した。

 RSX級から格段にスピードが上がり、当初は「恐怖との闘いだった」と低迷。5度目の五輪が遠のいたが、日本連盟の強化統括責任者だった中村健次氏の指導を仰ぎ、二人三脚で強化。先月末、フランスで開催された最終予選で優勝。「自分の実力をはるかに超える結果」と謙遜しつつも、上げ潮に乗ったことは間違いない。

 五輪は南仏マルセイユのマリーナが舞台。最終予選よりはるか格上選手とメダルを争う。厳しい戦い必至だが、過去4大会と異なり上位10人による決勝は予選結果がリセットされるとあり、チャンスは十分。「最後の一発で決めるチャンスがあるので狙っていきたい」と色気たっぷり。地中海の波を攻略し、胸に輝くメダルを狙う。

 ◇富沢 慎(とみざわ・まこと)1984年(昭59)7月19日生まれ、新潟県出身の39歳。9歳の時に父の影響でウインドサーフィンを始める。柏崎工高(新潟)―関東学院大を経て、現在はトヨタ自動車東日本所属。五輪は08年北京大会からの5大会連続出場で、最高成績は北京大会の10位(全てRSX級)。家族は妻と2男1女。1メートル81、90キロ。

 ▽iQFOiL級 五輪では08年北京大会から4大会連続で実施されたRSX級に代わるウインドサーフィンの新種目。一番の違いはiQFOiL級では水中翼が取り付けられ、走行時は水面から浮き上がるほどのスピードが出る。平均速度はRSX級の10キロに対し、iQFOiL級は42キロ、最高速度は60キロを超える。ボードはiQFOiL級がひと回り小さくRSX級の286センチ×95センチに対し、220センチ×95センチで重量もRSX級より4キロほど軽く11キロ。艇の浮力を体重で抑えて推進力に変える必要があるため、選手にはRSX級以上の体重が求められる。

 ▽パリ五輪のセーリング 会場はフランス南部の第2の都市マルセイユのマリーナ。競技日程は7月28日〜8月8日の12日間で、男女フォーミュラーカイト級、男女iQFOiL級、男子49er級、女子49erFX級、男子ILCA7、女子ILCA6、混合470級、混合ナクラ17級の計10種目が実施される。日本勢は富沢、田中・永松組のほか、混合ナクラ17級に飯束潮吹・西田カピーリア桜良組、混合470級に岡田奎樹・吉岡美帆組が出場する。

 ≪女子49erFX級の田中、永松組気合 早大卒ペア躍動だ≫女子49erFX級でともに初の五輪出場を決めた田中美紗樹、永松瀬羅組(豊田自動織機)も会見に出席。スキッパーの田中は「小さな頃からの目標だった五輪に行けるのはうれしい」、クルーの永松は「実力を最大限発揮したい」と意気込んだ。田中は元々470級の選手だったが、五輪を目指して転向し、早大の先輩だった永松とペアを結成。「風を読んだり他の艇に対しての動きを読むのは(470級の)経験が生きている」と話した。

 ≪セーリング会場 聖火がマルセイユ到着 巨大な帆船で輸送≫ギリシャ西部のオリンピアで採火されたパリ五輪の聖火は巨大な帆船に運ばれ、フランス南部マルセイユの旧港に8日夜(日本時間9日未明)に到着した。五輪のセーリング会場にもなるマルセイユでは8日午前から海岸沿いで約1000隻の船と一緒に到着を祝うパレードが行われた。聖火が到着後、12年ロンドン五輪の競泳男子50メートル自由形金メダルのフローラン・マナドゥが国内の第1走者を務める。聖火リレーは7月26日の開会式まで約1万人が走る。