今秋のドラフト候補となる選手にスポットを当てる「スポニチスカウト部」。アマチュア担当記者の独自目線による能力分析とともに、選手たちの素顔を紹介する。第21回は、仙台育英(宮城)で高校通算21本塁打の主砲・鈴木拓斗内野手(3年)。昨夏の甲子園で2本塁打した、右の長距離砲の現在地を紹介する。

 昨夏の甲子園、2年生スラッガーとして鈴木は全国に名を売った。決勝までの全6試合に左翼手で出場し、5安打9打点と勝負強かった。履正社(大阪)との3回戦、神村学園(鹿児島)との準決勝では本塁打も放った。

 ただ、脳裏に刻まれているのは、甲子園初安打の感触でもなければ、アーチで響いた歓声でもない。連覇の懸かった決勝は2―8で慶応(神奈川)に力負け。試合後、ベンチ前で4番・斎藤陽(ひなた・仙台大)から「来年はお前たちが頑張れ」と声をかけられた。その時、3年生との別れに自然と涙が湧いてきた。

 1学年上は歴史をつくった代だった。エース右腕・高橋煌稀(早大)、捕手の尾形樹人(同)ら2年時から主力を担う選手が多く、22年夏には東北勢初の甲子園大会優勝を達成した。その存在の大きさに気づいたのは新チームが始動した昨秋の県大会だった。「先輩たちが勝ちに導いてくれる」から「自分たちが活躍して勝つ」に変わったことは自覚していた。だが、準々決勝では1―2で東陵に惜敗。あっけなく選抜出場の可能性が消えた。あまりの実感のなさに自分たちが出場しない東北大会が開幕した時「負けたんだな…」と心の底から思った。

 兵庫県明石市出身。越境入学した名門で積み重ねた21本塁打。今夏はチーム事情もあり、一塁を守る。「3年生として投手により近いポジションで声をかけることができる」と頼もしい。今春選抜から新基準の低反発バットが導入されたが、今春の東北大会の光南(福島)戦で左越えソロを放つなど長打力は健在。「高校野球の集大成。最後の最後に優勝という形で終わりたい」。投手力は全国屈指だけに、鈴木のバットが火を噴けば、2度目の全国制覇が近づく。(柳内 遼平)

 ○…身体的パワーと、バットに「乗せる」感覚に優れている鈴木は正真正銘のスラッガー。プロ志望届を出せば、支配下でのドラフト指名は間違いない。ただ、近年は大学で打撃に磨きをかける長距離砲が目立つ。阪神・森下は、戦国東都の中大で主軸を担い1位指名でプロ入り。青学大の三塁手・佐々木、外野手・西川はともに高校時代より、自身の価値を高めて指名を待つ。鈴木が進学を選択した場合は、4年後の1位指名となる可能性もある。

 ☆球歴 小4からブレーブス高丘で野球を始め、大久保中では兵庫神戸ボーイズに所属。仙台育英では1年秋からベンチ入り。憧れの選手はカブス・鈴木。