中央大学 笹本穏インタビュー

 石川祐希が拓いた世界へ。中央大学による海外への選手派遣プロジェクト「THE FUTURES」が今年も実施され、1年生の笹本穏(ささもと・やすき)がイタリアへと渡った。

 同プロジェクトは、石川が中央大1年時にイタリアに渡った2年後の2016年にスタート。笹本の派遣期間は2月上旬から現地時間3月29日までを予定しており、セリエAのヴェローナに練習生として参加している。

 肌で味わう"世界最高峰リーグ"のレベルや、「めちゃくちゃ緊張した」という憧れの石川との食事などについて、現地で笹本に聞いた。


イタリア・セリエAのヴェローナに練習生として参加している中央大1年の笹本

【痛感した言葉の大切さ】

――海外派遣の話がきた時の心境はいかがでしたか?

「野沢憲治監督から、昨年の全日本インカレを終えたあたりに話を伺いました。すでに対象が僕であることは決まっていたようで、有無を言わさず(笑)。ただ、僕自身も行ってみたい気持ちが強かったので嬉しかったです。昨年末に帰省した際に、それを親に伝えたら、『いい経験になるんじゃない? 楽しんでおいで』と言ってもらえました」

――同プロジェクトで、昨年は中央大の4選手がイタリア・セリエAのチームに練習生として参加しました。先輩たちからアドバイスをもらったり、話をしたりしましたか?

「一番よく話を聞いたのは、普段から仲がいい柿崎晃さん(3年)でした。ただ、『バレーボールはイタリア語を使っているけれど、正直わからない。だけど、いけるよ』というくらいでしたが(笑)。僕も言葉がわからないまま思いきって飛び込んだ、という感じです」

――ヴェローナには、どのように迎えられましたか?

「練習日にみんなの前で挨拶して、そのまま練習に参加しました。『初めてだから軽くやるのかな?』と思っていたら、フルメニューでしたね。とにかくヴェローナは若いチームで、選手たちも『来いよ!!』という感じで受け入れてくれました。選手もスタッフも話しやすい雰囲気で、第一印象はかなりよかったです」

――(インタビュー中、昨季まで現役でプレーしていた44歳のコーチ、ラファエル・オリベイラが近づいてきて、日本語で)ゲンキデスカー!?

「あんな感じです(笑)」

――どのように練習をしているんですか?

「僕が合流した時は、選手の数がちょうど偶数だったんです。なので、コーチのフェデリコ・ファジャーニさん(ジェイテクトSTINGSでコーチと監督を務め、現在はジェイテクトのアドバイザーとヴェローナの第3コーチを兼任)がパスの相手をしてくれました。フェデリコさんは単語だけですが日本語を話せるので、練習中も『ここはこうやるんだ』といったアドバイスをいただいています。すごく助かっていますね」

――(取材当日の練習で)6対6のメニューでバックアタックを打った際、1本目はトスが合わずフェイント気味に。その後にセッターのニコラ・ヨボビッチ(セルビア)と何か話をして、直後に綺麗なバックアタックを打ちました。あれはコミュニケーションが取れたんでしょうか。

「なんとなく、ですけどね。一本目はトスが低くて打てなかった。そこで相手が『ちょっと高くするね』と。すぐにぴったりのトスを上げてくれました。コミュニケーションもジェスチャーを交えながら、感覚でやっています。

 今のチームには、自分も含めてアウトサイドヒッターが4人しかいないこともあって、早い段階から6対6に入っています。フェデリコさんのアドバイスもあるけれど、練習の内容は1回外から見て、『こういう感じのことをやるんだな』と把握してから取り組んでいます」

――会話できたらもっといろいろやれるのに、というジレンマもあるのでは?

「それはとてもありますね。言いたいこと、聞きたいことがあるんですけど、言葉が使えないので。イタリア語の勉強はしているのですが、難しいです......。今でも十分に楽しいので、『会話ができたらもっと上達できることがあるんだろう』と痛感しています」

【石川祐希との会話で唯一覚えていること】

――イタリアに来てから、ミラノでプレーする石川選手と会いましたか?

「一度、お会いしました。食事を一緒にさせてもらったのですが、イタリア語で注文している姿を見て、『すごいな』と思いました。直接お話しするのはその時が初めてだったんです。昨年10月に、中央大でバレーボール教室を開いていただいた時は、まったく話すことができなくて。今回の食事もめちゃくちゃ緊張しました」

――笹本選手は中学3年生時に「JOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会」でJOC・JVAカップ(いわゆる最優秀選手賞)に選ばれた際、「将来の夢は石川選手のように海外で活躍すること」と口にしていました。やはり憧れの存在ですか?

「そうですね。小学生の頃に、春高バレーで活躍している姿を見て惹かれました。直接対面できたのは、先ほども話した中央大のバレーボール教室でしたが、"雲の上の存在"でしたね。試合も拝見しました(現地時間2月18日のヴェローナvs.ミラノ)。石川選手が5本のサービスエースを決めて、ミラノがストレート勝ちを収めたのですが、『何本、エースを奪うんだろう?』と驚きました。プレーの安定感がすごかったです」

――食事をした際、石川選手とどんな話をしたんですか?

「実は緊張しすぎて、何を聞いたのか、どんな話をしたのか全然覚えていないんです......。唯一覚えているのは『大学時代に何をしたらいいですか?』と質問したことと、それに対して石川選手が『目指すものを持って、そこに向かって取り組むことを考えたらいい』と言っていただいたことです。中央大に進学して、これまでは"大学での目標"しかありませんでした。その先は考えていなかった、というのが正直なところです」

――その上で、目下の目標は何になりますか?

「まずは『大学で出場機会を得ること』ですね。1年目の終盤はオポジットもやっていましたが、やはりアウトサイドヒッターで勝負したい気持ちがあります。ただ、メンバーを見ると、3年生の柿崎さんや2年生の坪谷悠翔さん、同期の1年生には舛本颯真がいて、みんな安定感があります。

 僕の武器は高さ(190cm)だと思いますが、それだけではレベルが高い中央大でレギュラーになることは難しい。それに、高さで敵わないことは、イタリアで十分に味わっている。そうした経験はとても大事だと思いますし、その中でアタック力を磨いていきたいです」

――イタリアのバレーボールに触れ、"雲の上の存在"だった「石川祐希」という選手との距離は変わりましたか?

「正直、遠くなりましたね。『この世界で通用しているのか』と思わずにはいられません。ですが、僕も海外派遣が終わるまでにこちらのバレーに慣れて、成長して帰国したいです」

<選手プロフィル>
笹本 穏(ささもと・やすき)

2004年5月25日生まれ、愛知県出身。中央大学1年生。190cmのアウトサイドヒッター。高豊中学校3年生時に「JOCジュニアオリンピックカップ」第33回全国都道府県対抗中学大会でJOC・JVAカップ、オリンピック有望選手に選出され、同年度の全日本中学生選抜入りを果たす。地元の名門・愛知工業大学名電高校を経て、関東大学1部の中央大学に進学。最高到達点は335cm(大学発表)だが、ヴェローナで測定した際には340㎝を記録した。

著者:坂口功将●取材・文 text & photo by Sakaguchi Kosuke