北海道コンサドーレ札幌がJ1第7節終了時で最下位と苦しんでいる。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が就任して今季で7シーズン目。攻撃的なサッカーでJ1を戦い続けてきたが、選手の入れ替えも多く、ついに限界かとの声も囁かれてきた。ところが、現場は巻き返しに自信たっぷりなのだ。選手の声を聞いた。

【第7節でようやく今季初勝利】

 4月6日のJ1第7節、札幌ドームで行なわれたガンバ大阪との一戦で、北海道コンサドーレ札幌は、ようやく今季のリーグ戦初勝利を挙げた。


北海道コンサドーレ札幌は今季7試合目で初勝利をあげた photo by Getty Images

 福岡でのアビスパ福岡との開幕戦を0−0で引き分けて無難なスタートを切ったものの、その後、"1勝"を掴み取るまで思わぬ苦戦を強いられた。第2節、アウェーでサガン鳥栖に4失点の完封負けを喫したあと、浦和レッズ、町田ゼルビアとのホーム2連戦は、ともに1点差の惜敗。第5節、アウェーのヴィッセル神戸戦では6失点で完敗した。

 仕切り直しのような格好で迎えたホームの名古屋グランパス戦でも終了間際に失点してゲームをひっくり返され、第2節から5連敗。順位も最下位となった。

「まだ見たことのない景色」を合言葉に、コンサドーレはここ数シーズン、クラブとしてのさらなる飛躍を目指し、筆者の目からは着実にその頂きに近づきつつある感触を得ていた。しかし、今季はなかなか勝ち点を積み重ねられないばかりか、連敗続き。最下位に甘んじているという現状に、かつてJ1とJ2を行き来していた当時の景色を思い浮かべたサポーターも少なくなかったのではないだろうか。

【最下位にいるようなチームではない】

 勝負の世界である。結果が出なければ、当然のことながらさまざまな意見が飛び交う。そこでクローズアップされたのが、かねてから疑問を呈されていたコンサドーレの攻撃的な戦術である。

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の就任とともに2018年シーズンからコンサドーレにもたらされた攻撃的な手法は、氏がサンフレッチェ広島の監督時代(2006年〜2011年)に確立した革新的な戦術。監督の愛称"ミシャ"を取って「ミシャサッカー」と呼ばれ、日本サッカー界に広く知れ渡っている。

 だが、かつてJリーグで猛威をふるった攻撃的な戦術ではあったものの、実のところ「今は昔」とばかりに浦和レッズの監督を退いた2017年ごろからは、限界論が囁かれ始めていた。

 今回、連敗を受けて再び限界論が頭をもたげ、ネット上を漂うようになってきたのだが、現場はそんな風評など、どこ吹く風だ。G大阪戦で決勝ゴールを決めて、今季初勝利の立役者となった宮澤裕樹は、試合後のヒーローインタビューで力強く言い放った。

「こんなところ(最下位)にいるようなチームではない」

 宮澤だけではない。その宮澤から今季、主将を引き継いだ荒野拓馬もこう言う。

「ひとつ勝ったことで、正直、ホッとしたところはありました。開幕してしばらくは、 実は、まったく自分たちの形が見えなかったんですよね。こういう試合の流れのときには、こういうことが起きるって予測してポジションを取ったりするんですけど、コンビネーションが取れなくて、ビルドアップの段階から後手に回っていました。

 たとえば、中盤でボールを受けてターンをした時、出したいスペースに人が動き出していないとか、何もかもタイミングが合わずにうまくいきませんでした。やるべきことができないと、こういった結果(連敗)になるのだろうとあらためて思いました。

 ヴィッセルに6点やられて、なんか吹っきれましたよね。シンプルにミシャサッカーの3原則、"走る""戦う""規律を守る"の3つをしっかりやろうと確認し合いました。まずは動いて、詰まっているような状況に陥ったら、前線のターゲットに当てようとか、裏のスペースを突こうとか。チームとしての形が見え始めてきたのは、その次の名古屋戦あたりからですね。やるべきことができたならば、最下位にいるようなチームではないと信じています」

【ミシャサッカーは選手たちにとっても面白い】

 そもそも「ミシャサッカー」とはいったい何か。最大の特徴は攻守によって、システムを変えながらゲームを積極的に動かす点にあるだろう。

 注目すべきは攻撃時の布陣。3バックの両サイドがサイドに開いてポジションを取り、ボランチのひとりが最終ラインの中央に下がってビルドアップを司る。左右のウイングバックは、前線に上がってFWのようにウイングの役割を担う。

 さらに1ボランチ、2シャドーの配置には、中盤の攻防において相手を混乱に陥れるような狙いがいくつも隠されおり、局面的な数的優位を保ちながら試合の主導権を握り続ける。事実、この戦術によってサンフレッチェ、レッズはJリーグでそれぞれ一時代を築き上げた。革命的な戦術だったといえるだろう。

 そんな「ミシャサッカー」との出会いは、コンサドーレのクラブの歴史を大きく変えたと言っても過言ではない。現実主義から、理想主義へと大きく方針変更。継続的に攻撃的なサッカーができるチームを目指し「ミシャサッカー」に未来を託したのが2018年だったのだ。

 そこから6シーズンに渡ってJ1にとどまり、その間、ルヴァンカップ準優勝を掴み取った。そういった結果と同時に、「ミシャサッカー」は選手やサポーターのマインドに、何かを植えつけている。

「ミシャサッカーは攻撃的で、得点もよく入るし、見ていて面白いという話を聞きますが、実はプレーする選手たちにとっても面白いんですよね。ボールを動かすなか、選手同士のプレーのイメージが合致した瞬間、相手が混乱しているのがわかりますし、そんな時、相手の守備網をきれいに剥がしたりできるんです。

 あと面白いのは、局面を想定した練習が試合に登場すること。たとえば試合前日など、ミシャの指示でいくつかダイレクトパスを入れて裏のスペースを狙った練習をやると、それと同じようなシーンが実際の試合中で起こったりするんです。ああ、これ練習したよって」(荒野)

【「ミシャサッカー」は死なず】

 ピッチ上で、相手に研究されていることを感じるような場面、対策を講じられた局面などももちろんある。実はそういう時こそがチャンスだと荒野は言う。

「相手があったうえなので、自分たちの思惑どおりにボールが動かせるわけではありません。逆にそれがチャンス。相手も狙いがあるので、だったら、それを破るためにこうしようとか考えたときに、新しいアイデアが生まれてくるんです。

 そのアイデアから逆に大きなピンチを招いてしまう場面もあります。けれど、ミシャはこういう前向きなミスについては何も言いません。むしろ、トライしたことを評価し、声をかけてくれるんです。サッカー観も変わりますよね。ミスを恐れることなく、自信を持ってプレーすること。いちばん変わったのは、そこです」

 攻撃面を向上させながら、ある程度、結果を積み上げてきたが、今季気になるのは、昨季までのような形でゴールを奪えていない点だ。それも荒野は一蹴する。

「昨季、主力選手が抜けた影響もあるでしょうけれど、はっきりと言えるのは、これがコンサドーレ。ここ数年、同じような状況に陥っても、やれているという実感があるから何とも思いません。自分たちは可能性のあるチーム。もうひとつ上に進むためには変化は必要だと思いますが、飛躍的な変化ができるのはやっぱりベースがあったうえでの話だと思うんですよね。

 自分たちのベースになるのはもちろん"ミシャサッカー"です。ピッチで今以上に何ができるか。試合中、ビッグチャンスは作れているので、その回数を増やしていければ、ゴールも自然に増えていくとのではないかと思います」

 攻守の可変という戦術的な側面だけではない。コンサドーレの監督となって7年目。今やペトロヴィッチ監督の理念、挑戦的な姿勢は、コンサドーレのDNAとなって選手たちに刻み込まれているようだ。

「ミシャサッカー」は死なず、である。

著者:志田尚人●取材・文 text by Shida Naohito