日本サッカー協会(JFA)第15代会長
宮本恒靖インタビュー前編

 インテリジェンスに富んだ現役当時のプレースタイルは、新たな立場でどのように反映されていくのだろう。

 元日本代表DFで2度のワールドカップに出場した宮本恒靖氏が、2024年3月下旬に日本サッカー協会(JFA)の会長に就任した。47歳での就任は戦後最年少で、元Jリーガーにしてワールドカッププレーヤーの着任は史上初めてとなる。


第15代JFA会長に就任した47歳の宮本恒靖氏 photo by Sano Miki

 同志社大学卒で語学堪能であり、2011年の現役引退後すぐにFIFAマスターで学んだ。その経歴はJFAのトップを務めるにふさわしく、2018年から2021年にかけてはJ1のガンバ大阪で采配をふるっている。

 指導者としてこれからと言ってもいいタイミングで現場を離れたことには、ふたつの理由があった。

「ガンバ大阪は自分を育ててくれたチームで、そのガンバをもう一度タイトルを獲れるようなチームにする、というプロジェクトに大いに魅力を感じました。ガンバを離れることになって次のキャリアを考えていった時に、同じように大きな価値を見出すものがあったかと言うと、もうちょっと待てばあったのかもしれませんが、当時はなかったのです」

 2021年5月でガンバ大阪の監督職から離れ、9月にJFA100周年式典に出席した。ここで宮本会長は、運命的な言葉に出会う。

「当時の田嶋幸三会長の挨拶に、『先人たちが築いたものを、次の世代へ受け継いでいかないといけない』という言葉がありました。それを聞いた時に、自分もそのために貢献したいと思ったのです」

 会長就任にあたって、政策の柱を8つ掲げた。

 そのひとつが「強い日本代表を作り続ける」というものだ。「日本代表はワールドカップ・ベスト16の壁を越えて、さらにその先へ行けるように。そのためのサポートをしていきたい」と話す。

【2031年の女子ワールドカップ招致を目指す】

「ワールドカップのベスト8に入るとしたら、ラウンド16で優勝の可能性を持つ国と戦うことが多い。過去4度のラウンド16では、アルゼンチンやフランスのような優勝経験国と対戦していませんが、2018年のベルギーも、2022年のクロアチアも、それに近い実力を持っています。

 そこを越えるのは、やはり簡単ではないと考えます。グループステージの3試合を戦って、心身ともに消耗もあるなかで、ラウンド16に挑む。そこでなお、余力を持って戦える状態を作っていくことが、ひとつのポイントになると思います」

 宮本会長が言う「余力」とは、「同レベルのチームをふたつ作れるぐらいの戦力」という表現に置き換えることができるだろう。選手層の厚みについては、カタールワールドカップ後に森保一監督や現主将の遠藤航も言及している。


JFA新会長に就任した宮本恒靖氏の考える政策とは? photo by Sano Miki

「選手層の厚みが大事ということは、森保監督も認識しているのでしょう。だからこそ、たくさんの選手を呼んでいろいろな組合せにトライしている。たくさんの選手が海外へ出て行っているのは頼もしい状況ですが、そういう選手がさらに増えて、しかもレベルの高いリーグで戦っていくことも、選手層の厚みにつながっていくのでしょう」

 なでしこジャパンこと女子日本代表のターゲットは、「2011年以来の世界一」である。宮本会長は「ワールドカップだけでなく、五輪もチャンスがある」と、言葉に力を込める。

「昨年の女子ワールドカップは惜しくもベスト8に終わりましたが、なでしこジャパンの戦いぶりは世界中から高く評価されました。私は現地を訪れましたが、『日本のサッカーは世界の女子サッカー全体が目指していく姿だ』と言われました。

 決勝戦には7万5千人を超える観衆が詰めかけ、男子のワールドカップに似た演出で試合前の期待感を高め、試合のレベルも高かった。技術もスピードも向上していて、女子サッカーのポテンシャルをあらためて感じました」

 会長就任にあたって掲げた政策の具体的なプログラムとして、宮本会長は2031年の女子ワールドカップ招致を目指すとしている。

「私が見た決勝戦で、試合前に優勝トロフィーをピッチへ運んだのは(2011年優勝メンバーの主力)宮間あやさんでした。世界の女子サッカー界における彼女の立ち位置を考えると、すごいことだなと感じました。2011年のワールドカップ優勝のすばらしさを再認識したなかで、なでしこジャパンで活躍してくれたみなさんの力も借りながら、2031年のワールドカップ招致に着手していきたい、と考えています」

【日本のライセンス講習の中身はまだ改善できる】

 2031年の女子ワールドカップだけではない。宮本会長はU-17やU-20の世界大会招致にも意欲的だ。「強い日本代表を作り続ける」ためには、育成年代の強化が欠かせないからである。

「私自身、1993年に日本で開催されたU-17世界選手権に出場しました。自国開催の大会に出場したい、結果を残したい、という気持ちは、自分を成長させてくれたと思っています。

 その後もU-20ワールドカップと五輪に出場しましたが、この年代で世界を経験することで、自分に何ができるのか、何が足りないのかがわかる。さらなるレベルアップのモチベーションを得ることもできます。

 日本国内での育成年代の国際大会となると、2012年のU-20女子ワールドカップが最後で、FIFAの大会では2016年のクラブワールドカップが最後です。育成年代の選手たちが、『自国開催の大会に出場したい』という意欲を持てるように。サッカーへの理解をさらに深めていくために。理解を深めていくための機会としても、国際大会の開催には大きな意義があります」

 将来の日本代表を支える選手たちを育成年代から強化していくのは、「強い日本代表を作り続ける」ための必要条件である。加えて指導者の海外進出も、日本代表の強化につながっていく。

 田嶋幸三前会長のもとでは、JFAのライセンスとUEFA(欧州サッカー連盟)のライセンスの互換性が進められてきた。「それについては、専門的に動いている方がいます。その動きがありながら」と前置きして、宮本会長はライセンス講習の中身に着目する。

「私自身は2014年にJFAのA級ライセンスを、2015年にS級ライセンスを受講しています。その一方で2013年から2014年にかけて、UEFAのBライセンスをFA(イングランド協会)のBライセンスのコースで受けました。

 自分が受講したものを比較すると、FAのBは日本のAに近い。また、UEFAのプロライセンスの中身は、日本のSの講習内容とちょっと違うとも聞きます。日本のライセンス講習の中身については、まだまだ改善できるとの印象はあります」

【宮本会長はJFAの持ち越し課題に向き合う】

 Jリーグのクラブがアジアから監督を呼ぶ場合、その供給元はオーストラリアに限られる。ワールドカップのアジア予選やアジアカップで早期敗退する国から、監督を招く動きはない。日本の指導者に任せたほうが、チーム作りのレベルは高いと考えられるからだろう。

 ヨーロッパ各国から日本の指導者へ向けられる視線も、現時点では同じようなものかもしれない。宮本会長は控え目にうなずいた。

「日本人選手がヨーロッパの各国リーグでもっともっと活躍するとか、代表チームがもっと成績を残すことで、日本サッカーはもちろん指導者の評価、ライセンス制度の評価も上がっていくのではないでしょうか。

 それから、長谷部誠選手(フランクフルト)がドイツでライセンス取得に取り組んでいますが、その国で名を成し、(現地の)言葉をしゃべり、サッカー文化を知る彼のような人材が日本人指導者としてある一定のキャリアを築いてくれるのも、突破口になると思います」

 宮本会長が掲げる8つの政策のなかには、これまでの持ち越し課題があり、自身のもとでさらに推進していくものがある。インタビューの後編では、JFAにとって頭痛の種となっている日本代表戦の地上波での放映などについて聞く。

(後編につづく)

◆宮本恒靖・後編>>「激減した日本代表の地上波放送」をどうする?


【profile】
宮本恒靖(みやもと・つねやす)
1977年2月7日生まれ、大阪府富田林市出身。1995年にガンバ大阪ユースからトップチームに昇格し、DF陣の主力として12年間プレーしたのち2006年にレッドブル・ザルツブルクに移籍。2009年からヴィッセル神戸でプレーし、2011年に現役引退。引退後はガンバ大阪U-23監督を経て2018年から2021年までトップチームを率いる。2022年に日本サッカー協会理事となり、2024年3月24日付で第15代会長に史上最年少で就任した。日本代表では長くキャプテンを務め、2002年と2006年のワールドカップに出場。日本代表=71試合3得点。

著者:戸塚 啓●取材・文 text by Totsuka Kei