U23アジアカップ決勝。相手のウズベキスタンは強かった。メンバーを落として臨んできたにもかかわらず、日本を終始圧倒した。もう一度対戦したら逆の結果がもたらされそうな、実力の高さを見せつけた。

 U−23日本代表はアジアチャンピオンに輝いた。喜ばしい話であるが、どの程度喜ぶべきか、悩ましい試合でもあった。A代表のW杯ではない。五輪は世界が注目するスポーツの祭典だが、サッカーに関しては、あくまでもアンダーカテゴリーの戦いだ。目的は育成にもある。勝てば官軍。結果オーライとばかり、有頂天になるわけにはいかない。

 PKストップをはじめとする小久保玲央ブライアンの美技は特筆されるべきだが、この日の試合内容は、近い将来、必ずA代表に反映されてくるはずなのだ。決勝戦を見た一番の感想は「日本強し」ではなく、「ウズベキスタン恐るべし」になる。


U23アジアカップ優勝を飾った藤田譲瑠チマらU−23日本代表の選手たち photo by Kyodo news

 五輪本番でどんな結果を収めるか。それはオーバーエイジの3人を含む登録メンバー18人の選択に大きく起因する。だが、五輪代表監督は自分が選びたい選手すべてを選べるわけではない。W杯を戦うA代表の監督より、各方面から多くの制約を受ける。U23アジアカップに臨んだ今回も、監督の頭のなかにあるベストな23人を招集できたわけではないはずだ。

 だが、これまで7大会連続出場してきた五輪本大会出場を逃せば、批判を浴びる。ヘタをすればダメ監督の烙印を押される。大岩剛監督に掛かるプレッシャーは半端ではなかったはずだ。勝利のためには手段を選ばず――と、さまざまな誘惑があったと思われる。

 たとえば、現在の日本代表監督を含めて多くの日本人監督は、苦しくなると後ろを固める作戦に出る。5バックで逃げきろうとする。

 日本が山田楓喜のゴールで先制したのは後半の46分で、アディショナルタイムはそこからさらに10分あった。実際にはこのアディショナルタイムから、追加が5分あったので試合は90分プラス約16分に及んだ。ウズベキスタンの力を考えたとき、森保一日本代表監督なら、躊躇わず、前線の枚数を削り、ディフェンダーを投入したと思われる。過去の采配を振り返れば、その可能性は高い。それで無失点に抑えれば、「賢くしたたかな戦いした」と、自己肯定したに違いない。

【交代選手が活躍するチーム】

 大岩監督はそうした守備固めの戦法を採用しなかった。前半の早い時間に10人での戦いを余儀なくされた中国戦でも、最後まで4−4−1で戦い抜いている。徹底的に前からプレスをかける布陣で戦った。最後まで攻撃的にいく。このコンセプトを崩さずに戦い、そして優勝を飾った。哲学と勝利をクルマの両輪の関係で追求し、アジアの頂点の座に就いた。そこにサッカー指導のあるべき姿を見る気がした。

 決勝ゴールを決めた山田は、佐藤恵允と交代で後半26分に投入された選手だった。アシストとなるクイックパスを送った荒木遼太郎も後半17分、松木玖生と交代でピッチに立っている。交代選手の活躍が、苦しい試合をものにした直接的な要因だった。後から出てくる選手が活躍するチーム。これもサッカーの理想だ。

「日本は先を見て戦うことはまだ早い」とは、東京五輪後の森保監督の言葉だが、大岩監督はこの考え方とは異なる方法論で戦った。スタメンを飾らなかった選手はGK山田大樹のみ。スタメンを毎試合、大きく入れ替えながら総力戦で臨んだ。

 森保監督が「まだ早い」と言った理由は、それでは試合ごとに戦力にバラツキが出でしまうからだと思われる。しかし、大岩監督のもとでは、毎試合異なる顔ぶれこそが結果的にベストメンバーと呼ぶに相応しかった。優勝するためにスタメンを毎試合、入れ替えたのである。

 チーム一丸となりやすい采配。短期集中トーナメントにおける理想的な采配が、決勝戦の土壇場で奏功した恰好だ。荒木、山田はその瞬間を、抜け目なく虎視眈々と狙っていた。そんなプレーぶりだった。サッカーの本質にマッチした戦い方、理想的かつ模範的な采配だった。

 高い位置からプレスをかける攻撃的サッカーと言えば、相手サイドバック(SB)の攻撃参加に蓋をする役割を兼ねるウイングが、欠かせない存在になる。平河悠、藤尾翔太、山田、佐藤のウイング4人とSBが仕掛ける外攻めこそが、このチームの特徴となっていた。

【ポストプレーヤーの不在】

 その一方で、中央の攻撃は弱かった。決勝戦でもエースストライカーである細谷真大にボールは集まらなかった。何よりプレー機会が少なかった。この試合でボールを幾度、満足に操作できただろうか。準々決勝、準決勝で1点ずつ奪ったことで、細谷にまつわる問題はクリアされたかに見えた。いい方向に進んでいるかに見えたが、相手の力量が上がった決勝では、隠しきれない問題として再度、表面化することになった。

 ボールを支配する遅攻の場合には、やはり1トップ、あるいは1トップ下に、ポストプレーヤーを置くのが自然だ。裏に抜けるタイプの細谷を1トップで使うなら、その下あるいは脇に、ボールを収める力のある選手を置きたい。トップ付近にボールが収まらないと、藤田譲瑠チマを軸とするパスサッカーは活性化しない。

 収穫は、荒木遼太郎に使える目処が立ったことだ。古典的な攻撃的MFから脱皮した姿を見ているようである。山田が左足で蹴り込んだウズベキスタン戦の決勝ゴールも、荒木が高い位置で高度なワザを瞬間的に発揮したことで生まれている。そのヒール気味のパスは、日本人の心を惹きつけるようなお洒落なプレーでもあった。

 その荒木に縦パスを素早くつけたのは藤田だった。イラク戦の2点目もこのふたりのコンビネーションだった。かつての日本の"中盤王国"時代の面影を残すふたりのパス交換が最後の最後に威力を発揮し、山田のゴールを呼び込んだ。

 荒木の身長は170センチ。細谷より8センチほど低いが、ゴールを背にしながらのプレーは荒木のほうが安定している。Jリーグで5ゴールを決めることができている理由は高い位置でプレーすることを覚えたからに他ならない。今後、どう大成していくか、注目したい選手である。

 監督采配に話を戻せば、18人で戦う五輪本番では、そのやりくりの巧拙で結果は決まる、と言いきることができる。選手の素材の力、個の力で決まったほうがアンダーカテゴリーの大会らしいが、五輪の特殊性を踏まえると、結果に与える影響は監督の力によるところが大きくなる。五輪の主役はつまり、大岩監督なのだ。制約が多いなかでどんな采配を振るうか。理想と結果をどこまでバランスよく追求し、両立させることができるか。注目したい。

著者:杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki