20年前のアテネ五輪の際、最終予選でチームを牽引していたキャプテンの鈴木啓太。直前で18名のメンバーから漏れてしまうという憂き目にあった。そんな鈴木だからこそ思う日本代表のベストメンバーは? そしてシステムは?


現役引退後、実業家に転身した鈴木啓太 photo by AFLO SPORT

 パリ五輪の18名選考の基本ですが、僕が監督だったら基本的にオーバーエイジ(OA)枠は使用しないです。五輪の目的は、勝つことを最低限にしながらも最終的にはW杯で活躍できる選手を育成することが大事だと思っているからです。そのためにはその世代の選手ができるだけ五輪という舞台で国際経験を踏んでほしい。パリ五輪世代は力のある選手が多く、彼らだけでも十分、メダルを獲れる可能性があると思います。

 僕が選ぶ18名ですが、GKは、小久保玲央ブライアンと鈴木彩艶。個人的には小久保の安定感のある守備が好きで、DF陣はそういう選手がいてくれると安心して守れると思うんです。彩艶は、アジアカップでもうひとつでしたが、能力が高い。このふたりがいればGKにOA枠を採用しなくてもいいでしょう。
 
 DF陣は、CBは西尾隆矢と木村誠二が軸になり、川崎で試合に出場できていない高井幸大はバックアップ。右SBは関根大輝で、サイズが大きく空中戦に強いSBは守備面で活きてくるでしょう。左SBは大畑歩夢で、控えに左右どちらもできる内野貴史。
 
 MFはキャプテンの藤田譲瑠チマが軸。人に強いし、前に持っていけるし、パスも出せるし、視野も広い。ゲームメイクで違いを作れる山本理仁、粘り強い守備ができる田中聡はタイプ的に僕は好きです。フィジカルが強く、攻撃力が高い松木玖生、サイドで運動量が豊富で自分でも決められるハードワーカーの平河悠太。攻撃で僕が期待している佐藤恵充と斉藤光毅。
 
 FWは、調子を上げている藤尾翔太、エースとして期待されている細谷真大、ポストが出来て1トップでの起用も可能な内野航太郎の3人。荒木遼太郎も迷ったけど、僕は4−3−3よりも4−4−2で行きたいので、FWは2トップを組める選手を優先しました。
 
 僕は、このメンバーでも十分戦えるし、メダル獲得の可能性があると思います。ただ、もうワンランク、チーム力を押し上げて勝つチーム作りをするなら前にスピードがある選手が必要になってきます。そこでOA枠を使用するなら前田大然、上田綺世の2トップにして、センターバックには板倉滉を入れます。

 僕は、従来の4−3−3は、五輪の本大会で採用するのか微妙な感じがします。1トップを含め、攻撃陣が強力であればいいのですが、必ずしもそうじゃない。それよりもよりオーソドックスな戦いにシフトした方が勝てるチャンスがある。僕は、3月のマリとウクライナの試合で採用した4−4−2で行くのではないかと考えています。大岩監督も世界との戦いを意識して、このシステムを採用したと思いますし、実際、4−4−2にして2トップにした方がすべきことが明確になって、世界と戦うにはその方がいいと思うんです。
 
 パリ五輪本大会のグループリーグは、パラグアイ、マリ、イスラエルと対戦します。初戦が大事なのは言うまでもありませんが、その相手であるパラグアイは、アテネ五輪でも初戦で対戦し、打ち合いになって4−3で敗れました。伝統的にフィジカルが強くて、したたかなサッカーをするチームで、今回の予選ではブラジルを破っていますからね。日本にボールを持たせておいて、ショートカウンターで狙ってくるような狡猾さがあります。守備も最後の最後はやらせない強さがあるので、日本はうまさだけではなく、ハードワークできる選手が勝つためには必要になると思います。

 マリは選手の体格が大きいし、運動能力が抜群に高い。3月の試合ではショートカウンターでやられていたので、ボールを保持して攻めることに固執しなくてもいいでしょう。
 
 僕は、日本が国際舞台で勝つためにはリアクションサッカーが最強かなと思っているので、バルセロナやマンチェスター・シティのスタイルより、今季のリバプールに近い戦術で戦えばいいのではないかと思っています。それに日本は過去、ロンドン五輪の時、リアクションでいいところまでいったじゃないですか(4位)。カタールW杯もそうですよね。短期決戦では割り切った戦いをした方が、結果が出ると僕は思っています。

■Profile
鈴木啓太(すずきけいた)
1981年7月8日生まれ。2000年に浦和レッズに加入し、2002年からはアテネ五輪を目指すU-23日本代表に召集される。最終予選ではキャプテンを務めたが、本大会には選出されなかった。2006年からはA代表に召集され、オシムジャパンの中盤を支え続けた。浦和レッズ加入から15年間浦和一筋を貫き、惜しまれつつも2015年に現役を引退。

著者:佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun