簡便需要などの高まりを受けて冷凍宅配弁当は広がりを見せる。簡便ニーズ自体はコロナ禍以前からあったが、出社機会の増加などで引き合いが強まっているほか、健康意識の高まりなどコロナ禍に顕在化した需要も、それに応えた商品を多く展開しているこの市場を押し上げる要因となっている。

冷凍宅配弁当、販売の伸長続く(イメージ)

日本冷凍食品協会が4月19日に発表した、2023年の『冷凍食品の生産・消費統計』によると、冷凍食品の国内生産は、金額(工場出荷額)が前年比2.1%増の7,799億円で、調査以来過去最高となった。しかし、数量は3.3%減の154万5,568トンだった。コロナ禍以降、冷凍食品は家庭用を中心に引き合いは高まっていた。しかし、物価高による節約志向の高まりなどで家庭用の数量は前年割れとなった。家庭用の23年の数量は5.9%減で、需要が急増した20年よりも下回っている。しかし、19年と比べると9.3%ほど上回っており、相次いで値上げが発表される中でコロナ禍以前の水準は上回る状にはある。

小売店からも、コロナ禍以前と比べて認知が広まったことで、販売は順調に動いているという声もある。

冷凍食品の卸や専門店を手掛けるアイスコの三國慎専務取締役は「コロナ以前から冷凍食品は簡便性などが支持され伸びていた。数量的に厳しいという声もあるが、コロナ禍以前の水準は上回っており、美味しさの認知が広まっているので、アプローチ次第でまだまだ伸ばせる可能性は秘めている」と分析する。

中でも、「簡便性」に加え、コロナ禍にニーズの高まった「健康」などを踏まえた商品は、今後も成長する可能性が高い。小売店では売場を拡張する中でワンプレート商品などの品ぞろえを充実させているという話もある。

〈市場は拡大が見込まれるも、食品市場参入のハードルは高い〉

冷凍宅配弁当も、今後の伸長が期待されているカテゴリーの一つだ。矢野経済研究所が発表した国内食品宅配市場(フードデリバリーや生協など含む)に関する調査では、24年度の市場規模(見込)は前年比2.9%増の2兆6,858億円に達するという。冷凍弁当などの配食サービスも、新型コロナウイルスの影響が薄れた今も着実な伸びていると、メーカー各社は話す。

事業者の多くはサブスクリプション型(定期購入)のサービスを展開している。定期利用者を中心とした事業の展開は、需要の予測などを立てやすいといったメリットがある。多くはおかずのみの販売だが、最近ではご飯とセットで販売する企業もある。

冷凍弁当市場が大きく認知された要因は、コロナ禍だ。ナッシュ(大阪市北区)の販売本部広告部広報、檜本修太氏は「外出が難しかったコロナ禍にECの利用が増えたことで販売は大きく伸びた。最近では健康意識の高まりなどを受けて着実に成長している」と話す。

総務省の資料によれば、19年時点での食品におけるEC化率は2.89%。22年には4.16%まで広がっている。これは、20年のアメリカの食品市場のEC化率(4.3%)に近い水準にある。調理食品の伸びが特に大きかったようだ。

特にスタートアップ企業の場合、この流れに上手く乗れたか否で販売状況が異なるという。野菜をふんだんに使った冷凍のおかずなどを展開する、グリーンスプーン(東京都港区)常務取締役の黒﨑廉COOは「一回、跳ねるまでが大変だった」と振り返る。「スタートアップ企業にとって小売店など一般流通に商品を乗せることはハードルが高く、スーパーやコンビニの棚で商品を展開するには、まずウェブで実績を作らなければなかなか受け入れてはもらえない。しかし、ウェブで認知されること自体、非常に大変だった」(黒﨑COO)。コロナ禍以前はECサイトで食品を買うことが多くなかったため、コロナ禍にECの利用が増え、宅配市場の認知も広まったことは追い風となった。

〈「健康」需要などさらに高まる 喫食機会の拡大狙う〉

コロナ禍に顕在化したさまざまなニーズも市場拡大につながった。黒﨑COOは「コロナ禍以前からあった簡便ニーズは、コロナが落ち着いた今も残っている。また、コロナ禍に顕在化した健康などのニーズも伸長要因となっている」という。

最近では中小企業だけでなく大手企業の参入もあり、競争は激しくなった。味の素が新規事業として冷凍宅配弁当「あえて、」を開始した。参入の理由をコーポレート本部R&B企画部アクセラレーショングループでマネジャーを務める、羽藤耕一郎氏は「グループ全体として今、2030年を見すえた取り組みを進めていて、その中で改めて食事が大事だという話になり、時短ニーズにも応えられ、これまで当社グループで持っていなかった、その商品だけで食事を完結させられる商品として投入した」と話す。

ご飯を炊くこと、店で買って持ち帰ることなども含めた「究極の手間抜き」を目指し、商品はごはんとおかずをセットにしている。売上は、2030年までに100億円を目指す。

累計の販売食数が8,000万食に達したナッシュも、更なる支持獲得に向けて商品の重量を増やして食べ応えを高めるほか、メニュー数を拡充して選ぶ楽しさを得られるようにする。また、商品の宅配を一部地域で自社配送に切り替えて、配送料を下げるための取り組みにも挑戦している。

ナッシュ広報の檜本氏は「今でこそナッシュの認知は上がっているが、まだ利用されたことのない人がほとんど。もっとお客様に向き合って取り組んでく」と話す。

イングリウッドで展開の「三ツ星ファーム」は、今年2月で1,000万食を突破した。今年3月には、「冷凍弁当」を売るブランドから「高付加価値の日常食」を売るブランドとしてリブランディングを進め、ニーズの高かったプレート商品や、大容量のおかず商品を投入している。

ブランドマネージャーの本間悠也氏は「一番は満足度を高めること。サブスクによる事業なので、すぐにやめられてしまうとあまり利益が出ない。本質的に満足いただけるサービスとして展開すべく、味はもちろん、使い勝手の良さなどに力を注いでいる」と話した。

ニチレイフーズは「気くばり御膳」シリーズを「きくばりごぜん」に刷新し、副菜を含めた味の改良や環境対応にも取り組んでいる。現在は49品を展開しており、2024年春で約半分の20品をトップシール型のパッケージに変更した。2025年の春頃にはシリーズ全品のトップシール化を予定している。

ウエルライフ事業部eコマース部eコマース営業グループの渡辺千春グループリーダー「2024年は『きくばりごぜん』の20周年イヤー。キャンペーンなど他の企画と合わせてしっかりと盛り上げたい」と語る。

グリーンスプーンは、おかず商品の追加で喫食してもらう機会が大きく増えたという。具材感を見た目にも感じられる商品を今後も提案すると共に、さらに喫食機会を増やしてもらうための取り組みも検討している。

黒﨑COOは「で生き続けられる人生を増やしたいという意味ではグリーンスプーンというのはある種サービスで、グリーンスプーンというサービスをどう使っていただくかというのがテーマとしてある。食べていただく頻度を増やすことが重要になると思っていて、食数を増やしてもらうため、新しい取り組みや新商品などでよりこのサービスを楽しんで欲しい」と述べた。

〈冷食日報2024年4月30日付〉