変化が激しく、予測できない未来をたくましく生きてほしい―。今、子どもの創造性を広げる遊び場が増えています。「『ダメ』のない世界」に夢中になることで、心身や脳の発達が促されるといいます。親子で出かけてみませんか?

保育士としても働く講師の小笠原さん=江戸川区のぐちゃぐちゃ遊び親子教室で、池田まみ撮影


絵本の世界観を表現するぐちゃぐちゃ遊び

 「今日はお子さまのやりたいように!遊び方に正解はありません」。4月上旬、江戸川区中葛西で開かれた「ぐちゃぐちゃ遊び親子教室poka poka(ぽかぽか)」で、講師の小笠原菜穂さん(34)が約束事を伝えた。

 この日のテーマは「春/おしゃれなお洋服」。1〜5歳の親子15人が参加し、絵本「わたしのワンピース」を読んで、教室が始まった。物語で、主人公のうさぎは空から落ちてきた白い布でワンピースを作る。お花畑を歩けば花模様に、雨が降ったら水玉模様にー。出版された1969年から変わらず愛されるファンタジー絵本だ。

絵の具を足に塗ってみる佐野琴春ちゃん


 教室では白いコーヒーフィルターを生地に見立て、子どもたちが色付けした。ペンをトントンと動かしてドット柄にする子もいれば、5本いっぺんに持って虹のような線をひく子も。「あっ雨が降ってきたよ」。霧吹きで水をかけると、じわっと色が広がった。おしゃれに描いた生地を壁にぺたぺた。みんなで大きなうさぎのワンピースを仕立て上げた。

「ダメのない世界」で子どもを受け止める 

 参加した佐野琴春(ことは)ちゃん(1)は霧吹きのふたを開けてバシャーッと大雨を降らせるなど、大胆に楽しんだ。母親の陽香さん(35)は、「自分は自分でいいんだと認められる力をつけてほしい。そのためにも『やりたい』を丸ごと受け止めてくれるところがいい」と魅力を語る。

手が汚れるのが苦手だったという堀田汐莉ちゃん(左)。今はこの笑顔


 通い始めたころは、手が汚れるのが苦手だった堀田汐莉(しおり)ちゃん(3)は今でも、周りの子が大胆に遊ぶ姿を見て「いい〜っ」という顔で驚くという。母親の薫さん(34)は「びっくりしながら、自分もやってみたいという気になっているようです。家でされるとやめて!と言いたくなるような遊びを、ここではのびのびとやらせてあげられる」と話す。

 考案した「日本乳幼児遊び教育協会」(横浜市)の講座で学んだ小笠原さんは、「感じるままに」という言葉に自身が救われたという。「幼いころから周りの人の好き嫌いに合わせてきた。自分の気持ちに従っていいと初めて思えたんです」。2021年に教室を始め、「自分にふたをしなくていいんだよと受け止める場所にしたい」と願う。

自分で混ぜた絵の具で太陽を描いてみた井上一葉ちゃん=中央区のクリップ築地店で、川上智世撮影


4児の父が考案 アートで遊ぶ「クリップ」

 中央区築地では、土粘土や絵の具、木工で遊べる「クリップ築地店」がにぎわっている。運営するのは、書籍販売「明正堂」(荒川区)の木村歳一さん(42)。年長から高校3年生の4児の父親だ。枠からはみ出す力を育んでほしいと、19年に始めた。店名は「クリエイティブ プレイグラウンド(創造力を養う公園)」から付けた。

 遊び方にルールはないが、保護者へ「上手だね」「何を描いたの?」などの言葉は使わないよう呼びかける。木村さんは「大人が理解できるものを描かないといけないという気持ちにさせてしまう。とりあえず試してみるという感覚を大切にしてほしい。大人も子どもをまねして遊んでみると楽しいですよ」と勧める。

楽しむヒントが描かれたルール


 4月上旬、店内のあちこちから、弾んだ声が聞こえてきた。黙々と粘土をこねる江東区の井上一葉(いちは)ちゃん(5)へ「おっ、形が変わったね。さっきはボールみたいだったけど、今度は丸いお皿みたいだね」と声をかける母・美穂さん(42)。

 真剣なまなざしでアクリル板に絵の具のスプレーを重ねる目黒区の今西瑛飛(えいと)ちゃん(5)と凌悠(しのぎ・はるか)ちゃん(4)。母親たちが「虹ができたね」と話しかけると、2人は「宇宙だよね」「違うよ、色とりどりの世界だよ」と笑い合った。

「宇宙」や「色とりどりの世界」をつくる今西瑛飛ちゃん(奥)と凌悠ちゃん


子どもの声を聞き、遊びから探究的な学びに 

 研究者によると、子どもたちは自由な遊びの中で、無意識に「探究」を重ねているという。大人が適切な環境を設定することで、探究的な学びをより深められるよう、都は昨年度から補助事業を始めた。東京大大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター「CEDEP(セデップ)」と連携。試行としてアートや教育の専門家を4区市の14園に派遣し、さまざまなプロジェクトに取り組んだ。

 音をテーマにした園では、5歳児が音とは何かを話し合い、体で音を表現。子どもたちからわき出た疑問をもとに、虫の心音を聞いたり、聞こえた音を絵で表したり。事例集「とうきょう すくわくプログラム」を作成し、本年度は、都内全域の園で取り組むよう呼びかける。

 CEDEPの浅井幸子・副センター長は、「一人一人の創造性を膨らませる自由な遊びに加え、デザインされた環境で周りの子の考えに触発されながら試したり、表現したりすることが探究的な学びにつながる。両方が大切」と話す。