【第6回】2024年6月から岸田文雄首相肝いりの定額減税が始まります。納税者本人と扶養家族が対象で、1人当たり所得税3万円、住民税1万円の計4万円減税されます。子育て世代の多くが気になるのは、住宅ローン控除やパート収入など税制上の扶養との関係です。定額減税の恩恵に影響はないのでしょうか。

定額減税のしくみ

1人当たり所得税3万円と住民税1万円を本来の税額から差し引く。会社員の場合、6月分給与から、源泉徴収されている税金が減税分だけ少なくなる。

対象は年収2000万円以下(所得合計額1805万円以下)の納税者。納税者と配偶者、子ども2人の家庭なら計16万円の減税となる。

低所得世帯向けには、所得税、住民税の非課税世帯に1世帯当たり7万円を給付。2023年3月の物価高対策で決めた3万円と合わせて計10万円。所得税非課税で住民税の一部のみ納めている家庭にも同水準の10万円を給付する。18歳以下の子ども1人5万円の上乗せもある。


扶養家族も対象 ありがたいけど複雑

 ファイナンシャルプランナーの八木陽子さんは「ありがたいけど、複雑で分かりづらい制度。最初から給付だけの方が分かりやすかったですね」と感想をもらします。

 定額減税は扶養家族も対象です。扶養家族の条件は合計所得金額が48万円以下(給与収入のみなら103万円以下)。納税者本人の合計所得金額が900万円を超えて配偶者控除を受けられない人も、配偶者の合計所得金額が48万円以下なら、扶養家族として定額減税の対象となります。

 年収700万円の会社員であれば、所得税3万円と住民税1万円が差し引かれますが、配偶者控除の適用を受けている配偶者と子ども2人がいるケースの場合、計16万円が差し引かれます。

手続きは不要です 6月分の給与から

 2024年1年限りの施策で、1人当たり4万円は年を通しての減税額となります。納税者本人の手続きは不要で、6月以降に支払われる給与や賞与の源泉徴収税額から引かれます。

 所得税は6月分から減税されます。住民税は6月分は徴収されず、7月分から11カ月間にわたって減税分を均等に天引きします。

 この会社員のケースであれば、所得税が月12万円以下だと満額は引き切れません。この場合、「減税分が6月の源泉徴収税額から引ききれないときは、差額分を繰り越して7月以降の税額から引くことになります」(国税庁の担当者)とのことです。

満額引けない場合、市区町村が給付へ

 1年限りの措置のため、減税額は年末調整で確定する所得税額が限度。住宅ローン利用中という家庭も多く、「うちは住宅ローン控除を受けているから、満額の減税は受けられないのでは」という疑問を抱く人もいるでしょう。

 パートなどで働いている人の中には「社会保険料負担が発生する年収130万円の壁は意識してきたけど、103万円までに抑えて扶養家族として定額減税の恩恵を受ける方が得かもしれない」と心配する人がいるかもしれません。

 住宅ローン控除の適用などで所得税や住民税から定額減税分が満額引ききれないと見込まれる場合、不足額は「市区町村からの給付で調整され、住宅ローン控除の額や働き方によって恩恵に差が出ることはない」(国税庁の担当者)とのことでした。

 ふるさと納税の控除上限額についても、減税前の所得額で決まる設計のため、定額減税による影響はありません。

年末調整や確定申告が必要なケースも

 ただし、高額所得で減税の対象外となったり家族の所得が見込みより多くなり扶養から外れてしまったりした場合は、年末調整や確定申告で一度減税された分を返す必要も出てきます。個別の状況に対応しなければならない会社の経理や自治体の担当者らが煩雑な作業に追われるのは確実でしょう。

 給付ではなく「減税」にこだわった岸田首相。政権浮揚策となるのでしょうか。

〈チェック!子育て家計術〉 出産、子育て、習い事、教育など子育て家庭の出費は何かとかさむもの。この連載では、国や自治体の支援策や子育て家計に役立つ情報をファイナンシャルプランナーの八木陽子さんとともにチェックします。

監修・八木陽子

 東京都在住。1男1女の母。出版社勤務をへて独立。2001年、ファイナンシャルプランナーの資格を取得後、マネー記事の執筆やプロデュース、セミナーなどの仕事をする。2005年、親子でお金と仕事を学ぶ団体キッズ・マネー・ステーションを設立。2008年、家計やキャリアに関する相談業務を行う株式会社イー・カンパニーを設立した。著書に「6歳からのお金入門」(ダイヤモンド社)、「10歳から知っておきたいお金の心得」(えほんの杜)など。