ドングリを手に観察する鈴木純さん=渋谷区の代々木公園で(平野皓士朗撮影)



 4歳の娘を育てる植物観察家の鈴木純(じゅん)さん(38)は、「娘の成長と、植物の成長は同じだ」と言います。子どもが誕生してから、その成長過程を観察している鈴木さんに自身の子育てについて話を聞きました。


全ての成長過程が「やるべきこと」

—鈴木さんは植物観察会でも、自身のお子さんが3歳半になるまでの成長や気づきを観察し記録してきた著書「子どものかんさつ帖」(アノニマスタジオ)でも「子どもの成長と植物の成長は同じだと思った」と話していますが、共通点はどこにあるのでしょうか。

 娘を見ていると、子どもはしかるべき順序を追って成長していることがわかります。生まれた瞬間に立ち上がるわけではなく、準備段階が必ずある。手足を動かすところから始まって、寝返りをして、起き上がり、ハイハイ、ズリバイができるようになって、つかまり立ちになって、やっと立つ。一足飛びにはいきません。子どもにとってハイハイやズリバイに大事な意味があって、それらをやりきるんです。やりきった先に、次のステップへの成長があります。

子育てについて話す鈴木純さん=渋谷区のブロンズ新社で


 娘の「やるべきことをやる」姿を見ていて、植物も同じだなと思いました。例えば、アサガオを育てているとします。種を植えて、芽が出て、いきなり花が咲くわけではない。葉っぱを出す作業があって、茎が伸びていって、茎が伸びていくとつるに変わる。つるが支柱に巻きついていき、ある程度大きくなってやっとつぼみが出てきます。全ての成長過程があって、アサガオも花を咲かせるのです。

 子どもも植物も、常に今すべきことをやっているところが、そっくりです。一人一人の成長のスピードで、それぞれがひたむきに生きていっています。そんな姿を見ていると、「私たち人間も自然の一部だ」と実感します。だから、子どもが今やっていることを邪魔しないで、思う存分やらせてあげたいです。

疑問に答えられない時は、一緒に

—散歩中に植物を見つけ、子どもから「これは何?」と聞かれた時、知らないものだったとしたらどうすればいいですか?

 僕も植物については答えられるのですが、虫についてはわからない。娘が虫に興味を持ち、聞かれたことがあります。だけど、僕は答えられませんでした。そういう時は一緒に調べます。家族で過ごす部屋には虫の図鑑がたくさんあるので、娘が疑問に思った虫は、その場で調べる。でも、結局正解かどうか確信が持てません。それでも、娘は満足してくれるんです。

 要するに、必ずしも正しいことを教える必要はない。「この植物は何?」という子どもの疑問を一緒に調べれば、それこそが「植物観察」になります。

「今」を逃したら二度と見られない

—娘さんの観察は、現在も続けていますか?

 今も続けています。娘が成長して落ち着いた今は、「観察メモ」をノートに記録していますが、0〜1歳の頃は、ティッシュの箱の裏とかチラシとか、書ける時に書けるところに残していました。

 観察メモはこれからも続けていきたいですね。ちょうど先週、娘が「夜寝ている時間と昼起きている時間の長さは同じだと思う」と僕に話してきました。どういうことか聞くと、「夜寝ている時間が短かったら、昼起きている時間も短い。夜寝ている時間が長かったら、昼起きている時間も長い」と言うのです。

 言っていることの正確な意味はわからないのですが、彼女の中には、まだ1日が24時間あるという概念がないので、そういう理解なのでしょうね。そんな面白いことがたくさんあります。2歳、3歳でやっていた行動は、今はもうしないので、二度と見られないんです。だから、「今」を絶対見たいと思っています。

 植物と子どもの観察は同じです。ただ、植物は季節ごとに繰り返し来てくれるのですが、子どもがやっていることを見逃したら二度と見られません。だから、僕は見逃さないように、できる限り、子どもとの時間を取っていきたいんです。

父親こそ、子どもを観察するべき

—娘さんの観察について、家族はどう思っていますか?

 本人はすごく気に入ってくれています。娘は、自分のしたことを気持ちいいくらい覚えていません。忘れて、どんどん成長していくんだと実感します。

 パートナーは、僕が娘を観察することを許してくれています。もちろん一緒に娘を育てていますが、彼女には授乳の大変さや、産後の体のつらさなどがある中で、僕自身はそういう経験がない状態で、娘を見て、メモをしている。それを許してくれたことに感謝しています。「特に0歳児の育児に必死な時に、違う目線で見てくれていたことはよかった」と言ってくれました。

 僕は父親こそ、子どもを観察した方がいいと思っています。10カ月の間、おなかの中に子どもがいた母親と比べて、やっぱり男性はタイムラグがある。僕には、どうしたらパートナーに追いつけるかという課題がありました。

 授乳はできないし、娘をすぐに泣きやませることもできない。パートナーにできないことで僕にできることと言ったら、娘を観察することだったんです。パートナーに追いつくための観察でした。

 僕は勝手に、パートナーを子育てのライバルだと意識しています。今は負けていますが、娘が10歳になった頃に、僕の方をより好きになってくれているといいなあと思います。

鈴木純(すずき・じゅん)

 1986年、東京生まれ。東京農業大を卒業後、青年海外協力隊に参加し、中国で砂漠緑化活動に関わる。帰国後の2018年、まち専門の植物ガイドとして独立。著書多数。今年3月、初の写真絵本「シロツメクサはともだち」(ブロンズ新社)を刊行した。


鈴木純さんの初めての写真絵本「シロツメクサはともだち」