この春、新潟県警では97人の新人警察官が一歩を踏み出しました。しかし、そこに広がるのはこれまで経験したことがない厳しい世界……。

家族に涙ながらに誓った夢を叶えるために…そして県民の安心を安全を守るために…。

彼らが学ぶ“教場”での生活に密着しました。

■新潟県警察学校の“教場”  1か月間は スマホ・外出禁止の厳しい世界

<教官>

「気を付け」「敬礼」「休め!」

「まだバラバラだ」

「思い出せ、一つ一つ」

徹底的に礼や返事の仕方を叩き込まれる新人警察官たち。

警察学校に入校して4日。これまでの学生生活や過ごしてきた社会とはまったくの別世界……。

警察学校に入校後1か月間は、特別指導月間として、寮で共同生活を送り、外出はもちろんスマートフォンも禁止。警察官になるため必要な教養を学び訓練を受けるここが「教場」です。

■一人前の警察官になるため 厳しい教官の指導に耐え抜く日々

<教官>

「動くな、動くと目立つ」「一番、前分かるか一番前の中心にいるんだぞ」

<新人警察官>

「はい」

<教官>

「なんだその返事」

<新人警察官>

「はい」

<教官>

「返事しているんか」「もっと出る」「もっと、腹から出せ」

厳しい教官の教え……そこにいたのは、臼井詩保美巡査、18歳です。

■警察官志望の女子高校生 高齢女性を保護し警察から感謝状 

実は彼女は、道に迷った80代女性を保護したとして去年11月、警察から感謝状を贈られた女子高校生でした。臼井巡査が、高齢女性を助けたのは新潟県警の試験の前日のことでした。

<新潟東警察署 五十嵐久人署長>(当時)

「勇気ある献身的な彼女は警察官を新潟県警察官を志望してほしいというふうにコメントしようと思っていたぐらい。本当に私もラッキーであります」

■晴れて憧れの警察官に 家族に誓った夢「厳しいけど頑張る」

あれから5カ月……。覚悟を決め、髪もバッサリと短くしました。

しかし、憧れて踏み込んだ世界で直面したのは県民を守るためには実力不足の自分自身。

<入校式後の臼井巡査>

「厳しいなというふうに思います。人のために動くというのは」

それでも……

警察学校に入校して1週間で迎えた入校式で家族に誓いました。

<臼井巡査>

「1週間しか経っていないけどもう厳しい……でも教官の人たちすごいよい人たち」

「今までで一番充実しているかも。だから厳しいけど頑張る」

■愛する我が子のために 一念発起して警察官に

この春、警察学校の門をたたいたのは18歳から34歳までの97人。

その中には最愛の我が子のために警察官になった人も

伊藤優企巡査、32歳です。前職は給湯器の修理メーカー。一念発起した理由は……。

<32歳で警察学校に入校した伊藤優企巡査>

「子どもが生まれてから生まれる前とでは児童虐待のニュースなどを見ると、感情が独身の時とは変わって、助けてあげられない憤りを感じ、警察官を目指しました」

■10歳年下の同期とともに 県民の安心安全のため鍛錬の励む日々

この時間は体育の授業。

武器を持っていたり腕力が強かったりするどんな犯罪者と出くわしても子どもの、県民の安心安全を守りたい。

それでも……。32歳でひたすら取り組む腕立てや腹筋。ひと回り近く年の離れた同期に着いて行くのがやっとです。

Q)年齢が10個違うと体力差は?

<伊藤巡査>

「すごい感じているので、この半年間でみんなと同じくらいになれるようにしたいと思います」

朝から晩まで休みなく訓練を重ねる新人警察官たち…。つかの間の昼食時間も黙々と箸を進めます。

■1分1秒の遅れが被害者の命を救えない 警察官としての心構え

この日の授業は交通の授業。

<教官>

「つらい思いをする被害者が出てくる。そういうのを防ぐために取締りを強化しましょう、指導しましょう」

悲しい事故を減らすため……。違反者の取り締まりにあたるのも警察の任務です。しかし……

<臼井巡査>

「遅れてすみませんでした」

忘れ物を取りに行き、授業に遅れてしまった臼井巡査…その他にも。

<新人警察官>

「レジュメを忘れてしまいました」

<教官>

「だからなんで忘れた?」

「こうやって忘れて遅れる、そして取りに行く。その間授業できないでしょ。きちんと確認して用意する、最低限だ。準備しないで現場行ける?」

<新人警察官>

「行けないです」

<教官>

「これ忘れてきました、被害者助けられません、活動できません、交通整理できません……そんな警察官必要?こういうところから始まっているから改めてください」

1分1秒の遅れ……。

それが被害者の命を救えない、被疑者を取り逃す……。警察官であるならばわかっていてほしいのです。

■常にみられる立場の警察官  少しの乱れ、緩みも許されず

さらに服装や手錠、警棒などが正しく装備できているか確認する「点検訓練」では。

<教官>

「アイロンかけろ、後ろ」

<新人警察官>

「はい!」

<教官>

「かけたのか?これ」

<新人警察官>

「かけました」

<教官>

「かけたのか?これがこのシワシワがかけたのか?かけた?」

<新人警察官>

「一応かけました」

<教官>

「じゃ足りない、かけなおせ」

常に市民から見られる立場の警察官。信頼を築くために少しの乱れ、気の緩みも許されません。

<新潟県警察学校 梅川裕一教官>

「日頃からの立ち振る舞い、常に全力でという指導方針で警察学校はやっています。そこで本人たちが全力を出しているかどうかを見極めています」

■仲間と支え合い 新潟市内30キロを歩く強歩訓練

4月30日。団結力を高めるため6、7人のチームで新潟市内30キロを歩く強歩訓練が行われました。

<新人警察官>

「しんどいです。足がパンパンです。結構ペース早いですね」

途中で足を痛め足を引きずって歩く姿も……。

<新人警察官>

「つったんですけど歩いてきました。全部痛い、どこが痛いかわからないです」

この1か月でお互いのことが分かり始めた新人警察官。支え合いながらゴール地点を目指します。

そして……

「せーの!イエーイ」 

ゴールテープを切りました。

<伊藤巡査>

「くじけそうでしたが、バッグを持ってくれたり、みんなしてくれたので一緒にゴールしたかった。なんとか気持ちを保てました」

臼井巡査のチームもゴールに!

<臼井巡査>

「つらいときもみんなで声出して頑張って最後までこられた」

■つらく厳しい特別指導月間が終了 一人前の警察官になるために続く訓練

この日の夕方、1か月間の指導月間を終え、待ちに待った休暇です。

短い休暇が終わると再び警察学校での訓練が続きます。一人前の警察官となり交番に出るのはまだ先です。

<伊藤巡査>

「つらいとき逃げだしたい時は、家族を思い出すと、私が養っていかなければいけないので逃げられないなというのは強く感じます。子供の未来を守れるような警察官になりたいと思っているので児童虐待などを一つでも減らせるようにここからいろいろ学び、成長していきたい」

<臼井巡査>

「県民の皆さんが安心して自分たちを頼ってもらえる、そんな手本になるような警察官になりたい」

県民の命と安心を守れる憧れの警察官になるために……新人警察官の訓練はきょうも続きます。