2023年夏に北関東の宇都宮で開業したライトライン。那覇市のLRT整備計画素案には、導入車両の参考としてHU300形の図が掲載されています

沖縄県那覇市は2024(令和6)年3月28日、「那覇市LRT整備計画素案」を公表しました。この素案をもとに関係機関との協議を進め、2026(令和8)年度末までのLRT整備計画の策定を目指します。

現時点で確定したものはありませんが、素案にはかなり具体的な整備計画が記載されています。那覇市の構想を読み解いていきましょう。

ルートは東西軸と南北軸

LRTの導入ルートとして想定されているのは、那覇市内域の東西ルート本線および単線の支線、南北ルートの計3路線。4車線道路の中央にLRT専用空間を確保し、マイカーからの転換を図ります。

一般部のLRT軌道整備イメージ。停留場は原則として交差点の横断歩道からアクセス可能な位置に整備する想定です(資料:那覇市)

東西ルートは県庁北口から県立南部医療センター付近までの約5km、支線は県庁北口から若狭海浜公園付近までの約1km、南北ルートは真玉橋付近〜新都心までの約5kmをそれぞれ結びます。

那覇市にはすでに「ゆいレール」がありますが、LRTはこの「ゆいレール」やバス・タクシーと接続させることで、「市域内の東西の骨格を担う交通手段」(那覇市)とする構想です。

導入ルートイメージ(資料:那覇市)

真和志地域のまちづくりの早期進展などの観点から、先に整備するのは東西ルート本線と支線。車両基地は松山公園の地下に整備する予定です。

本線ピーク時は毎時10本運行

車両の最高速度は時速40kmほど。停留場の停車時間は30秒。所要時間は東西ルート本線が約19分、支線が約8分、南北ルートが約17分と見込まれます。

運行本数は本線ピーク時で毎時10本、オフピーク時に毎時6本。支線は日中毎時3本。本線・支線ともに早朝深夜帯は本数を減らして運転します。

運行計画(資料:那覇市)

導入車両は全長約30メートル(3両編成)の低床式車両を想定。1,435mmの標準軌を走れる車両で、定員は160名(座席50席)、導入数は東西12・南北9の21編成。

素案で挙げられているイメージ図は昨年開業した宇都宮のHU300形です。大きい窓で車窓から街並みを楽しめること、シンボリックなデザインとしまちづくりとの調和を図るといった特徴が盛り込まれています。

B/Cは1.0を超える想定

LRTの概算建設費は東西ルートが約320億円(うち国費約180億円)、南北ルートとあわせて約480億円(うち国費約270億円)。需要予測は東西ルート単独で約15,100人/日、両ルート合わせた場合は約21,900人/日。

建設費、B/Cなど(資料:那覇市)

東西ルート、東西+南北ルートいずれも単年度収支は黒字となる見込みです。費用便益分析結果を見ると、B/Cは事業化の目安とされる「1.0」を超えています。

そもそもなぜLRTが必要なのか

那覇市は目指すまちの姿として「自然環境と都市機能が調和した住み続けたいまち NAHA」を掲げ、『誰もが移動しやすいまちをつくる』ためLRTの導入を目指しています。

特に真和志地区においては公共交通の不便な地域もあり、ここにLRTを導入することで公共交通不便地域の解消を図る考えです。

人口減少、少子高齢化社会では一定のエリアに各種機能を集約化する必要がありますが、コンパクト化だけで人口減少からのマーケット縮小等に対応するのは難しく、各地域を利便性の高い公共交通で結ぶことで各種都市機能の維持に必要な人口を確保していくことが求められます。

「今後、高齢者はもちろん、若い世代が暮らしやすいまちになるために、将来を見据えて、まちなかに入る自動車量を減らしながら公共交通をさらに便利にすることで、『人を中心としたまち』『誰もが移動しやすいまち』をつくる必要があると考えています」(那覇市)

渋滞悪化の懸念もありますが、先に挙げた通り、那覇市はLRT導入にあわせマイカーから公共交通への転換を図る施策を行う予定で、自動車交通の適正化・渋滞緩和が期待されます。

5月にはパブリック・コメントも実施

那覇市は今後、素案をもとに道路管理者や交通管理者、路線バス事業者等の関係機関との協議を進め、2026(令和8)年度末までのLRT整備計画の策定を目指します。今年5月にはパブリック・コメントも実施予定。

「市民をはじめ、市内に通勤・通学する周辺市町村の皆様の様々な視点や意見も反映させることが、より良い計画の策定に繋がりますので、多くのご意見を寄せていただきますよう、お願い申し上げます」(那覇市)

LRTといえば、2023年夏に開業した宇都宮のライトラインが格好の先行事例。車両だけでなくまちの状況や問題意識などかなりの部分が共通しており、参考にすべきところも多いはず。市民からの賛同が得られるかどうか、関係機関との協議など課題はありますが、新しいLRTの誕生に期待がかかります。

これまでの議論の経緯については、本サイトのレポート「那覇LRTのルーツはここにあり 2010年11月に沖縄で開かれた「LRTワークショップ2010」【取材ノートから No5】」(2021年6月掲載)もあわせてお読みください。

記事:鉄道チャンネル編集部