3月10日の名古屋ウィメンズマラソンで「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)ファイナルチャレンジ」がすべて終了した。男子は設定記録(2時間5分50秒)の突破者がゼロ。その結果、MGCで「2位以内」に入った小山直城(Honda)と赤﨑暁(九電工)に続いて、同3位の大迫傑(Nike)がパリ五輪代表に内定した。女子は鈴木優花(第一生命)と一山麻緒(資生堂)に加えて、大阪国際で2時間18分59秒の日本記録を打ち立てた前田穂南(天満屋)がパリに向かうことになる。

 前回の東京五輪から「MGC方式」を採用しているが、この選考方法はベストなのか。MGCファイナルチャレンジを総括しながら考えていきたい。

 3大会あった男子は昨年12月3日の福岡国際が初戦となった。MGC(10月15日)からの期間が短かったこともあり、有力選手の参戦は少なく、日本勢は細谷恭平(黒崎播磨)の2時間7分23秒の4位が最高だった。

 2戦目は2月25日の大阪だ。30km過ぎに飛び出した平林清澄(國學院大)が日本歴代7位の2時間6分18秒で優勝。目標にしていた日本学生記録(2時間7分47秒)だけでなく、初マラソン日本最高記録(2時間6分45秒)も塗り替えた。
  そして最終戦となった3月3日の東京には日本人有力選手が集まった。そのなかでオレゴン世界選手権代表の西山雄介(トヨタ自動車)が日本歴代9位の2時間6分31秒で日本人トップ(9位)だった。

 西山は、「オリンピックを決める、その一心で最後まで走りました。設定記録を切る自信もあったんですけど、結果的には全然ダメだったので非常に悔しいです」とレース後は涙した。前半のペースが予定より少し遅くなり、西山に転倒があった。この2点が非常にもったいなかった。

「記録を狙うと力が入る。オリンピックを狙う選手は力が入っていたように思う」と日本陸連の瀬古利彦ロードランニングコミッションリーダーが話していたように、重圧や焦りがレース運びに影響したかもしれない。
  女子は1月28日の大阪国際で前田穂南(天満屋)が後半、ペースメーカーの前に出る攻めの走りを披露。日本記録を19年ぶりに更新する2時間18分59秒を叩き出して、MGCファイナルチャレンジ設定記録(2時間21分41秒)を悠々とクリアした。

 そのため名古屋でパリ行きのチケットを獲得するには、日本新記録が必要となった。日本勢は25kmを過ぎて海外勢に引き離されるも、安藤友香(ワコール)と鈴木亜由子(日本郵政グループ)が終盤に底力を発揮する。安藤が7年ぶりの自己ベストとなる日本歴代8位の2時間21分18秒で制すと、鈴木が日本歴代9位の2時間21分33秒で3位に入り、ともに設定記録を突破した。

 なお東京では大阪国際でペースメーカーを務めた新谷仁美(積水化学)が日本記録の更新を目指すも、2時間21分50秒の6位に終わった。

 男子は設定記録を突破できず、盛り上がりに少し欠けた印象だが、女子は大阪国際で前田が日本新記録で突っ走ったことで、選手たちの“目線”がアップ。「日本記録を狙って練習してきました。その成果が出たかなと思います」と安藤が話したように、好記録の要因になったようだ。

 瀬古リーダーも「女子はレベルが上がったと思います」と評価した。一方の男子は元々の設定記録(日本歴代3位相当)が女子(MGC終了時点では日本歴代8位相当)より高かった。大阪と東京で2時間6分台が7人出たことを考えても、日本陸連の取り組みが記録向上に寄与したと言えそうだ。

 MGC方式がとられるまでは、男女とも前年の世界選手権と国内3大会ほどが「五輪代表選考会」に指定されており、選考で揉めることが多かった。しかし、MGC方式は選考する者の主観ではなく、システマチックに代表3人が決まる。選考方法に透明性があり、選手たちの評判は悪くない。
  あとは本番でいかに結果を残すかだ。

 日本陸連強化委員会の高岡寿成シニアディレクターは、「東京五輪は新型コロナウイルス感染拡大により1年延期したため、MGCによる選考の効果を検証できませんでした。選考方式としては、限りなく100点に近いと感じていますが、それが100点になるかはパリの結果次第だと思います」と語っている。

 なお東京五輪ではMGCファイナルチャレンジに参戦した大迫と一山が日本人最高位で入賞(6位と8位)を果たした。今回は女子の前田だけでなく、内定済みだった男子の小山が大阪に出場。2時間6分33秒の自己ベストで3位に入っている。また大迫は4月15日のボストンを経て、五輪に挑む予定だ。

 パリ五輪は累積高低差(獲得標高)が438mもあり、「暑さ」との戦いも考えられる。今冬のレースで好タイムをもらしたMGC方式の“効果”を本番でも期待したい。

取材・文●酒井政人

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