アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場するのは、体操の日本代表として東京オリンピックに出場し、男子団体総合銀メダルに輝いた谷川航選手。体操競技への思いやジュニアアスリートへのアドバイスなどを語ってくれた。

■弟の翔選手とともに体操をはじめる

―体操競技を始めたきっかけを教えてもらえますか?

 子どもの頃に通っていた幼稚園(健伸幼稚園)に体操クラブ(健伸スポーツクラブ)があったことです。幼稚園の時から体操の時間にクラブの先生に教えてもらい、小学校入学と同時にそのクラブに入りました。

 体操だけじゃなく、外で遊んだり体を動かしたりするのが好きでした。飛んだり、逆上がりをしたり、鉄棒にぶら下がってる時間競争のような遊びも得意でしたね。負けず嫌いなところもあるので、勝ちたいなという気持ちもあったと思います。

―弟の翔(かける)選手も体操選手です。子どもの頃はどんな兄弟でしたか?

 翔は僕の2歳下です。子どもの時に同時に何かをやればもちろん年上の僕が勝つのですが、自分が2年前に翔と同じようなことを出来ていたかなと考えると、いつも翔が先を越していた気がします。

 翔はまだ1年生になってない時から、僕の体操の迎えに母と一緒に来て先生に補助されながら体操をしていましたから、スタートが早かったんです。近くで僕のことも見ているから、どんどん色々なことを出来るようになっていましたよ。



―体操以外の習い事はやっていましたか?

 水泳教室やアクションスクールにも通っていたので週7日、休みの日はなかったです。水泳の日は泳いだ後に体操クラブに行っていました。

―中学3年生まで健伸スポーツクラブで、高校は市立船橋高校へ進みました。練習時間や 取り組み方に変化はありましたか?

 中学3年生までは練習時間がすごく長くて、平日は夕方4時半から夜10時まで。休みの日は午前10時から夜6時、7時までやっていました。高校では短い時間の中で効率よく練習することを覚えていきました。

 中学校までは先生に言われたことをそのままやっているだけだったのですが、高校に入ってからはある程度自分で考えて、その中で必要なことだけを先生に教えてもらうようになったのです。自分で練習メニューを作っていくことを考え始めたのも高校時代です。
 ■東京オリンピックで団体銀メダル、2022世界選手権で個人総合銅メダルを獲得

―高校ではインターハイなどで活躍し、順天堂大学3年だった2017年に初めて世界選手権の代表に選ばれました。

 当時はまだ、代表に入ろうという気持ちが今ほどは強くなかったと思います。代表になれたら良いなという気持ちで選考会に出場したのですが、意外と「ゆか」の調子が良く、思った以上に点数が出せて、いつの間にかメンバーに入ってたという感じでした。本番の世界選手権では失敗して良い結果ではなかったのですが、その経験から世界でもっと頑張りたいと思えたし、自分の可能性を感じるきっかけになったと思います。

―2018年には全日本個人総合選手権で内村航平さんの11連覇を阻んだ弟の翔選手と一緒に、初めて団体メンバーとして世界選手権代表になりました。

 翔も大人と一緒に戦えるところまで成長してきたので、翔に負けたくないという気持ちにもなっていましたし、翔と一緒に頑張りたいという気持ちがどんどん強くなっていった時期でもありました。2017年に一度代表に入っていたので、「去年入ったのに今年入れないのは嫌だな」という気持ちで頑張れたというのもあります。

―2019年の世界選手権にも2年連続で兄弟出場を果たして団体銀メダルを獲得しました。

 2019年はエースとして日本を引っ張ってきた内村航平さんが代表入りせず、僕の中でも「大丈夫なのか」という気持ちがありましたし、周りからもそう思われていると感じていました。航平さんがいなくても次の世代がしっかり育ってきているぞというところを見せたいという気持ちで戦っていたと思います。
 ―そして、2021年東京オリンピックに出場して団体銀メダル。2017年から毎年代表入りして迎えた大舞台はどのような場所でしたか?

 試合中は自分たちの演技に集中していましたから、(ライバルの)ROCロシアや中国のことはあまり考えていませんでした。大きなミスを出すことなく最後までやりきれたので、僕としては満足感がありましたね。ただ、細かいミスは何個かあったので、もう少し行けたなという気持ちもありました。

―一方で、残念ながら翔選手と一緒に東京オリンピックに出ることは叶いませんでした。

 東京オリンピックの最終選考会が終わった時に翔が泣いていたので、「お前の分も頑張るよ」と言いましたし、「パリオリンピックは一緒に行こう」と話したことがあります。翔は僕と違う特徴を持ってる選手。僕はパワー型だけど、翔は柔軟で、しなやかな動きができる選手なんです。兄弟だけど得意種目が違うので、一緒に代表に入りやすいバランスで、そこは良かったなと思っています。

―2022年の世界選手権で念願の個人総合銅メダルを手にしました。どんな気持ちでしたか?

 やはり僕は個人総合で戦いたいという気持ちが強いので、このメダルを取れたことは自分の中で自信になりました。それまで何度も世界選手権を経験してきましたが、個人総合の決勝に出たのは2022年が初めて。少ないチャンスで結果を出せて良かったです。
 ■好きじゃないものでも食べられるように心掛けてきた

―ここからは食生活についてお伺いします。子どもの頃、好き嫌いはありましたか?

 食べれないほどではなくても、好きではないものが結構ありました。でも頑張って食べてました。好きではないけど食べたほうが良いのだろうなと思いながら、できるだけ好き嫌いしないように意識して食べていたと想います。

―食事は体作りにも大切だから、という意識ですか?

 はっきりと体を作るためと考えていた訳ではないですが、やはりアスリートとして好き嫌いするよりはいろいろ食べたほうがバランスよく体が作れるんじゃないかなとは思っていましたね。

―バランス良く食べることの大切さはどこで教わったのですか?

 自分から学習したのではなく、小学校の授業や給食の時の放送で「バランスよく食べましょう」「残さずに食べましょう」と言われていたからだと思います。グリーンピースが嫌いで、ナス、ピーマンもあまり好きじゃなかったのですが、食べないよりは食べた方が得だと思って残さず食べていたので、それが習慣になったのかなと。

―学生時代の食生活は?

 高校生のときは自宅で生活していたので朝晩は家族と一緒に食べて、昼はお弁当でした。好きだったのはカツ丼弁当。僕のかつ丼弁当は美味しいと評判で先輩にもよく食べられてしまっていたので、母には多めに作ってもらっていましたね。

 大学生からは寮生活となったのですが、食事が用意される環境ではなく自分で管理していました。栄養価を考えてというレベルではなかったですが、できるだけバランスが良くなるような食生活を心がけていましたが、いま振り返ると毎日きちんとした食事をすることはできていなかったと思います。
 ―海外遠征で食事に困ったことはありますか?

 好き嫌いがあまりないので、海外へ行っても現地の食事に順応できますね。世界選手権などでは栄養士の方が帯同して食事面を管理してくれます。栄養士の方がいない遠征の時は、お湯を注いで食べるアルファ米や、開けるだけで食べれるタイプの魚やお肉や和食を持って行きますが、現地のご飯でも問題なく食べれています。

―社会人になって6年。今はどんな食生活ですか。

 所属のセントラルスポーツから夕食のお弁当と、朝食用のおにぎりを出してもらっています。体重変化はあまりなくて特にカロリー計算はせずに、適度な分量を食べている感じです。好きなものをお腹いっぱいになるまで食べて、いっぱい練習しているとちょうど良い感じです。

―キノコが持つ栄養価や食材としての印象は?

 好きな食材でエリンギや椎茸、松茸が好きですね。キノコは食感が良い。所属先のセントラルスポーツで出してくれるお弁当にはほぼ毎日、キノコが入っているんです。先日、チームメートとその話題になって、「毎回入っているということは栄養価が高いということだね」と話しました。キノコを食べることで腸内環境が良くなるということも知ったので、食べながらそういうことも意識しています。

−どんな料理にキノコが入っているのですか?

 お弁当には毎回必ず味噌汁やスープが出るのですが、そこに入ってることが多いです。マリネのようなサラダの中にエリンギが入っている料理も美味しかったですね。
 ■成し遂げたい目標

―今後の目標を聞かせてください。

 オリンピックで金メダルを獲ることが小さい時からの夢なので、パリでそれを達成したいというのが今年の最大の目標です。自分の演技に集中して自分の力を出し切れば入れると思っているので、自信持って選考会に挑んでいきたいと思います。

―つらい練習や壁を乗り越えるためにジュニアアスリートへのアドバイスをいただけますか。

 うまく行っている時は楽しいから色々なことができると思うんですけど、調子悪い日や時期があると、そこでどんどん落ち込んでいって、さらにそれが悪い流れに繋がっていってしまうこともあります。だから、もし調子が悪くても、そういう日もあるよねという軽い気持ちになるとか、その分は明日しっかりやろうとか、そういう切り替えは大事だと思います。

 あとはやはり楽しくないと競技を続けることは難しいていけないですし、やる気も出てこない。コンディションはメンタルの状態で左右されやすいので、しっかり気持ちをコントロールすることも大事です。そのために、上手くいかない日もあるよねと考えることが大切だと思っています。
 谷川 航(たにがわ わたる)

1996年7月23日 160センチ 千葉県船橋市出身
幼稚園児の頃はショー・コスギのアクションクラブに通い、2歳下の弟の翔と一緒にテレビ番組やCMなどに出演。小学校1年から体操を始め、順天堂大学3年だった2017年に世界選手権で初めて日本代表入りを果たす。2018年、2019年も代表入りし、2021年には東京 2020 オリンピックで男子団体総合銀メダルを獲得。2022年世界選手権では男子個人総合銅メダルに輝いた。抜群の跳躍力を武器とし、得意種目はゆか、跳馬、平行棒。