ファン同士では収まらない騒動になっていた。

 4月12日の西武対ソフトバンク戦で事件は起きた。今季からソフトバンクにFA移籍した山川穂高の古巣本拠地で、西武ファンが大きくブーイング。これがプロ野球の枠を超えて大きな問題となったのだった。

 この“事件”を受けて、「山川と飲んだことがある」という実業家の堀江貴文氏が、ブーイングに否定的なコメントを自身のXに投稿。お笑い芸人のカンニング竹山氏も、ソフトバンクファンとして山川の立場に立ったコメントを発表した。

 長くプロ野球を取材しているものとして、これほどまでにブーイングが問題になるのが不思議でならなかった。なぜなら、ブーイングはスポーツの1シーンであるからだ。MLBでも欧州サッカーでも、移籍した選手が古巣に凱旋した時にはブーイングされることがある。

 もっとも山川に対するブーイングは、これまでのものと種類が違っていたのは事実だ。昨年、女性スキャンダルの末にFA権を行使して移籍した山川へ、西武ファンが憎悪に近い感情があったことは否定できない。
  しかし、ブーイングを浴びせることはプロ野球のシーンの一つであり、何ら不思議のない光景だ。

 昨今問題になっているSNSでの選手への誹謗中傷とはまったく性質の異なるもので、個人的には愛情表現の一つだと思っている。

 人間にとってもっともつらいのは悪口を言われることではなく、無視されることである。「好意」や「愛情」の対義語は「嫌悪」「憎悪」ではなく、「無関心」である

 史上最多の21人がFAで流失している西武は、山川に限らず多くの選手に対してファンがブーイングを浴びせてきた。そこに多少の違いはあるにせよ、本当の「恨み」を感じることはなかった。

 むしろ、本当は今も応援したいのにできない……そんな複雑な感情さえ感じたものだ。そして、ブーイングを受けた選手たちもそれらに答えてきた。

 その「答え」とは「結果で示す」という意味だ。
  2023年からオリックスへ移籍した森友哉は、昨季の開幕戦で9回2死から痛烈な同点アーチをかけた。試合序盤から浴びせられていたブーイングに答えた形だ。

 このようなケースはメディアで「きついお返し」などと表現されるが、実はその結果こそが、ファンにとって納得できる姿勢なのである。所属した時と同じプレーを見せてくれるからこそ、「やっぱり俺たちはすごい選手を応援してきたんだな」という気持ちに変えてくれるのだ。

 応援していた選手が移籍してしまうのは悔しい。でも、その雄姿を他球団に行っても見せてくれることで、これまで応援してきたことへの誇り、選手への愛情が再燃しているのではないか。

 昨季、強烈なブーイングを受けた森が試合後に語っていた言葉が印象的だった。

「ブーイングは聞こえていましたよ。それだけ僕が応援されていたことやなって、そういうことやと思います」
  山川は大ブーイングを受けた翌日の今年4月13日、2本の満塁本塁打を古巣に浴びせた。当日ではなく翌日なのが、森と山川の違いかもしれないが、2人ともそれだけの素晴らしい打者だということは言える。

 ブーイングを奨励したいわけではないが、ファンの想いは自由であっていいし、そういう空気がプロ野球を作っているということもある。

 山川の2本塁打は本当に彼らしい豪快なものだったし、天性のアーチストの一発だった。西武ファンは昨季までその多くを見てきたから感じることも大いににあるのだ。

 悔しさと、懐かしさと、さまざまな思いが交差する。

 スポーツはいろんな感情があるから楽しいのである。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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