コロナ禍で劇場公開が中止され、配信のみとなっていたディズニー&ピクサーの「私ときどきレッサーパンダ」が3月15日に劇場公開された。そこであらためて、日本語吹替版の見どころを紹介したい。(以下、ネタバレを含みます)

■待望の劇場公開

「第88回アカデミー賞」長編アニメーションに輝いた作品の続編「インサイド・ヘッド2」が8月1日(木)より日本公開されることを記念し、劇場未公開3作品がスクリーンに初登場することに。「私ときどきレッサーパンダ」はその第1弾となった。

主人公は、レッサーパンダになってしまう13歳の女の子・メイ(CV:佐竹桃華)。学校の成績もよく、真面目で頑張り屋。そして、仲良しの友達3人と推しのアイドルグループ・4★TOWN(フォータウン、CV:Da-iCE)に夢中で楽しく過ごしている日々。けれど、伝統を重んじる家の一番のルールは親を敬うことで、母の前では特に“いい子”となっている。

そんなある日、とある出来事をきっかけに自分を見失い、感情をコントロールできなくなってしまったメイ。そのまま眠りに就くと、翌朝、彼女はモフモフなレッサーパンダになっていた。

■主人公の母の声を担当する木村佳乃がさすがの演技力

母娘の関係が大きなポイントになってくるのだが、最初は母・ミン(CV:木村佳乃)の強烈さに驚くことだろう。メイが感情をコントロールできなくなるのも、実はミンの行動がきっかけ。娘を守らなければという、行き過ぎた過保護に少々眉間にシワを寄せてしまう。

そのミンの声を担当している木村が見事過ぎてゾクッとしたり、イラっとしたりするのだ。

のちのち、レッサーパンダへの変身はミンの一族の秘密があることが明かされ、過保護の意味がそこにもあると理解できるといえばできるのだが、クライマックスまでミンの勢いに圧倒される。

■推しへの愛がさく裂!

そんな母親の期待に応えようとしながら、メイは隠れて推し活に勤しむ。そのオタク気質なところは、推しのいる人はきっと共感しまくりだろう。CDをくれた友達に「一生の宝にする」と大喜びする姿はかわいい。ネタバレにもなってしまうので、これ以上の詳細は書けないけれど、そうなるよね〜とうなずいてしまうのである。

その推しへの愛が、物語の鍵となる。推しアイドル・4★TOWNのライブに行きたいが、いつレッサーパンダになるか分からない状態では行けない。自分を「モンスター」と嘆くメイを、レッサーパンダに変身した姿に驚きつつも、すんなり受け入れてくれた友人たちが励ましてくれる。ディズニー&ピクサー作品ならではの“もしもの世界”は、レッサーパンダになってしまう友人と変わらない付き合いをする優しさに満ちていて、レッサーパンダのモフモフさ加減がそれを許したくなる魅力にあふれているのである。

やがて、どうしたらレッサーパンダにならないようにできるかを会得するメイ。それならばライブに行けると思うのだが、13歳にとってライブのチケット代は高過ぎる。そこで両親にライブに行くべき理由をプレゼンするが、興奮してレッサーパンダ化を心配する母ミンはやはり大反対。しかも、アイドルたちを「ちゃらちゃらした連中」としか思っていないのだ…。

メイの友人たちも同じように反対されたり、チケット代は自腹と言われたり。そこで彼女たちは動き始める。ただ推しのライブに行くだけでなく、「大人の女性になる第一歩」なのだと。

そこからは主人公たちを、推し活仲間として応援したくなること間違いなし!

■思春期の葛藤にも共感

親の期待に応えたい、でも自分を見失いたくないという、思春期の葛藤。感情によってレッサーパンダになってしまうというのは、その年代の内なるものがあふれ出てくることがよく表現されているように思うし、少し前の2002年が舞台ではあるけれど共感できることは多く、普遍的なものでもあるかもしれない。

“推し”と“かわいいもの”に敏感なティーンエージャーの成長譚。メイの推しアイドル、4★TOWNの日本版声優を担当する5人組アーティストDa-iCEによる、大人気歌姫ビリー・アイリッシュと兄のフィニアス・オコネルが手掛けた“ノレる”楽曲のカバーをBGMに、楽しさと切なさ、キュンとする思いを交えながら、軽やかに描かれていく。“自分”を考えて、変わっていく姿が愛おしい。

メイたちと同じ世代だけでなく、母・ミンの世代も、また、かつてメイと同じように葛藤を抱えていた私たちにも突き刺さるものがあるはず。

レッサーパンダはメイの等身大ではなく大きくなることから、その迫力や動き、モフモフなところを劇場の大スクリーンで堪能するのもおすすめだ。メイのパパのおいしそうな手料理のシズル感もたまらない。

「私ときどきレッサーパンダ」は、全国劇場公開中。また、同作を含めディズニー&ピクサー過去作はディズニープラスで配信中。

◆文=ザテレビジョンシネマ部