ネット通販サイトを通じた違法な模倣品の流通が止まらない。背景には、海外からの個人輸入の拡大がある。知的財産権の侵害に当たるだけに、税関は取り締まりを強化し、サイト運営事業者も対策に乗り出してはいるものの、出品者とのいたちごっこが続き、根絶にはほど遠い状況だ。 (米田怜央)

 知的財産 発明など人間の創造的活動により生み出されるものや、商標など事業活動に用いられる商品・役務を表示するものなどの総称で、特許法をはじめとする関係法令に基づき保護されている。その侵害に当たる模倣品は世界規模で存在しており、経済協力開発機構(OECD)の推計によると、2019年の流通額は貿易額全体の2.5%に上る4640億ドル(約72兆8000億円)。国内企業も事態は深刻で、特許庁の23年度の調査では3348団体の17%が「模倣被害があった」と回答している。

◆税関では郵便物を厳しくチェック

 3月中旬、横浜税関の川崎外郵出張所(川崎市)。職員がフロアの一角でビニール袋からバッグを取り出した。海外の高級ブランドのロゴがあしらわれているが、内側を数秒見ただけで「偽物ですね」と明言。他の職員によるダブルチェックを経て、輸入差し止めの手続きに入った。

 同出張所は、国際便の8割が経由する国内最大の検査所で、1日に扱う郵便物は約10万5000個に上る。職員は輸出国やエックス線検査、メーカーから提供される真贋(しんがん)の「識別情報」を基に目を凝らす。詳しい検査態勢は非公表だが、知的財産調査官の西潟正美さんは「全部は見られない中、いかに的確に早く見ていくかが大切」と強調する。

 財務省によると、通販サイトの普及とともに個人輸入が拡大した近年は、差し止め件数も大幅に増加。2022年施行の改正関税法で、個人使用の場合でも、海外事業者から国内への模倣品の輸入ができなくなった。昨年の差し止め件数は3万1666件に達した。

◆削除依頼も悪徳業者も年に何十万単位という厄介さ

 「どこで本物が買えるか分からない市場は消費者の利益も損なう。海外では重大事故につながりかねない自動車部品や電池の模倣品も流通している」と警鐘を鳴らすのは、サイト運営事業者に模倣品の削除を求める一般社団法人「ユニオン・デ・ファブリカン(UDF)」の堤隆幸事務局長だ。企業などからの削除依頼の件数は、15年までは10万件を上回ることはほぼなかったが、19年以降は50万件超で推移する。

 サイト運営事業者や正規品を扱う関係業界も手を打ってはいる。ネット通販最大手のアマゾンは3月に公表した報告書で「23年に身元確認とデータ分析で悪質業者の新規アカウント開設を70万件以上防いだ」と強調した。

 一部サイトでは人工知能(AI)で疑いのある商品を探し出す取り組みも始まっているが、根拠なく偽物扱いすれば不当な規制になりかねず、価格などで一律の線引きは困難。インターネット知的財産権侵害品流通防止協議会(CIPP)の担当者は「(出品者に対して)恣意(しい)的にルールを運用しないよう慎重に対応しなければいけない」と訴える。

 一方、企業が加盟する日本知的財産協会で模倣品対策チームを率いる大久保淳さんは「企業は画像で分からなければ購入して偽物と特定する。手間をかけて削除にこぎつけても翌日に同じ商品が現れるサイトもある」と指摘。「消費者の安全が脅かされ、ブランドが毀損(きそん)される」と懸念する。