スポーツ施設などで使われている人工芝は、微細なプラスチック片「マイクロプラスチック(MP)」の主要な発生源の一つになっている。MPは河川などから海へ流れ込むなど環境中への流出が問題になっており、東京都内の自治体や大学が対策に乗り出している。(増井のぞみ)

 マイクロプラスチック 大きさが5ミリ以下の微小なプラスチック。環境中の有害な化学物質を吸着する性質があり、誤ってのみ込んだ鳥や魚、ウミガメなどへの影響が懸念されている。世界各地の魚介類、水道水、食塩などから検出され、人の母乳や便からも見つかっている。環境調査会社ピリカが2020年度に国内120地点で実施した調査では、由来するのは人工芝25.3%、コーティング肥料16.2%、フィルム類10.4%。残りは繊維、シート類、発泡スチロールなどだった。ピリカは国内の年間流出量は140トン、うち人工芝は22トンと試算している。

◆全国初、「砂入り人工芝」からの流出抑制ガイドラインを策定

 5月下旬の雨上がりの多摩東公園(多摩市)のテニスコート。緑の人工芝には青い線が落書きのように走る。排水溝のふたと地面の間には青いほこりが詰まっている。「どれも、雨で流れ出した人工芝です」。多摩市スポーツ振興課の小泉瑞穂課長が説明する。

 市は2022年度から、人工芝メーカーと公園のテニスコートの排水溝にフィルターを設置する実証実験を進めている。フィルターとして、1ミリの細かい穴が開いている金属製の箱、ヤシ繊維でできたマットの2種類を使い、排水溝に流れてきた1〜2ミリのMPをこし取る。

 環境調査会社「ピリカ」(渋谷区)が20年度に実施した調査では、港湾や河川、湖の水面から採取したMPは人工芝に由来するものが25.3%で最多だった。多摩市もこの調査に参加し、市内の河川の全4地点から人工芝が見つかったことを受けて実証実験を始めた。

 実験では、4カ月間でテニスコート2面分から約300グラムのMPを採取。市の推計では、1面分で年間10キロほどのMPが流出しているとみられ、取り組みは道半ばだ。

 実験結果を踏まえ、市は今年3月、テニスコートで多く使われている「砂入り人工芝」でのMP流出抑制策のガイドライン(指針)を策定した。フィルターの種類や設置方法、維持管理の課題、台風や豪雨時の対応策などをまとめている。砂入り人工芝用の指針は全国初という。小泉課長は「テニスコートからMPを外に出さない対策が大事。指針が全国に広がり、流出抑制に役立ってほしい」と期待する。

◆自作網を排水溝に設置すれば99%流出を止められる

 東京都三鷹市の国際基督教大(ICU)の小林牧人特任教授(環境科学・生物学)らの研究チームが、サッカーグラウンドなどで使われる長さ5センチ以上の「ロングパイル人工芝」から出るマイクロプラスチック(MP)の流出を、99%以上抑制できる仕掛けを作製した。1個作製するのにかかる時間は2〜3時間で、材料費は約3000円と安価につくれることが特長だ。

 仕掛けは、ホームセンターで買った網目の大きさが0.9ミリのステンレス製の網と銅製の針金で作った袋形。ICUの人工芝グラウンドを囲む水路の排出口のパイプに仕掛けをかぶせて実験し、MPが年間計5.6キロ流出するのを、ほぼ抑制できると推計した。

 仕掛けは昨年末、ICUの人工芝グラウンドのすべての排水口4つに設置した。小林特任教授は「まずアスリートに自分たちが環境へ及ぼす影響について意識を持ってほしい」と語る。

 体育施設出版(東京都千代田区)の調べでは、今年3月までにロングパイル人工芝を導入した施設数は、張り替え実績を含めて全国で4434カ所に上るという。