【取材の裏側 現場ノート】パリ五輪開幕まで100日を切った。開会式はセーヌ川が舞台で、約1万人の選手が船に乗って下るユニークなもの。一方でテロの懸念もあり、代替案も出されている。

 五輪の開閉会式は長時間に及ぶ。これまでさまざまな大会の式典を見たが、最も飽きなかったのは、2012年ロンドン五輪だ。忘れられないのは開会式での一場面。会場の大型ビジョンにダニエル・クレイグ扮する「007」のジェームズ・ボンドがバッキンガム宮殿を訪問する場面が映し出される。

 ボンドはエリザベス女王を開会式会場までエスコートする任務を請け負っており、両者はヘリコプターに乗ってロンドンの名所を通過しながら会場へ向かう。すると実際に、会場上空にヘリコプターが出現するではないか。「え〜!」と驚いていると、女王とボンド(実際はスタントマン)がパラシュートで落下。会場の貴賓席に本物の女王が姿を現し、大歓声に包まれた。

 英国オリンピック委員会はエリザベス女王が22年に死去した際に、この演出のエピソードを公開。女王の役はそっくりさんが務めることを前提にバッキンガム宮殿に許可を求めたところ「こんばんは、ボンドさん」というセリフを言うことを条件に女王自身が出演を希望したそうだ。

 記者の周囲でスポーツにはさほど関心がない人でも「あのボンドとエリザベス女王の場面は覚えている」という声もある。また、閉会式でもスパイスガールズやワン・ダイレクションが登場して熱演。いずれもロンドンという都市をアピールする魅力的な式典だった。

 今夏、セーヌ川での開会式が実現すれば、競技場以外での開会式は史上初の試みになるそうだ。場所はどこであれ、誰もが楽しめる、平和な式典を望む。

(スポーツ担当・中村亜希子)