県立郷土館(青森市)は9日、「アオモリゾウの象牙」として同館に収蔵されていた化石を調べた結果、県内ではこれまで確認されていなかった大型の水生哺乳類カイギュウの肋骨(ろっこつ)片だと判明したと発表した。化石は77年前の1947(昭和22)年、深浦町関地区の約300万年前の地層から採取され83年に収蔵品となったが、詳細については長らく未調査だったという。カイギュウの化石は全国で北海道や山形県など四十数例が確認されている。

 今回判明したカイギュウの化石は幅14センチ、破断面の直径6.3センチの大きさで、重さは520グラム。日本国内で発見例があるジュゴン科のうち、寒冷化に適応して進化した「ヒドロダマリス属」の一種で、体長7〜10メートルの大型と推測される。

 化石は、青森師範学校で博物学を教えていた和田干蔵(かんぞう)氏(1889〜1981年)が採取現場に近い修道小学校の校長から譲り受けたものといい、表面に貼られていたラベルには「象牙の一片(アオモリゾウ)」「西郡深浦町大戸瀬(貝化石採掘場)」などの文字が手書きで記されていた。

 同館は収蔵資料の整理作業を進める中で、象牙の特徴である断面中央の穴がない点に注目。国立科学博物館(東京)などの協力を得ながら一から調べ直したところ、形態的特徴や骨の組織が国内の他地域で見つかったカイギュウの化石と一致することを突き止めた。

 化石が採取された一帯は約300万年前、深海で寒冷な環境にあったとされ、浅瀬に生息していたカイギュウの骨が貝などを含む砂と一緒に流れ下って堆積したと考えられるという。

 9日、青森市の県総合社会教育センターで調査結果を発表した島口天(たかし)副館長は「青森県の地史に新たな種を加え、ボリュームをもって紹介できる」と説明。ラベルにアオモリゾウの象牙と記されていたことについて、「当時は日本からカイギュウの化石が出た例がなく、先に産出していたアオモリゾウの牙とした可能性がある」と推測した。今後は化石が採取された付近の地層を調査する予定。

カイギュウ カイギュウ目に属する水生の草食性哺乳類の総称。前肢(ぜんし)と尾がひれ状で、後肢(こうし)は退化・消失した。姿はクジラに似ているが分類上はゾウに近い。熱帯や亜熱帯に生息するジュゴンやマナティーが有名。寒冷化に適応して大型化したヒドロダマリス属は近代に絶滅したとされ、化石は北海道で820万年前の「サッポロカイギュウ」、500万年前の「タキカワカイギュウ」が見つかっている。