【ノースヒルズと日本ダービー/3=最終回】

騎手・福永祐一の願いをかなえたコントレイル
騎手・福永祐一の願いをかなえたコントレイル

 40代となり、調教師の道を真剣に考え始めた騎手・福永祐一にとって最後の願いがあった。

「競馬史に名を残し、さんぜんと輝き続けるような“特別な馬”との出会いを望んでいるところがあった。本当にそれだけを願っていたんです」

 岡部幸雄ならシンボリルドルフ、武豊ならディープインパクト。代名詞になるようなパートナーの存在――。2019年秋、初めてまたがったデビュー前のコントレイルには、まだその運命は感じていない。

「当時は、とにかくスピードにたけていて、短距離馬だと思いました。瞬間的な気難しさを出すところもあり、そこから距離を持たすのは難しいなと思ったんです」

 そんな馬が翌年クラシックを席巻。無敗で皐月賞を勝ち、福永は史上11人目のクラシック完全制覇。そのままダービーも踏破し、父ディープインパクト以来史上7頭目となる無敗の皐月賞・ダービー2冠という快挙を達成した。

 スピードばかりが目立った馬が歴史に残る名馬に。その陰にあったのは良き理解者だ。「(生産者)ノースヒルズの前田幸治代表と矢作先生のお2人が全て任せてくださった。だからこそ、担当の金羅君(調教助手)、大山ヒルズの齋藤(ゼネラル)マネジャーと連携を取りながら、一心につくり上げることができたと思っています」

 その後、菊花賞も制し、史上3頭目となる無敗の3冠馬に輝いたコントレイル。引退レースとなった21年ジャパンカップは後続を突き放す圧勝で最高の幕引きとなった。

「今の時代、騎手という立場であれほど一頭の馬に深く関われることなんてめったにありません。コントレイルは、牧場、厩舎、ジョッキーが三位一体となってつくり上げた3冠馬なんだと胸を張って言えます。どんなことがあっても僕とともに歩むと言っていただけたから、僕もそれまで培ってきた全てをコントレイルに注ぎ込めた。もう、これ以上はないと思える経験でした」

 ジョッキー・福永祐一の最後の願いをかなえた馬は、福永祐一の人生を変えた馬でもあった。

著者:東スポ競馬編集部